チビゾロ出現から3日目。
クルーみんなにブーブー文句言われながらも
船のコックはまだチビゾロに夢中。
ちっちゃいゾロを召し上がれ♪ 3
「最初はあいつが一番疑ってたのにな。なにがどうなってあんなことになったんだ?」
狙撃手が呆れたように航海士に尋ねる。
二人の視線の先には、甲板で仲良くお昼寝するサンジとチビゾロの姿。
「そんなのこっちが聞きたいわよ。・・・サンジくん、おやつの時間も忘れてるみたいだし。ちっちゃいあの子はサンジくんにしか懐かないし。ほんとどうしちゃったのかしら」
こんな機会でもないと、普段ちっとも休もうとしないコックが昼寝の間だけとはいえ、ゆっくりと休養をとれるのはいいことだと思うけど。
あんな幸せそうに眠るサンジを、叩き起こしておやつをねだるなんてマネはしたくないけど。
「で、アレ、誰か起こしに行く?」
「・・・・・・俺が行く」
影ボス、ナミの言葉に、動いたのはルフィだった。
『サンジーーーーーィィィィ!!おやっつ〜〜〜〜!!!』と叫ぶこともなく、この機に乗じてつまみ食いすることもなく。
ただ静かに立ち上がったその姿に、ナミもウソップも息をのむ。
「なんか、すげぇ船長っぽいな・・・」
「こっちも、どうしちゃったのかしら」
ルフィの背中を見送りながら、ナミとウソップが晴れ晴れとした空を見上げ、雨でも降るんじゃないか?と揃って呟いた。
「そうだな、ルフィだった。」
その後ろで、壁にもたれ酒を飲むゾロが小さく呟いた言葉は、誰に聞こえるはずもなく。
サンジは、肌寒さを感じて目を覚ました。
薄く開いた視界いっぱいに広がる、緑の芝生・・・もとい、チビゾロの頭。
あぁ、ゾロだ。
おれだけの、ゾロだ・・・。
もうその光景だけで、サンジは幸せいっぱい。
なにせ、いままでずっと焦がれていたものが、サイズは違うとはいえ この手の中にあるのだから。
サンジの腕枕ですうすう眠るチビゾロを
柔らかく抱き締め、噛み締める幸せ。
ずっと、ずっとこのままで、
大きく強くなっていくコイツを、そばで見ていけたら。
俺の料理が、形作るロロノア・ゾロと、ずっと一緒にいれたら・・・。
「なぁサンジ、そいつはおまえのオモチャじゃねぇぞ」
ふと頭上から聞こえた静かな声に、サンジはぎくりと身を震わせた。
麦藁帽子を目深にかぶった少年が、サンジとチビゾロを見下ろす。
「え、あぁ、ルフィ・・・悪い、寝てたわ。もうおやつの時間か?」
「んー・・・いや、それはいい。あとでいい。肉でいい」
「おやつだっつってんだろーがクソゴム・・・」
じろりと睨むと、ルフィは悪びれた風もなくしし、と笑い
急に真面目な顔になった。
サンジは、チビゾロを腕に抱えたまま、ルフィを見上げる。
「なぁサンジ・・・・・・おまえが見てるのはなんだ?」
ルフィの問いに、思わず言葉を失った。
「そいつは誰だ。そいつがゾロか、そうじゃねぇかなんて俺もしらねぇ。」
問いかける、というよりは、言い聞かせるようなその凛とした声に。答える術を持たないサンジは戸惑う。
「な・・・んのことだ・・・」
「そいつはオモチャでも人形でもねぇってことだ。お前の知ってるロロノア・ゾロは、別に居るだろ。ならそいつは、誰だ」
心のうちを見透かされたようで、ぐ と息をつめた。
こいつはゾロだ。・・・いや、ゾロじゃねぇ。でもゾロなんだ。
だから、おれは・・・・
・・・これがゾロだったら。
ほんとのゾロだったらどんなにいいかと。
おれだけを見て、笑いかけて、抱き締めて。
ロロノア・ゾロだったら、どんなにいいか。
どこかで、『こいつは偽者だ』と思いつつも、子供が初めて手に入れた玩具に執着するように、
手放せない。どうしても。
そんな醜い、心の中を、覗かれたみたいで。
俯いたサンジの視界を、褐色の腕が塞ぐ。
「おいサンジ苛めんな」
「あぁ、苛めてねぇよ。肉食わせろっつってただけだ」
サンジをかばうように船長の前に立ちふさがる緑髪の少年。
「俺は俺だ。ロロノア・ゾロ。それ以外のなんでもねぇよ」
「・・・そだな。おまえはゾロだ。それでいい」
挑むようにルフィに投げつけた言葉が、からかうようなルフィの答えが、サンジの耳に届いて
ようやく、サンジは立ち上がった。
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
チビゾロの肩越しに、じっとルフィを見つめる。
「・・・・・・分かってるよ、船長。おやつは肉な」
「・・・おぅっ!」
寂しげに笑うサンジに何を理解したのか、ルフィは「にっく〜〜〜〜〜!!!」とはしゃぎながら、そのままキッチンの方へと伸び跳ねて行った。
「肉強請りに来たのか?変わったやつだな・・・」
寝起きを邪魔されて不機嫌そうなチビゾロの頭を撫で、サンジはふわりと微笑む。
(あいつは、おやつ強請りに来たわけでも、仕事しろって言いに来たわけでもねぇよ。
言いにくいこと、言わせちまったな・・・)
「昼寝の時間は終わりだ。おれは船のコックだからな。クルーの食事は、ちゃんと出さねぇとな。」
そのまま、手触りのいい頭を引き寄せ、抱き締めた。
おれはコックだから。
ちゃんと仕事もする。
クルーのことも見る。
おまえのことも、ちゃんと見るよ、チビ。
振り向かない男の幻影を追うんじゃなく。
ゾロの替わりとしてじゃなく。
ちゃんと、ひとりの男として、見るよ・・・。
そんで、大きくなってずっと一緒にいても
いつか、おまえがいなくなったとしても
「サンジ?どうした、泣いてんのか」
「はっ、バーカ、おれ様が泣くかアホマリモ!」
ずるずると鼻水すすりながら涙声で言うサンジに、チビゾロは
泣くな、と きつくきつく抱きついた。
それを、キッチンの扉の前で、ずっと見ていた男。
ロロノア・ゾロは、「・・・そうか、明日か。」と呟いて酒をあおった。
暦の上では、もう3月になっていた。
4につづく
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