優しくしてね?

  【 3 】




(ああぁぁぁ・・・ゾロを信じたおれのバカ!)

両手首に嵌められた、ピンク色のファーのついた手錠を、ほぼ涙目になりながら眺めて思う。

「ほら、して欲しいことあったら言ってみろ。なんでもしてやるぜ?」

ニヤニヤと、もうおまえ、ほんっとアレだよな!!な笑みを浮かべながら言うゾロに、

「じゃあ!これ外せよ!」

「あぁ、却下」

(もう馬鹿!!この人ほんと馬鹿!!大好きだけど、今日だけは、ゾロのバカ〜〜〜ッッッ!!!)

サンジは心中で、目一杯罵り続ける。 バカ、以外の言葉なんてもう思いつかなくても。

だってそうしていないと、パニックになってしまいそうなのだ。
これからされることへの恐怖で・・・・・・いや、もっと別の感情かも知れないけれど。とにかく、混乱を呼ぶことには違いない。

「なんでぇ?ゾロ・・・なんでも、言うこと聞くって、言ったじゃねぇか・・」

恨みがましく見つめてみても。

「あ?違ェよ。俺はな、『してほしいことを、なんでもしてやる』つったんだ」

「・・・どう違うんだよっ!おれは、手錠掛けてv なんて言ってねぇじゃねーか!つか、この手錠、前にナミさんが送ってきたやつだろ?なんでお前が持ってんだ!」

「・・・あー。うるせぇ」

ゾロは、わめくサンジを面倒臭そうにベッドへ押し倒すと、そのまま腕をとり、留め具のようなもので、手錠とベッドの枠を固定してしまった。
・・・らしい。
なにしろ両腕を頭上で一纏めにされてしまって、自分では見えないため、予測でしかないが。
ためしに引っ張ってみても、ガシャガシャと金具が擦れる音を立てるだけで、外れる気配はなくて。

「枕の下にあったぜ?こんなもんがソコにありゃ使うだろ。誰が寄越したもんかなんて関係ねえ・・・・つかだいたい、俺がテメェの可愛いツラ見てえと思って何が悪い」
「・・・はあ・・・。」
物事を、理路整然と(?)説明するゾロ、なんて、予備校の授業以外で初めて見た気がする。
普段は無口、っつーか、あんまり余計なことべらべら喋るタイプじゃないのに、こんなときばかり饒舌に。
・・・というか、ただ ぶつ切りに言葉を並べただけで饒舌に聞こえるほど、いつものゾロがいかに寡黙か知れるってもんか。

「―――って、ええ!?かわ、かわいいって・・・!!」

ぽかんとしていたサンジは、その最後の台詞に気付くと、どわああああっと一瞬で顔を赤く染めた。
その表情に、ゾロが不審そうに眉をひそめる。
「あ?何今更照れてんだよ。いつも言ってんだろうが」
「・・・い、いいいい、言ってません!!!!」
だだだ、だって、だって、エロい、とか、淫乱、とか、やらしい、とか、ぐるぐる、とか、
そういうのはいっぱい言われまくってるけど、(最後の以外は全部同じ意味だけど)
ゾロの口から、可愛い、なんて単語が出たの、初めてだっての!いやマジで!
「あー。そうだったか?いつも思ってんだがなぁ」
(〜〜〜うわ、わ、うわぁ、どうしよう!なんかすげぇドキドキする!)
ぽわぽわと上気した顔で見つめるサンジに苦笑すると、ゾロは、「さて。」と、上体を起こし、
頭上で両手を拘束され、肢体を桃に染めたサンジを眺めおろして、口を開いた。

「言えよ。して欲しいこと」

「・・・・・・・・・・・・・・」

『うぇえええ?』とか、『何言ってんのバカじゃねえ?!』とか、とにかく、何かを言いたいのに。
頭の中ではものすごくいろんなことをぐるぐる考えてるのに。
無表情に近い面で口の端だけを歪め見下ろされて、目が合えば、サンジの口からは言葉ひとつ、出てこない。
驚きに目を見開いて、ゾロを凝視するだけだ。

今までだってゾロは―――サンジがこれ以上もう我慢できない、というところまで焦らしてからではあったが―――どうされると感じるかを言わせたり、挿入をサンジ自ら強請らせたり、そして耐えようもなく恥ずかしがるのを見て、楽しんでる節はあった。
きっとそういう、イジワルなことをするのが好きなんだろう、とも思っていた。・・・と言うか、現在進行形で思っている。

今言われてることも、それを考えれば、道理にかなっている。・・・か?

