本気なんですか? と何度か聞かれた。

その、少し震えたような声も、また可愛い。
伏し目がちに潤んだ瞳の愛らしさったらない。
女の子のすべてが詰まったような、長く艶やかな水色の髪。
顰められた眉の形のよさも。引き結ばれた小さな唇も。
シャツの首元、リボンをきゅっと掴む指の白さも。

サンジは迷わず「本気だよ」と答える。

「ビビちゃん、おれと付き合ってください!」

「じゃあ・・・ごめんなさい」



   ガチです!

     【 1 】

『じゃあ』ってなんだああああああああああああ!!!!


ウソップ会、と呼ばれる就業後恒例の月イチ定例会、つまりただの飲み会。
同じ会社の男性社員ばかり、十数人が集まった居酒屋での席に、
ドヘコむ金髪を気にする者はなく、サンジは長テーブルの端でひとり、ちびちびと日本酒を傾けた。
後輩の女子社員に告白して振られたばかりのサンジはまだ、いつものように同僚とワイワイ騒ぐ気になれない。

とはいえ、可愛い子を見かけては光の速さで口説き、そのあまりの軽さに毎回光の速さでごめんなさいされるのが日常のサンジだ。どうせ今回も女にすげなくあしらわれて自棄酒あおってるんだろう、そのうち(これもまた光の速さで)勝手に立ち直って勝手に混ざるだろう―――と、ここにいるみんなに思われていることはサンジも分かっていたし、いつもならそれで構わなかった。可愛いレディにならともかく、ムサい男に情けかけられて心配されるなんて気色悪いだけだ。放っておいてくれたほうがありがたい。

―――でも今回のは少し勝手が違う。
本気で、ビビに『彼女』になってもらおうとしてた。
あの娘がサンジの恋人になったら、すべてうまくいくと、思っていたのに。

故に、サンジのへこみ具合も相当なもので。
はい残念でしたまた次があるさーあははー、なんていつもの空元気さえ出ない始末。
(困った顔してたなービビちゃん。・・・そりゃそうかぁ)
あのときの・・・ビビに告白した時の自分の気持ちを思い出し、じわりと涙がにじむ。望みがないのわかってて告白なんかしちゃった、数時間前の自分をぶん殴りたい。
「あぁー酔っちまったぁ」小声で呟き、うつむき、気付かれないようにおしぼりで目元を擦って―――もうこのまま地面にめり込みたくてたまらなくなった。

(なんで人生って、願ったようにならねーんだろ)

齢二十六にして人生諦めの境地・・・というわけでもないがそれに似た心境で、サンジはまた徳利を傾けた。ぴちょん、一二滴しずくが垂れ、望遠鏡のように中を覗き込む。あれ、なんでもうカラなわけ?

「すいませーん、お銚子おかわりー」
はいよろこんでぇ〜。調子のいい店員の声がそこここから響きわたると、さすがに見かねたのか同僚のウソップが苦笑いで隣席に座った。
「サンジぃ〜飲み過ぎじゃねぇかぁ?それ何本目だ」
「あぁ?んな飲んでねぇよ、まだ二本目だっつーの」
やたらと鼻の長い友人は話をおおげさに盛るのがたまにキズだがなにかとマメマメしい。
今もサンジを気遣ってかカルチューのジョッキを手渡し、「来たばっかのやつだからコッチ飲んどけよー」などと言いつつ、周りの奴らにも串焼きを取り分けたりしている。
おれも、これぐらいの甲斐甲斐しさがあれば、もうちょっと違った道を歩めたかもなんて、ありもしないことを少しだけ。

「おまえら野菜も食えよな〜、あ、誰だよキノコ頼んだの〜」
「エリンギバターソテーな」
お前はオカンか。じゃなきゃ合コンで仕切りたがる女子か。
しかしウソップのこういうところが、男ばかりの飲み会が月一で開催される所以なんだろーな、となんとなく考える。おかげさまで涙もひっこんだ。



「つかウソップ、いいのかよ主賓の相手してねぇで」
「あー、いいのいいの、あっちはそれなりに盛り上がってるし、それに・・・」
ちらり、ウソップにつられて数メートル先、テーブルのもう片端に目を向ければ、いわゆる『お誕生日席』に、ガタイのいい男三四人に囲まれ、主賓と呼んだ緑髪の男が座っていた。
本日の飲み会の口実・・・もとい主役。
サンジと同期入社で、本日めでたく二十七歳を迎えた同僚―――ロロノア・ゾロが。


