なんでこいつってば、おれにこんなに懐いてやがんだぁ?



 チビゾロが現れてから二日目。


 まだ、寄れそうな島は欠片も見えない。





  ちっちゃいゾロを召し上がれ♪ 2




 天気が良いので、飯の支度の合間に洗濯。

 洗濯も掃除も、今はサンジの仕事だ。


 この船のクルーは、サンジを含め5人。

 それぞれが、それぞれに役割を持っている。



 たとえばナミは、海図を書いたり気候を読んだり、頼りになる航海士として。

 ウソップは、細かい作業をさせれば、この船で右に出るものはいない。なので船の修理をしたり、武器を作ったり。

 ルフィは・・・・・・ここぞというときには働いてくれるはずだ、たぶん。


 そしてゾロは、・・・・・・身体鍛えるのにお忙しいってかそのわりに昼寝もいっちょまえにしてんじゃねぇよ!と二、三度蹴りを入れたくなるような男ではあるが、

それでも敵襲などの時には、いの一番に駆けて行く、剣士として、戦闘員としての役割を担っている。


 サンジも戦闘要員ではあったが、


 ナミさんはいつもお忙しいし、手を煩わすわけにもいかねぇ。

 ウソップが、船の修理に追われているのは大抵がゾロとおれのケンカのせいなんで、強くも言えねぇ。

 ルフィは、・・・・・・いつか役にたってくれるだろうと信じたいが、洗濯なんてさせようもんなら日が暮れる・・・どころか遊び呆けていつまでたっても終わらねぇ。


 ゾロは、しいて言えば一番暇そうなのだが・・・


 『よ〜ぅゾロ、洗濯手伝ってくれねぇ?』 なんて、頼めない。

 そんなむず痒いこと、口が裂けても頼めない。

 あいつは、『なんだ、一人でまともに洗濯もできねぇのか?』と薄ら寒い笑みを浮かべて言うに決まってんだ。

 あ〜〜それムカつく!!おれの想像なのにゾロすげェムカつく!!!





 そんなことを思いながら、搾った洗濯物を干していく。



 隣にチビゾロをぶら下げて。










 「・・・おい、だからくっつくなって。動きづれぇだろ」

 呆れ顔でそう言っても、腰にへばりついたチビゾロは、ぎゅうといっそう強く抱きついてくる。

 その幼い顔に、不安そうな表情を浮かべて。


 (・・・クソ、おれぁこんなんじゃ絆されねぇぞ!んな可愛い顔しても駄目なんだからな!!)

 「・・・あぁ〜〜。暇なら、洗濯手伝え。」

 けっこう絆されてるのに本人気付かないまま、搾った洗濯物を渡すと、チビゾロはきょとんとして、それから嬉しそうに頷いた。

 はにかんだような笑顔で。


 (・・・かわっ!!・・・・・)


 いくない!!ぜんっぜんかわいくない!!

 こんな得体の知れないゾロそっくりなガキなんて、ちっとも・・・っ!!




 「・・・・・・・・・さんじ・・・」




 ぼそりと、チビゾロが呟いた。


 「あぁっ?」


 「・・・・・くるしい」


 もごもごと聞こえてくる声が何故か異様に近い気がして、ふと下を見下ろす。

 と、目の前に、ふわふわの芝生があった。

 ・・・否、芝生みたいな、チビゾロの頭が。

 ん?なんでこんな近いんだ?またおれに抱きついてきやがったかコイツ。


 「サンジ、洗濯干せねぇ・・・」

 もぞりと身動ぎするチビゾロ。

 その細身の体を、きつく抱き締めているのが、自分の腕だったことに気付き、愕然とした。

 「わぁっ!!悪い!!」

 ぐばっと体を離し、勢いついて床に倒れこんだ。



 (嘘だろ・・・お、おれ、気付かねぇうちに・・・っ)

 チビゾロを、抱き締めるなんて。自分が信じられない。

 ・・・つーか、こいつ・・・!!

 「おまえ、喋れるのか!?」

 ゾロよりも、少し高めの声。ゾロに、よく似た声。

 初めて聞いた声も、ロロノア・ゾロを思わせる。あの男ほどの尊大さはないけれど。


 チビゾロは、手を差し伸べサンジが起きるのを手伝いながら、頷いた。

 「なんで今まで喋らなかったんだ?どっから来たんだ?おまえは、誰だ?」

 それまで疑問に思っていたことを、矢継ぎ早に質問する。

 チビゾロは少し困ったような顔をして笑い、

 「しらねぇ」とだけ言った。

 そして「ここがどこかも、わかってねぇんだ」とも。


 記憶喪失なのか、とサンジは思った。

 かわいそうに、と胸が痛む。

 いきなり、知らない場所で、知らない大人たちに囲まれて、さぞかし不安だっただろう。



 「でも、あんたはいいヤツだと思った。メシも旨かった。帰り方はまだわからねぇけど。あんたのそばにいると安心する」




 淡々と、その口から出た言葉。



 ロロノア・ゾロが、絶対に言わない賛辞。



 その瞬間、



 サンジはこの少年にメロメロになった。







 **********      **********









 「・・・・なに、あの新婚さんみたいなやつら。ウザいんだけど」


 ナミが、忌々しそうに呟き、その隣でウソップがガタガタと震える。

 ルフィは、楽しそうに「にしししし」と笑い、

 ゾロは、興味なさそうに酒を飲む。


 その向こうでは、


 雛に餌付けをする親鳥の如く


 チビゾロを膝に抱き、「ほれ、あ〜ん。うめぇか?」とニコニコしながら尋ねるコック・サンジ。


 こくんと頷き、また口を開けるチビゾロの頭を撫で、「そーかそーか、うめぇか!」と嬉しそうに笑ってサンジはまた食べ物を口に運ぶ。


 そんな光景が、さっきからキッチンで延々と続けられている。


 クルーにとっては、不気味なことこの上ない。



 しかも

 常に回りに気を配るあのコックが、

 ナミの飲み物がなくなっても

 ウソップがこっそりキノコをルフィの皿によけても

 ルフィが堂々とゾロの料理まで横取りしても

 ゾロが3本目の酒をラッパ飲みしても


 全く見ようともせず

 ただただ、チビゾロに夢中。

 「あとで、風呂にも入れてやっからな〜。ちったぁキレイになるだろ」





 ((面倒見ろなんて言ってすいません!!もう勘弁してください・・・))




 ナミとウソップが二人して、静かに涙を流した。






  3につづく