ゾロサン★リレー(医者パラレル編)


 
【 2 】 雪城さくら





 久しぶりに会ったゾロは、なんだかやつれてるように見えた。
 ま、仕事仕事で、ゆっくりする時間もないのはお互い様だったけど。
 仮眠用になってるソファに横たわる恋人に近付くと、ゾロが黙って毛布を持ち上げ、一人分のスペースを空けてくれる。
 とはいえ、大の男が、それも二人も、横になるには少し狭いソファ。
 サンジは少しためらった後、ゾロの隣にもぞもぞと潜り込んだ。

 「おい、狭ェんだから、もっとこっち寄れ。落ちるぞ」

 「だったら、わざわざこんなとこで一緒に寝る必要ねぇだろ」

 そうは言いながらも、逞しい手に引き寄せられて、サンジはすっぽりと、ゾロの腕のなかに納まる。

 「・・・忙しかったか?おまえ、ちゃんと食ってるか?また痩せたんじゃねぇか?」

 そういえば、忙しさにかまけてまともな食事をとってなかったような気がする。ついでに睡眠も。
 癒すように背中を撫でてくれるゾロの手が心地よくて、サンジは目を閉じてそう言った。

 「ったくおめぇは、相変わらず無茶な勤務してんだろ。ちっとは休まねぇと、先にぶっ倒れるのはお前だぞ」

 「だってよぉ、子供たちのお母様が、おれを待ってるんだもんよ〜」

 毛布から顔を覗かせて、にへらと笑ってみせる。

 こんな軽口をたたいてみても、ゾロにだから、構わない。
 こいつは、知ってくれてるから。

 「そうか」と静かに呟いて、ゾロはサンジの金色の頭を撫でた。子供をあやすように。





 サンジが医者の道を、小児科を目指した理由。
 医学部の友人たちには『綺麗なお母さんマダムに会えるから〜w』などとうそぶいてはいたが、
 ゾロにだけは話してあった。

 小さいころ、病弱だったために、ろくに外出もできなかったこと。
 そのとき掛かった医者、白いヒゲを生やした厳ついジジィに憧れて、自ら医者の道を選んだこと。
 病気に苦しむ子供を、一人でも多く救いたいと願う気持ちも。


 現実は、そう簡単なものではなかったが。
 実際、諦めそうになったことも、絶望したこともたくさんあった。
 もっと医学が進歩していれば。自分に腕があれば。環境が整っていれば。
 そう心の中で言い訳しながら、必死にもがき続けてきた。

 辛いのは自分じゃない。
 耐え難い痛みと孤独に 苦しむ人々と、それを見守ることしかできない家族。
 諦めず必死に闘う人間の生命力の前で、弱音や泣き言なんか、言えやしない。
 医者が諦めるわけにはいかない。


 人前では精一杯の虚勢を張るサンジの、それでもつい折れそうになる内心を、

 なぜかこの男だけは見抜くのだ。


 そのたびに、あやすようにこうして抱き締めてくれる。

 自分だって忙しいだろう。他人の心配してる場合じゃないだろうに。
 寝ることだけが趣味のようなこの男が、文句も皮肉も言わず、サンジが落ち着くまで、言葉少なに抱き締める。 不器用な男のそれが、なによりの慰めだった。
 ゾロは、優しいわけではない。間違ったことは指摘するし、厳しいことも言う。皮肉だって吐くし、サンジの名前だって滅多に呼ばない。
 だけど、こんなときは、疲れきったサンジを、でろでろに甘やかしてくれるのだ。言葉でなく、態度で。
 それが、すごく嬉しい。
 同じ道を志す仲間で。同い年の、最強のライバルで。誰よりも、サンジのことを見ている男。
 ゾロがいなければ、ここまで頑張ってこれなかったかもしれない。
 そう思うほどには、ゾロはサンジの中で大きな存在を占めていた。

 もっともサンジも、そんなことを素直に言えるような性格ではなかったが。




 ..☆.・∴.・∵☆:*・∵.:*・.☆☆.。.:*.☆.・∴.・∵☆:*・∵.:*・.☆☆.。.:*




 一週間ぶりに会って、好きな男に抱き締められて、
 眠気ももう限界だというのに、

 広くて逞しい胸と、少しだけする汗の匂いに、ふいに頭のなかがぼやけた。
 厚い胸板に額を押し付け、深く息を吸い込む。

 あぁ、ゾロの匂いだ・・・。

 消毒薬と、体臭の混じった、独特な匂い。


 サンジはいつも、ゾロの匂いにクラクラしてしまう。何か催淫効果でもあるのだろうかと、本気で思ってしまうほど。 ある種、麻薬のような。

 くんくん、と匂いを嗅ぎ、擦り寄ってきたサンジを、ゾロは面白そうに眺めた。

 「なんだ?ネコみてぇに。サカってんのか」

 分かってるくせに、意地悪く言う恋人を、サンジはじろりと睨み上げ、
 その首筋に、かぷりと噛み付いた。

 「おい、いてぇって」
 ゾロはそう言いながらも、くすぐったそうにクッと笑う。
 そりゃそうだ、甘噛みだもんよ。痕残るほどキツク噛んじゃいねぇ。
 ペロペロと、噛んだところを舐めると、背中に回されたゾロの手が、妖しく這い回る。
 舌の先に、しょっぱい汗の味。
 あぁ・・やべぇ。本気で、クラクラする。

 「な、ゾロ・・・」
 甘えるような声音で名を呼ぶと、意図を掴んだのか、ゾロはサンジの腰を掴み起き上がらせると、己の上に跨らせた。

 「ん?疲れてるんじゃなかったのか?」
 「そ、うなんだけど、さ・・・」
 「あぁ、あれか。疲れマ、むが!」
 「んな下品なこと言うんじゃねぇこのクソ野郎!」

 がぁぁぁっと真っ赤になって口を塞ぐサンジを、ゾロが ぶはっと笑って抱き寄せる。

 散々突っ込んでぐちゃぐちゃにして、どろどろに喘がせて、どれだけ乱れさせても、
 変わらずこういうところで恥らうサンジがたまらなく可愛いのだと、ゾロが思っていることなど知る由もなく。

 「悪い悪い。つか、クソ野郎っつーほうが下品だと思うがなぁ?」

 「て、てめぇはデリカシーってもんがねぇって言ってんだ・・・ムードぐれぇ作れよな」

 サンジは着ていた白衣を、するりと肩から落とした。



 ..☆.・∴.・∵☆:*・∵.:*・.☆☆.。.:*.☆.・∴.・∵☆:*・∵.:*・.☆☆.。.:*

→3 (比翼刹那様に続く)