優しくしてね?

  【 2 】



結局、ケーキと御馳走は、明日用意しようということになって―――ゾロは、「せっかくの誕生日だ。外食にするか?」と聞いてくれたけど、サンジが自分で作りたいから、と言ったら苦笑された。

そして夕食の後、風呂に入って、いつものようにゾロの膝の上でテレビを見ているときに言われた。

「今日はおめぇのしてほしいこと、なんでもしてやる」

それが、ゾロからの誕生日プレゼントなんだそうだ。

期間は零時きっかりから、三月二日が終わるまで。

プレゼント、といえば、物を贈ることを思い浮かべそうだが、そういうのが苦手なゾロらしい。
今まで―――付き合う前だって、サンジの誕生日には、飯おごってくれる、とか、酒用意してくる、とかだった。
まあ、その頃はただの友達だったんだから、それでも充分ありがたかったんだけど。
でも、何かしようと思ってくれるだけで、サンジは幸せだし、すごくうれしい。

でもけっこう、いつも、してもらってると思うんだけどなぁ。

食後の片付けや洗い物だって率先してやってくれるし、家事とかも、まぁまぁ手伝ってもらってるほうだし。

ゾロにしてほしいこと・・・してほしいこと・・・・うーん・・。


(・・・あ、)


してほしいこと、と言われて。

ふと脳裏をよぎった『例のブツ』に、サンジは慌ててぶんぶんと考えを振り払った。

「ん?どうした、何かあるか?」

「う、ううんっ!なんでもねえ!」

(やばいだろ、それはあまりにやばいだろ、タイムリーすぎるだろ)

だって、いままでその存在すら忘れかけていたのだ。
それなのに、たまたま見つけてしまったのが誕生日前日で、その夜に、ゾロのほうから『なんでもしてやる』、なんて・・・。
何の運命の悪戯か。
それに・・・っ
(おもちゃ使ってエッチしてほしい、なんておれは思ってねえってば!)
とサンジは、無理やり自分に言い聞かせた。

使った・・・いや、使われたのは、何ヶ月も前に一度だけ。
なのに、刺激が印象的すぎて、今も体が覚えている。
おもちゃそのものの刺激ではなく、
あのとき、ゾロにされたことを。
意地悪で、少し怖くて。わけわかんなくなってるのに、やめてくれなくて。
・・・たまに思い出すだけで、ゾクッと背筋が痺れるような、悪寒に似た感覚が走るのを、必死でやりすごしているのに。
ぜったいにもう二度と、アレやっちゃったらダメな気がする!と分かっているのに。
なのに、ゾロにそれをお願いするべきか、せざるべきか。迷っている自分が確かにいるのだ。


時刻は、もうすぐ零時。


「・・・ゾロ・・・」

呼びかけが自然と、甘えるような声になっているのに、サンジ自身も気づいた。
声だけじゃなくて、なんだか勝手に目も潤んでるような気がする。
体勢を変え、体半分ゾロのほうに向きなおると、恋人が、赤く染まる眼を細めた。
クっと喉を鳴らし、試すように顔を近付けるゾロに、サンジは自ら唇を寄せる。
ちゅ、と乾いた柔らかな唇を触れ合わせ、腕を胴体に巻きつけると、

「あぁ、ソッチ方面か、してほしいことって」

ゾロが楽しそうに笑う。

「・・・だめ?」

「いや、大歓迎。・・・つーか」

言いながら、ゾロはサンジの体を持ち上げると、ひょいっとそのまま起き上った。

「ん?つーか、なに?」

無駄に怪力なサンジの恋人は、ふらつくこともなく正確に寝室のほうへと歩を進める。サンジを抱えたまま。

「んな顔で聞かれて、」

片手で器用にドアを開け、中へ入るその間も、サンジの心臓は期待と、少しの羞恥で徐々に大きく弾んでいった。

「駄目だと言える奴がいたら見てみてぇもんだ」

「わぅ」

ぼすん、とスプリングのきいたベッドに横たえられる。

(〜〜〜て、そんな顔ってどんな顔!)


たしかに、はじめの頃は、十分の七ぐらいの割合で痛みの方が勝っていたのに、最近ではもうその痛かったころを思い出せない。
男に抱かれることに慣れた体に、作りかえられてしまったみたいに。
・・・・・・いや、違う。男に、じゃなくて。

ゾロに、抱かれる体に。

ゾロとのセックスを待ちわびて、キスをしたり触られたり、サンジのほうから触ったり。
受け入れて、ゆさぶられることに、愛されることに、もうこれ以上ないほどの幸せを感じる体に。

そうしたのはゾロで。 そうされることを望んだのはサンジで。

だから、サンジの表情は、一緒にいる間はぜんぶ、ゾロが引き出しているものなのに。

「すっげェ、エロい顔」

考えを読んだかのように、ゾロが口の端を上げて。顔を近付けてくるから自然と、サンジの唇が開く。
軽く唇を合わせた後、ぬるっと柔らかい舌が挿しこまれ、粘膜の擦れあう感触に、「んぅ、」と息を漏らした。
ゾロに、口の中や舌を舐められるたびに、びりっとしびれるような刺激が襲うのを。
上あごを、舌の先でくすぐられて、体が勝手にブルと震えるのを。
たったそれだけで、頭の奥がぼおっとなってくるのを、知られたくなくて、サンジは呼吸を荒げながらやりすごす。