「・・・それに?なんだよ」
心なしか頬を赤く染めるウソップに、サンジは逸る気持ちをおさえ水を向ける。
「いやその・・・なんつーかあのへん、下ネタで持ち切りなもんで、ついなぁ・・・」
「あー。なんだそんなの、いつものことなんだろ?」
「や、そーだけど、今日は特に・・・つーかサンジ、おれがそういうの苦手なの知ってんだろぉ?」
ウソップめ、どうやらサンジを心配してというのは建前で、体よく一時避難してきたようだ。

いつも飲みの席でゾロと一緒にいる男たちは皆体育会系出身で、毛色が違うサンジはあまり近寄らないが、ウソップはその中にいても大人気。ふだん快活なくせにエロ方面にめっぽう純情なこの長鼻が珍しいのか愛らしいのか、三回に一回はこぞってセクハラじみた歓迎をされているらしい。マスコット的な扱いってやつか。
まぁこの半泣きで真っ赤になる成人男子を見れば、からかいたくなる気持ちも分からんでもない。
サンジだって相手が可愛い女の子なら喜んでセクハラする。(犯罪です)

「今日はなんだって?また飛距離ジマン?持久力ジマン?体育会系はえげつねぇなあ」
まあ、男が集まりゃ大概はそんな話になるもんだけど。視線をゾロのほうへ投げたまま、ぐびとジョッキをかたむけ、冗談めかして促す。溶けかけた氷で薄まった甘い炭酸が、喉をしゅわりと通り抜け心地よかった。やっぱりサンジは日本酒より、サワー系のほうが好きだ。
「んー、なんてーか・・・せ、っ・・・」
言いづらそうに淀んで、ウソップが顔を寄せて声を潜める。んな赤らんだ顔の男に接近されても嬉しくもなんともないんだが。
「セッ、く、あの・・・夜の・・・テクが・・すげぇって、はなし・・・」
「夜のテク、なぁ・・・なに、それで逃げてきたのかお前」
セックスって単語も恥ずかしくて言えないとか、だから、女子かっての。
ぷぐは、とサンジが思わず噴き出すと、ウソップがジト目でにらむ。

「だってすげぇんだってほんと。リアルっつーかエグイっつーか。ロロノアが絶倫とか巨根とか百人斬りとか、なんかもーとにかくすげぇらしいって話になって・・・そしたらフランキーがノリだして・・・おれも負けてねぇとかって・・・そんでなんか・・・その話題でおれに振ってくるもんだからよぉ」
もごもご口ごもりながらウーロンハイのジョッキをもてあそぶウソップも、そこそこ酔いがまわってきたらしい。そりゃこんだけ血圧上昇してりゃ酔いもするか。
あぁごめんごめん分かった分かったと笑っていさめて。 ふぅん、とまたゾロに視線をうつした。
ふうん。そっか、スゲェのかゾロ。 ・・・ふうん。
「熱燗お待たせしましたぁー」
陽気な声と共に渡された徳利。受け取ったサンジは「あつ、熱っつ」とふちを持ち、視線の先―――端っこのお誕生日席へとにじり寄った。あえええ?なんでそっち行くんだよぉ?!なんて涙目で驚くウソップを置き去りに。




「ロロノアくーん、おたんじょうびなんだって?おめでとー。まぁまいっこん」
さして仲良くもない(というかほとんど関わったことのない)サンジが近くにやってきたせいか、ゾロが少し珍しそうに片眉をあげる。

そりゃそうだ。同じフロアで働いてはいても、部署が違えば接点などほとんどないも同然。
頻繁に飲み会で会っても、つるむグループが既にできあがっているため、話したことも数えるほどあるかないか。
面と向かって『ゾロ』と呼びかけたことすらない。
だから、やたらと気軽に話しかけてみたサンジだが、実は内心バクバクもんだった。

すっと差し出されたお猪口に、日本酒をなみなみ注ぐ。嫌われてはなさそうなのが、せめてもの救いとほっとした。
「どうも」と短く礼を言い、一気にあおるゾロ。その姿、さすが様になってるなぁ。
サンジが熱燗なんて飲み慣れないものを頼むようになったのも、もとはといえばゾロの影響だったりするのだ。遠くで見てるだけだったけれど、ポンシュかっけー、とか思ってた。真似してみようか、なんて思って・・・。