つまりは、サンジの方から、してほしいことを言え、と。 
しかも、いやらしい方向で。
それは分かった。・・・いや、ほんとは全然分かりたくなんてねぇんだけど。
ってかそれ、どんな誕生日プレゼントだよ!?
えーと・・・。
「手錠はず」
「無理」
「はやいっ!」
二度目のお願いを言いかけたところであっさりと却下されて、思わずツッコむ。

「他のにしろ。あと、あんま暴れてっと、痕残るぞ」
言いながらゾロは、サンジの手首に嵌る手錠を指した。その無感情な言い方に、サンジの額にふつふつと血管が浮き上がる。
「・・・あのな。すっんげぇどうでもいいことみてぇに言ってるけど、その痕残る原因作るのは、おまえだっつーの!」
「だから、わざわざ柔らかそうなの選んでやったんだろうが。おめぇが大人しくしてりゃ、痣なんざ一日で消える。」
「んなこと言われたっ・・・・・・んぁ?」
「―――・・・あァ?」
サンジが、眉を顰めて疑問符つきの声を発したのに、ゾロがしばし間を開けて動きを止めた。

・・・なんだろう、今のゾロの台詞に、なんとなく、違和感を感じたんだけど・・・
・・・でも、どこがおかしいんだっけ?

反芻しようと、視線を巡らせていると、急にゾロが、それまで放っておかれたサンジの胸先を指でつまんできた。
「わぁう・・っっ!」
さっきまで、ゾロの舌で濡らされ弄られていた乳首は、その刺激だけでまた、すぐに硬度を取り戻しきゅんと尖る。
ころころと指先で転がされ、はじかれて、サンジはびくびくと体を震わせた。
「ン・・・ふゃっ、あぁ、ゾロ・・っ・・」
「ほら、早く言わねェと・・・・・噛んじまうぞ?」
耳元に、唇をギリギリまで近付けられ、息を吹き込みながら、甘い声で意地悪く囁かれる。
ふいに視界が潤み、ぞくりと背筋が震えたのが、怯えなのか・・・・・・期待からなのか、自分でも境界が分からない。
「やぁ、だめ・・・噛むのやだぁ・・っ」
思わず咄嗟、ゾロを押し返そうとして、気付いた。それが不可能なことに。

(あ、手錠・・・っ)

ベッドに留めつけられたままの両手。
腕が動かせないのでは、口だけで拒否したところで、抵抗にもなりはしない。
―――まさかとは思うが、このために・・・サンジに行動で阻止させないように、拘束したのだろうか、ゾロは。
それとも、意地悪したいだけ? もっと別の理由?
窺うように見上げても、やっぱり、こういうときのゾロは、何を考えているのかよく分からない表情をしていた。

少しだけ弄られたままの乳首は、じんじんと、刺激を求めて鈍く疼き続けている。
いつもは、気づいたらゾロに剥かれて、気づいたらとろとろにされてたから・・・
今のこの状況をどうしたらいいのか全然分からない。
羞恥心はもとより。いやらしい奴って、呆れられたらどうしようとか、そんな不安も捨てきれなくて。

なのに、ゾロはそれ以上触れず、サンジの言葉を待っているようだ。
もしかすると、サンジが自分から強請るまで、本気で何もしてこない気なのかもしれない。


半端に弄られるだけで。一瞬だけの快感を残して放り出すなんて


・・・・・・じれってえ。もっと触ってほしいのに。


ほんとは、もっとちゃんと・・・


「ゾロ・・・おねが・・・・もっと・・・くっついて」

抱きつけない、抱き寄せてもらえないもどかしさに、甘えた声音で恋人を呼び寄せる。
静かに眼を細めたゾロが、サンジの願い通りに、生の肌を合わせ抱きしめた。
(ぬく・・・)
心地いいゾロの高めの体温がサンジの身体に覆い被さり、ほっと安堵の息をつく。