そうしている間も、ゾロは器用にサンジのパジャマを脱がせにかかった。
普段はなかなか物ぐさなくせに、こういうときだけは、驚くほどの手際の良さを発揮するのだ、この男は。
(おれは、まだ、いつも、恥ずかしくて、どきどきして、たまんねぇのに。)
ゾロは・・・手慣れてるんだなぁ、と思うと、ものすごく、悔しくてたまらなくなるけど。
自分とこうなる前にいた人の影に、たまに嫉妬で気が狂いそうになるけど。
(だって過去のことだもん・・・しょうがない・・・ことだよな・・・)
ゾロに、めいっぱい愛されてる、のは知ってる。
けどそれとは別に、やきもち妬いてしまうのも・・・好きだから、しょうがない、だろ?
ちょっとだけ寂しくなってしまったサンジは、ゾロの舌に少しキツめに噛みつくことで、鬱憤を晴らした。
「―― ッ!」
驚いたのか痛かったのか、一瞬、手の動きを止めたゾロだったが、すぐに何食わぬ顔でサンジを裸に剥いてしまった。

キスをしたまま、またベッドに押し倒され、でかい手のひらで、脇腹をなでられる。
くすぐったくて、熱くて。ふくんっ、と鼻にかかった声をあげて、サンジは身をよじった。
ゾロの唇が首をなぞり、胸へと降りてくる。尖りかけの乳首をぬろーっとねぶられて、
「ひゃあ、んっ」
ジン、と痺れる甘い刺激に、高い声をあげてしまった、刹那。

背筋をそらし、ベッドに沈み込んだ拍子に、

枕元で、カチャンと軽い金属音がした。

「・・・ぁ?」

(なに、いまの音?)

不審な顔をして見上げると、ゾロも気づいたのか。
サンジの頭上、ちょうど枕の下へと無造作に手を突っ込んで探る様子がうかがえた。
「ゾロ・・・?なに・・―――アっん!」
質問してるのに、何かを見つけたらしいゾロが、無言でサンジの乳首をぎゅうっと捻るから。
逃げをうつ体が、上へずりあがろうとするのを、片手で腰を掴まれ引き寄せられる。
「・・っン、や・・」
肌に喰い込む指にまで感じてしまうサンジに、ゾロは意地悪そうな笑みを向けて。ちゅぷ、と音をたてて乳首を吸われた。
「あぁぁっ・・ゾロ、熱・・っ」
唾液を絡めながら、舌先ではじかれて。
とがりきって、ぷつんと上を向いてふるえる乳首を。
「んんん、ア、ンぅ、っ!」
それだけの刺激で、サンジの背がガクガク痙攣するようにしなった。
キスをしているときから兆していたサンジのペニスは、今もうはっきりと天井を指している。
なのに、ゾロは、胸への愛撫を半端に中断すると、口の端を手の甲で拭った。
「や・・ぁっ」
熱い舌が離れ、急に外気に触れた尖りが、冷えた感覚を残してきゅんと縮こまる。
身を起して、サンジの肢体に視線を落とし、眼を細め。
「エッロい顔・・・」
「な!、ッ」
その面白がるような言い方に一瞬だけ、バカにされてんのか、と思ったけど・・・
ゾロの、赤みを帯びた目尻に、それ以上言葉を紡げなくなってしまった。
身に纏うものもないため、サンジはゾロにすべて晒している。ひときわ濃く色づいて勃ち上がっている陰茎も、その奥の秘所も。

ぜんぶ、見られてる。その眼で。

「や・・だ、ゾロ・・・見んなっっ」

どんなにセックスの回数を重ねようが、体は快感を覚えようが。
慣れるわけがない。いつまで経っても、恥ずかしいもんは恥ずかしい!
なのに

「ああ、そりゃ残念。あとちっと遅けりゃ、聞いてやれたんだがなァ」
「・・・はぇ?」
ゾロの台詞の意味が分からなくて、きょとんと問い返すと、

急にベッドサイドの目覚まし時計が、ピピピピッ、ピピピピッ、と場違いな電子音を発しだした。

「―――わ!びっ・・くり、した・・・なに?」

いきなりの音に驚いて、サンジはガバッと起き上がる。

「・・・誕生日。おめでとう、サンジ」

ゾロに、優しく頬を撫でられながら言われ。

「あ、そっか・・・ゾロ、ありがと」

零時に鳴るように、アラームをセットしててくれたんだ、ってことに気づいて。

嬉しい気持ちを抑えられなくて、サンジははにかんだ。


一緒に暮らしだして、初めてのおれの誕生日だからって。
こういうの、苦手なくせして。
ちゃんと覚えて、祝ってくれようとしてるゾロに、すごくすごくうれしくなる。
たまにかなりアレな人だけど、やっぱり、ゾロは優しくてかっこよくて・・・。

「サンジ、目ェ瞑って、手、出してみろ」

「え、あ、う・・ん・・」

言われて、素直に目を閉じて両手のひらを上にして、前に出す。

(もしかして・・・ほんとは、プレゼント、用意してくれてた、とか? やだなぁ・・なんだよそれ・・・嬉しいじゃねぇか)

ガチャ。

ほわほわと幸せを噛みしめていたサンジの耳に届いたのは、

軽い金属が擦れあうような、そんな音だった。

次いで、もう一度同じ音がして、両の手首に、柔らかいものが触れる違和感と、かすかな重みを感じる。

(・・・・・・・・・・・いやな、予感が、するんだけど)

――――――分かってる。

ゾロに何されてるか。そんなこと、目を瞑っていても、もう分かってるのだ。

ただ、頭では理解しても、心の底から納得できないだけで。

ちょっと期待してしまったぶん、数秒前の自分を罵ってやりたい衝動に駆られているだけで。


というか。


罵ってやりたいのは、目の前にいる、意地悪な恋人のほうだったが。



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3へ


てか今後、たぶんエロしかありません(わあ)