「ちょっとあんたら、うちのウソップあんま苛めないでもらえますかー」
つとめて社交的に笑顔を浮かべ、ゾロの隣に陣取るフランキーに話しかける。そのまま何食わぬ顔で、卓を囲む輪の中に座った。
「いやー悪い悪い、そんな硬ぇこと言うなよ〜」
怪物じみた巨漢で、言葉づかいも顔つきも乱暴だが人のいい青髪フランキーが、にこにこ笑って、さして悪びれてもなさそうに。この連中のなかでウソップを一番かわいがって―――るつもりで、からかっているのがこの男だ。
「あっちで半泣きになってるぜ、なに言ったんだよー」
「あれだぁ、コイツのスーパーなイカせ技を伝授してやろうとしたんだがなぁ」
独特の妙な巻き舌でコイツ、と親指でさされたゾロが、手酌で酒を注ぎながら忌々しそうな顔をした。
「おめェがあの長鼻構いてェだけだろうが」
「まあなー」
ガハハハ、と豪快に笑うフランキーに周りの男たちも、だよなーなんてどっと笑い掛けて・・・って、なんだこのオープンさ。率直というか不器用というか・・・兄貴肌のやつってこんなカンジなのか?
「んーじゃあちょっくら、機嫌でもとりに・・・」
行こうかねー、がサンジの耳に届くころには、フランキーはもう数メートル先、他の奴らと談笑するウソップの元へと向かっていた。デカい割にフットワーク軽いなぁオイ。
となりにいたあとの二人もそれに続き、友人の周りはいまや大所帯。おぉー、ウソップ大人気。

「ん。」
「・・・ん?」
ふと短く掛けられた呼び声に振り向けば、ゾロが飲み干したお猪口をサンジに向けて差し出している。
「返杯。おめェも飲め」
「え、なに、あんた土佐の人?」
彼の県民には失礼な話だが、サンジの祖父が若いころ其処で板前をしていた為、返杯制度についてはいやというほど聞かされて育っている。飲んだら返して注ぐ、それ飲んだらまた返して注ぐ、が延々と朝まで続く・・・祖父いわく、地獄絵図らしい。懐かしそうに語るその顔は楽しそうだったけれど。
いまのゾロも、どこかその時の祖父と同じ表情をしていた。
「・・・うちの親父がな。つーか、飲めねェことはねェんだろ?いつも頼んでんだし」
「んじゃあ、一杯だけ・・・」
注がれた酒をこくん、一口含むと熱く焼ける感覚が喉を通りすぎる。あーやっぱりルーツはそっちかぁ、ゾロ酒強そうだもんなぁ、血筋かぁ・・・まで思ったところで、
「あれ?おれがいつも日本酒頼んでるって?」
なんで知ってんの?
「こん中で熱燗頼んでんなァ俺とお前ぐれェだろ。最近の若いやつはあんま飲まねェからな」
珍しいと思って見てた。
なんのてらいもなくそう言われると、意識してるコッチが馬鹿みたいなのに。
「若いやつって、ゾロだっておれと同い年じゃねえか、オッサンくせーぞ」
けらけら笑って誤魔化しでもしなければ、この場で胸のあたり掻きむしってしまいそうだった。ちょっとヒトの心臓、勝手に動かすのやめてもらえますかーとか言ってしまうところだった。この場に誰も居なければきっとやってたし、言ってた。

いつも見てた、とか、そんなの平然と言われるなんて思ってもみなかったサンジは内心焦りまくり。
「やっぱあれな、ゾロの、そーゆー口説き文句さらっと言えるようなトコがモテるんだろうな」
「あぁ?口説いてねェし、モテてもねェよ」
「なに、無意識か!どこの天然タラシだおめぇは!?」
あんなん女の子に言おうもんなら、イチコロだぞ?即オチだぞ?
―――勘違いされちまうぞ?ていうか勘違いしちまいそうだったじゃねぇか・・・って違う違う、ナシナシ、今の無ーし!
脳内に湧きあがる酸っぱい思考をわたわたと振り払う。言わなくてもいいことまで言ってしまいそうだったけど、口に出したのは「即オチだぞ」までだったのでセーフ。辛うじて。ギリギリのところでサンジは体面を保てた。頬だけは赤くなっていたが。