「あとは?」
耳元で甘くいやらしく囁かれ、「ふぁ・・っ」と思わず声をあげたサンジに、ゾロは薄く笑って、そのまま耳穴に舌を刺し込んだ。
「あぁっ・・・んん・みみ・・っだめえ・・・んぅっ」
ゾロの舌で敏感な耳の内部を舐められ刺激されて、
「さっきからソレばっかだな。ん?ダメか?」
「ーーーンッ!だめ、じゃ、ねぇ・・っけど、っ」
そうじゃなくて、だめなんだけどだめじゃなくて。
内側のとこ、気持ちよくて、それだけで、
「また・・・タ・・・ちそ、だから・・っ」
「・・・あぁ、ほんとだな」
サンジの言葉に、視線だけ下におとしてゾロは楽しそうに囁く。
「・・っぁや、うそ、見んな・・ぁっ!」
今更ながら羞恥に頬を染めてそこを隠そうとしても、両手を縛りあげられてるのに出来るはずもなく。
ゾロに耳舐められてるだけで勃起する、なんて、快感に弱すぎるにも程がある。恥ずかしい。
なのに、
「・・・お前に、ンな可愛いこと言われて・・・俺が見ねぇわけねえだろ」
苦笑半分でゾロは言うと、耳に舌を挿し入れたまま、サンジの陰茎へと手を伸ばした。
「・・・ふええぇ!」
そのまま指先で絡めとられ、サンジは焦って裏返った悲鳴をあげる。
いいかげん放っとかれっぱなしだった一番敏感な部位は、ようやく触れられて嬉しそうに更に頭をもたげた。

「なぁ、どうして欲しいか、ちゃんと言えよ。でねぇと、もっと色々イタズラすんぞ?」
「い、イタズラって・・! いろいろって・・!?」
やっぱり悪戯してる自覚はあったのかこの野郎、と頭の隅で思ったが、それよりも『色々』の部分に意識を取られてしまう。
今だって、これまでだって、しこたま十分すぎるほど意地悪されてきてるのに。
「な・・なに、する気だよ、これ以上・・・っ」
「さぁな。・・・何されると思う?」
言うと、ド変態・・・・もといゾロは、ニヤリと口角を上げて笑う。
その表情に。反射的にサンジの身体がゾクゾクと疼きを訴えるのは、今までされてきたコトを思い出しての、期待からだったけれど。

素直に認めてしまっても、いいのだろうか。

「してほしい、こと・・・言ったら、ゾロ、怒りそうで・・・ヤダ」

言いたくてもためらって、結局飲み込んでしまった要望があるのだと、伝えても。

「オマエが我慢して何も言わないほうが、よっぽど酷いことになると思うがな?」
片眉を上げ、からかうような言い方で。
それは、つまり
「ちゃんと言えたら、おこんない・・ってこと?」
「当たり前だろ。俺から言いだしたプレゼントだぞ。ンな理不尽な真似しねえよ」
「・・・・・・・・・・・・・」

やばい、全く信用できない。
じゃぁ今、無理やり強請らされようとしてるこの状況は理不尽じゃねえのか。やってること無茶苦茶だぞテメエ。
・・・もうほんと、なんでこの人こんななの。
呆れ半分、諦め半分で思っていたら。

「それにいつも・・・俺ばっかシテぇみてえじゃねーか」

珍しく拗ねたような口調でゾロが言った。

その言葉が胸に届いて、サンジの心臓が苦しいほど、ぎゅうぅと締め付けられる。

どうしよう、可愛い、とか、いとしい、とか、おれだって、とか、

ぐちゃぐちゃに混じり合った感情が、甘く痛みを伴って。

「・・・・・・ばか・・・」

そんなこと、あるわけないのに。
おれだって・・・・ほんとは・・・

ようやくサンジは、小さく口を開き、そこで息を吸い込んだ。
熱く乾いた喉が、ひくりと鳴る。

「あのな、・・・ゾロ・・・・・」


掠れ出た声を受け、顔を上げたゾロの眼が、熱っぽく細められたのを見て、不思議な昂揚に包まれる。

(あぁ・・・おれ、やっぱりゾロが好きだ)

それまで感じていた恥ずかしさも、怖さも。 驚くほど一瞬で吹き飛んでしまうほど。
胸の奥に火が点るかのように、鼓動が速まり、サンジの熱も増した。

心の中が、熱くて。

たとえどんなことをされても、それでも、どうしても。

その眼が―――ゾロがおれのことを欲しがってる、この瞬間が。

泣きたいぐらいたまんねぇ。


ゾロが、おれを縛って、この状態で何をしたいのか、まだよく分かんねェけど、

だけど、もう、


強請らせたいなら、いくらでも。





******************************





4へ

ゾロは、ちょっとアレな人なだけでド変態ではありませんよv(笑顔で)