月
アイツは月に似ている。
見るたびに形を変え、色を変え。
近いようで、決して手の届かない夜空の向こう。
裏側を見ることも叶わぬ月は、それでも夜道をただ、静かに照らす。
手に入れてぇ・・・・・・
万人に平等な月の明かりを。
仲間を優しく見守る彼の眼差しを。
この手に閉じ込めて。
誰にも見られないように。触れられないように。
自分だけのものにしてしまいたい。
捕まえようと伸ばした指に力を籠める。
届くはずもない夜空の月に焦がれる想いはなんなのか・・・。
「・・・・・・ん・・・?」
ふと身じろぐ気配に目を遣ると、隣で眠っていた人物が目を覚ましたようだった。
「わりぃ、起こしちまったか?」
静かに声を掛けると、彼は気恥ずかしそうな笑顔を見せた。
「んゃ、だいじょぶ・・・・・・みず・・・くれ」
強請られるままに、グラスに水を注いでやる。
さっきまで散々痴態を見せられ煽られたせいで。
彼の掠れた声や気だるげな仕草に、再び熱を持ちそうな己を叱咤した。
「しっかし、おめぇがあんなにサカるとはなぁ・・・?溜まってたんか?」
ニヤニヤと、人を食ったような笑みを見せるコックからは、先程までの乱れようは感じられない。
( どんだけヤってなかったと思ってやがんだ!! )とか
( 溜まってたのはおめぇもだろ )とか
( あんなにひんひん鳴いてたくせに、よく言うぜ・・・ )とか。
思ってはみるものの。
口に出せば倍・・・否、十倍になって返ってくるだろうから、剣士は眉間の皺を深く刻んだだけで堪えた。
久しぶりの情事に、いつになく燃えてしまったのはお互い様だ。
普段はしおらしさの欠片もないコックだが、夜、ゾロの腕の中に居るときだけは、その表情を艶やかに変える。
今宵の月の味は、また格別だった。
「なぁ、さっき、なにしてたんだ?」
隣に腰掛けたサンジが尋ねる。
「さっき・・・?」
「おれが、目ぇ覚ましたとき。こう・・・手伸ばして」
夜空に腕を掲げる彼を、ゾロは目を眇めて見た。
「あぁ・・・ちと、月でも盗んでみようかとな」
「・・・ふぅん?」
眩しいものを見るようなゾロの目に、サンジはちょっと拗ねた顔をして俯いた。
「で?月は手に入ったのかよ?」
夜空に昇るあの満月を。
手に入れられるわけはないけれど。
「・・・それは、おまえ次第、だな」
抱き寄せた、愛しい男の月色の髪に、優しいキスを落とした。
END 2007.雪城さくら拝
お読みいただきありがとうございました。
→対のSS 『太陽』 サンジ視点
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