だけど普段、見かけるたびに眼つき悪いな、顔つき凶悪だなコイツと思っていたゾロが、
「タラシてんのはおめェだろうが」
なんて苦笑するもんだから。おれの心臓今日、休む暇ねぇな?
「おれのどこが!・・・じゃねぇな、身に覚えあるわ」
「だろうな」
ニヤリ、ゾロがしたり顔で笑う。
サンジの場合は、タラシに見えても全部未遂に終わってるわけだから、自己誇張もはなはだしい。が、ゾロのほうは―――あんなに可愛い子に想われてるくせに。 沸きあがる不快感を、表には出さず飲み込む。
ゾロを真似、口の端をつりあげて
「いや、だろうなじゃねーよオメーも同類だよ。聞いたぜ〜スッゲェらしいじゃん、なに?百人斬り?あんたも隅に置けねぇなぁ」
「・・あァ?いや、ありゃアイツらが、」
「そんなゾロくんに質問があります!」
しゃきーん、背筋を伸ばしてゾロと視線を合わせると、唐突さにゾロがつられて居ずまいを正す。
サンジはとっておきのスマイルでにっこり笑ってみせた。

「ゾロの ち●こ見してください!」

―――ほんの一瞬、口をぽかんと開けたまま全ての動きを完全に停止したゾロが、遅れてふうと深く息を吐く。
指先だけでちょいちょいと手招きされて、サンジがにじり寄ったら、見たことないぐらい満面の笑顔で迎えてくれて。・・・・・・あれ?ゾロ、口の端、ひきつってる?
気付くと同時に、ゾロの手が額に覆い被さり、目の前が暗くなる。


そしてお見舞いされたのは――― 全力のアイアンクローでした。



「ふぎゃああああああああいたたたたたたたいたい!うそ!ごめんじょうだん!いってえええええ」

「おいウソップ!コイツどんだけ飲んだんだ!」
ギリギリグリグリ、サンジの頭部を片手で握りつぶしながら、奥の席のウソップに向かってゾロが怒鳴る。
ちょ、ほんと、すげぇ痛い、なにその無駄な怪力!割れる頭割れるってぇぇぇ!
「えぇ?知らねー知らねえ!さっきはそんな飲んでねえつってたぜぇ?」
大層な剣幕のゾロと喚くサンジに驚いてか、なんだなんだとその場の視線が集まるものの、聞かれた友人はぷるぷると首をふり、また素知らぬ顔で周りの奴らとの会話に戻りやがった。それに倣って他の奴らも、じゃれ合ってるだけみてーだな、なんて納得しながら元通り。
ひでえ、ゾロにがっつり頭掴まれてるこの状況、だれも気にしてくんねぇとか、マジ酷ぇ!
っていうかゾロ、ガチ怒りだし。 え、このタイトルのガチですって、そういう意味で!?

「ゾロ、痛いっす、マジ勘弁して」
「・・・あのなァ、まずち●こ見せろってなァ質問じゃねェし、公衆の面前で言うことでもねェだろうが」
ようやく解放してもらえて、むひぃーとこめかみ摩りながらサンジは、ゾロから溜め息混じりのお叱りの言葉を受ける。何考えてんだてめぇはアホかアホなのか?とかなんとか。あーハイすいませんー。
「ちぇー、ケチ」
「・・・・・・反省してないならもっかいすんぞ?」
「へぇーい」
乱れた髪を整えつつ、とぼけた返事をしてみせるとまたゾロは怖い顔でサンジを睨んでチッと舌うちした。
「水でも飲んでろこの酔っ払いが」
酔っ払って口が滑ったんじゃないし、怒らせたかったわけでもないんだけど。
こういうタイプとはこれまで縁遠かったサンジには、男同士のコミュニケーションは難しくて距離の測りかたがイマイチ掴めない・・・それともゾロが相手だからか。
けれどサンジが『この場所』に座れるまで、三年かかったのだ。
今さら少し叱られたくらいで、めげたりするものか。

