太陽



 ふと目を覚ました先に、夜空へ向かって手を伸ばす恋人の姿。


 愛しそうな、眩しそうな眼差しで空を見つめている。


 (・・・なにやってんだ?)


 「わりぃ、起こしちまったか?」

 空を見上げていた優しい瞳のまま声を掛けられて、気恥ずかしくなりながら、重い上体を起こす。

 「んゃ、だいじょぶ・・・・・・みず・・・くれ」

 うわ、自分の出した声が酷く掠れてやがる。

 さっきまで、散々喘がされてたからなぁ・・・。

 素直に水を差し出す男の瞳が、何故か紅く滲むのが視界に入り、途端に先程までの情事が思い出される。

 久しぶりとはいえ、我を忘れてのめり込んでしまった。

 誰が来るかもしれない、こんな船の上で、乱れに乱れた己の姿を思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。


 途中からはもう、訳が分からなくなって、『もっと・・・』とか、『イイ・・・』とか、散々喘いだ気が。。。

 
 あぁあああ・・・クソ、思い出すんじゃなかった・・・



 赤くなりそうな顔を必死で取り繕い、
 「しっかし、おめぇがあんなにサカるとはなぁ・・・?溜まってたんか?」
 自分の痴態は棚上げに、ニヤリと笑って囁いてやる。

 眉間に皺を寄せてムッとしたような剣士。
 その顔も結構クルな・・・とか思ってしまうのは、もうこれ以上ないってくらい惚れてるからなのか。




 ・・・大体、おめぇが悪い。

 サンジを求める熱い手も、低く掠れた声も、そのときだけ呼ばれる名前も。

 全てが、サンジをダメにする。

 サンジの意思を、グニャグニャに蕩かすのは、いつだってゾロなのに。

 余裕ぶっこいて笑う剣士が憎らしい。

 せめてこれくらいの意地悪・・・されてろよ。


 

 ゾロの隣に腰掛け、ふと、先程のゾロの行動を思い出し、何気なしに聞いてみた。

 「なぁ、さっき、なにしてたんだ?」
 「さっき・・・?」
 「おれが、目ぇ覚ましたとき。こう・・・手伸ばして」

 ゾロがやっていたのを真似て、片手を夜空へ掲げてみせる。


 その瞬間、ゾロの瞳が、優しく細められて、少し驚いた。
 

 「あぁ・・・ちと、月でも盗んでみようかとな」


 「・・・ふうん?」
 あぁ、その目は、月を見てたのか。

 
 手の届かない月を、そんな目で・・・。


 隣に・・・おれがいるのに・・・。



 「で?月は手に入ったのかよ?」

 拗ねてるわけじゃない。決してないが・・・。
 なんだか声がぶっきらぼうになってしまう。

 ・・・いいじゃねぇか、こいつが何を手に入れようが。
 世界を目指す男だ。
 その気になりゃ、月だって、その手に納めちまうかもしんねぇ。

 

 その時、こいつの隣に、おれはいられるだろうか。



 あの、太陽のような眩しい笑顔を、向けてくれるだろうか。



 (・・・ちっ、ガラでもねぇ)



 自嘲気味に俯いたままの頭を抱き寄せられ、



 「それは、おまえ次第、だな」



 優しく囁かれて、髪に口付けを落とされ。



 弾かれるように見た剣士の顔は、とても愛しげで。




 (おれはもう、おまえのもんだよ・・・)




 愛しい男の唇に、キスを返した。











*******************








 「ったく、まだやってるわよ、あのふたり」

 「そうねぇ、でも、幸せそうね。剣士さんもコックさんも」

 「ふあ〜ぁ、夜更かしはお肌に悪いのよ・・・」

 「だから、剣士さんに見張り、替わってもらったんでしょ?」

 「ルフィたちに飲ませたお酒の代金は、あの馬鹿にツケとくわ」

 「ふふふ、高くつくわね」

 「それでも、安いもんでしょ?サンジくんとのひと時に比べればv」

 ここぞとばかりにデバガメ・・・

 もとい、二人っきりになる機会がなかなかなかった恋人たちの心配をしていた航海士と考古学者が、


 欠伸をしながら女部屋へと戻っていくのは、もう少し後。






   END    2007.雪城さくら拝





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