・・・うそです、ちょっとめげそう。今日は特に。





『・・・本気なんですか?』
瞼の裏に、清純そうなビビの困った顔が浮かんで、サンジは気が滅入る。
―――卑怯な手を 使おうとした。そのことを恥じてはいるが、じゃあ他にどうすればよかったのか。
ゲームみたいにリセットボタンがあれば今すぐ押すのに、高速連打するのに。この道を行けば正しい、そんなあらかじめ備えられた選択肢があればいいのに。どちらに足を踏み出せば正解なのか分からないから、サンジはただ模索するしかないのだ。シナリオ通りに進む訳もない矛盾だらけの道を。


「なー、おれら二次会キャバクラ行くけど、サンジどうする?」
居酒屋を出た路地、おつかれっしたーという挨拶がそこここで飛び交う中、ウソップが声を掛けてくる。友人の傍らには、フランキー筆頭に四五人の屈強な男達。ていうかこいつら絶対キャバのオネーチャンじゃなくウソップ目当てだろ。あーあー、ウソップ大人気。
正直なところ玄人のオネーサマに癒されたい気持ちはあるが、肩寄せ合い同じテーブルにこの面子と座るのはなんとなく、遠慮したいものがある。断ってもいいものか?
サンジが躊躇い、曖昧に視線を泳がせたそのとき。
「悪いがコイツ借りてくぜ」
ふいに背後から降ってきた声にサンジが驚くのと、ゾロに肘を掴まれたのがほぼ同時で。気構えもないまま後ろに引っぱられそうになって慌てた。
「え・・・?ちょ、お前なに」
「あーそうなの?分かった、じゃぁ気―つけてなー」
「おう」
一人状況の理解できないサンジを置いて、ウソップが手を振り去っていく。あれ?あれれ?なんてパニクってる間に、再びゾロに腕を引かれて蹈鞴を踏みそうになった。よろめくサンジを気にした素振りもなくゾロが、近くに停車していたタクシーにサンジを放り込み、次いで自分も乗り込んだ。耳馴染みのいい低い声が目的地を告げるのを聞きながらサンジは―――
(ちょっと待ってなんで、なんでゾロが)
頭の中で警鐘が鳴っている。ぐわんぐわん響いて、何も考えられない。ネクタイを緩めてシートに身を沈めるゾロと対照的に、ひたすら固まっていた。


ものの十数分で辿りついたのは、住宅地に建つ中層のマンション。引き摺り出すようにタクシーから降ろされて。
「おま、ゾロ・・・なにひとのこと拉致ってくれてんだよどこ連れてきてんだよ!?」
隣に降り立ったゾロに向かって、サンジは小声で文句を垂れた。街灯の灯りしかない道路上で、時刻は深夜に近い時間帯、さすがに声を荒げることは憚られた。うるせェな、不機嫌そうに眉を顰めゾロが棟を指さす。
「ここァ俺んちだ」
「・・・なんで・・・」
互いの声と共に吐き出された息が、外気に触れ白く蒸発する。十一月の冷たい夜風に触れ、ちっとは冷静になるかと期待したが、サンジの心のほうは一向に混乱したままだ。
なんで事も無げに言えるんだこの男。おかしいだろ、友達でもない接点もない、ただの同僚のおれを自宅へ連れてきた理由は!?
目を見開いてサンジは必死で言葉を探す・・・でも出てこない。下手なことを言えばサンジのほうがボロをだして窮地に陥りそうで。ひとつもまわらない、おれの脳には味噌じゃなくて石でも詰まってんじゃないかと思った。指先が痺れて震えるのを隠すので精いっぱいだった。

「・・・なんでもなにも、おまえが、」
「あら、ロロノア先輩?」
その時、ゾロの言葉尻に被さるように可愛らしい声が届き、歩道に突っ立ったままのゾロとサンジ、ふたりで声のほうを振り向いた。

「―――なんで」
ゾロの肩の向こう側、薄暗い中街灯に照らされて、目に飛び込んできた鮮やかな水色の長い髪。
―――なんでここにこの娘がここに居るんだ。思ってサンジは絶句する。
しかし考えてみれば、ある意味当然のことだった。
なぜならゾロのマンションのエントランスから出てきた女性、
そしてサンジが今日告白して見事に玉砕した相手―――

ネフェルタリ・ビビは、ゾロの恋人なのだから。


→2へつづく





ゾロ、お誕生日おめでとう!!

続きます・・・まさかのゾロ×ビビ←サンジ、という構図のまま続きます・・・
みんなに愛されるウソップが好きなのです←


2013.11.11up