『あのロロノア・ゾロが、ビビと付き合っているらしい』

サンジがその噂を耳にしたのは一年と少し前、ビビが入社してしばらくした頃だった。
相手は気立ても良く仕事の出来る優秀な新人、しかも超がつくほどの美人。両手で余る以上の女を食っては捨て、千切っては投げしていたゾロも、ようやく年貢の納め時かと。
ホラ吹きのウソップ、の異名をとる友人の談に初めは半信半疑だったサンジも、会社帰りに何度か一緒に街中を歩くゾロとビビ、二人の姿を見掛けてからは―――認めたくないがこれが現実なんだと、自分に言い聞かせた。
だから諦めようとして、でも出来なくて、苦しくて。

その結果がこの、最悪の鉢合せである。




 【 2 】


ルームウェアっぽいニットロングワンピの上から明らかに男物のぶかぶかなジャージを羽織って。いつもはひとつに纏めている長い髪をサイドに三つ編み垂らしている、たった二歳下なだけなのにまるで少女のようなあどけない出立ちのビビに、サンジは思わず顔が綻びそうになる。あーもう、やっぱりこの子可愛いわ、こりゃ無理だわ。

「なんだ来てたのか」と素っ気なく話しかけるゾロに、照れたようにはにかんで うんと答える彼女。そうかビビは当たり前にゾロの家に、それも頻繁に出入りしてるんだと、そういう仲なんだと察して、サンジは無意識に湧いてくる酸っぱい唾を飲み込んだ。
そういえば今日はゾロの誕生日。そんなカップルにおける重大イベントで、もうすぐ日付が変わろうかという時刻まで同僚との飲み会に参加してるなんてコイツ、カレシの風上にも置けねぇな。ビビちゃんを家にほったらかしにしといて、来てたのかはないだろう。
「こんな時間にどこ行くんだ?アイツは?」「コンビニ。今、お財布とりに戻ってるの」「そうか」みたいな会話が為されている間もサンジはただ、あぁマズイことになった最悪なとこに居合わせたそれもこれも全部おれをここに連れてきやがったゾロのせいだ、と心中毒吐き続けていたので、耳に届いた声を理解してるようでしてなかった。壁一枚隔てて、どっか遠くで話してるような。

「・・・あら、サンジさん?先輩、一緒だったの?やだすいません気付かなくて・・・あの、こんばんは」
ゾロの肩越し、背後で立ち添うサンジの存在にようやく気付いたのかビビが、少し気まずそうに挨拶してくる。背中を向けているゾロの表情は見えないけれど、付き合っていることを内緒にしているらしい二人のことだ、サンジに見られて困惑するビビの気持ちも分かる。
サンジは曖昧に微笑むとゾロを押し退け一歩踏み出し、やぁビビちゃん、とそれでも格好つけて呼び返した。こんなときでも女の子相手にいい格好したがる自分が憎い。
「あの、サンジさん、今日はすいませんでした・・・」
わあ、その話題今ここで出すの?出しちゃうの!?申し訳なさそうに謝るビビに、彼女のカレシであるゾロ(ややこしい)の手前、サンジのほうが戸惑う。
「いやいやいや、いいのいいのもうあんなの全然、気にしないでよ〜」
しないでよほほぉぅ、みたいな語尾になりながら苦笑い、ぱたぱたと顔前で手を振る。慌てだしたサンジにビビは怪訝な顔を浮かべたが、ちらりとゾロを見てサンジに視線を戻し「分かりました」と、ほっとしたようにほわりと微笑んでくれた。
サンジはゾロの耳に届かないよう声を潜め、ビビに向かって
「おれこそごめんねー、君がロロノアくんと付き合ってるの、知らなかったからさぁ」
嘘をついた。


知らなかったわけじゃない、ただフリをしていただけだ。知らないふりで―――ビビに告白しただけだ。
だが今になってサンジは、己のその行動の理由を思い出せなくなっている。なんで彼氏持ちの女の子に告白、なんて外道な真似ができたのか。
ゾロから彼女を奪いたかったのか、と聞かれると・・・少し違う気がする。どこへ進んでも何も手に入らない焦りと葛藤で、数ある選択のなか、選ぶルートを間違えた。結果論でいうなら、他の男の告白にもなびかないビビの一途さが知れて良かった、というところか。
だったらもう、それでいいじゃないか。覚悟なら初めからできてたんだから。
どんなに好きになっても、どうにもならないことがある。

「忘れてよ、ね?」
胸の内を隠し、にっこりと笑って言ったのに、ビビは驚いたみたいに目をまんまるく見開いている。
「サンジさん・・・えっと、何か誤解してます?」
「え?」
ごかい?きょとんと聞き返すと、彼女の青い瞳がサンジを通り越し、何かを見つけて輝く。くすりと笑んでビビが首を傾げた。

「私のカレ、ロロノア先輩じゃないですよ?」





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燃え尽きた、まさにそんな気分。
ぽかんと開け放たれた口からたぶん今、なんか出てる。ともすれば魂抜けてってる。かほー。

(この一年のおれの苦悩は?決意は!?あの後悔は、なんだったんだ!)

バタンと音を立てて閉まるドアの音を聞いて、サンジはハッと我に返った。
見れば暗闇の中、隣に立つ男に腰に腕をまわされ、ほとんど抱えられようにして立っている。
男が電気をつけると急に明りを受けた瞳がシバつき、眩しくて目を細めた。見渡すとマンションの一室、玄関の上がり框に突っ立って。
あれ、おれ、どうなってここに・・・?

膝が笑って立っているのがやっとだが、なんとか下駄箱に肘をかけ身体を支えながらサンジは、脇に立つ男を見上げた。
「・・・ビビが俺と付き合ってると思ってやがったのか」
額の肉が盛り上がるほど、むっすりと眉をしかめているゾロを。 なんつー凶悪ヅラ。
「・・・ゾロ・・・なんか、怒ってる?」
機嫌を窺うようにこわごわ問うサンジに、ゾロが呆れたように吐き捨てる。
「テメェが、ビビに取り入るために俺に近付いてきたってんなら、怒る」
「ちが、違う、逆・・・!」
「あァ?逆ってなんだ」
思わず訂正してしまってアワワワと口を押さえた。



あの後、同じマンションから出てきた青年を手招いたビビが、そいつが『カレシ』だと紹介してくれた。
コーザという名の、スラリと背の高い、そしてどこかゾロに似て眼つきの悪いニーチャンを。
そして、ゾロとコーザがいわゆる幼馴染みで、
ビビが二人の高校の後輩にあたることと、
コーザとビビはその当時からお付き合いしていること、
ビビの親がオーナーをしているこのマンションに、ゾロとコーザがそれぞれ部屋を安く借りて住んでいるということも。ちなみに部屋の階は離れている、らしい。

(ちょ、ちょっと待て落ち着け、いったん整理しようそうしよう)
もうこの時点でサンジの脳はキャパオーバーで、今まで信じていた『ビビがゾロのカノジョ』という設定、まずそこを消去するのに時間を要した。
「え、え、え、だって、ビビちゃん、ゾロと一緒に帰ってるとことかおれ、たまに見かけて・・・」
「え?ああ、私がカレの家に来る時にロロノア先輩と会ったら、目的地同じなんでご一緒したりはしてましたけど・・・それで一時会社でウワサになっちゃって・・・否定してもみんな信じてくれないんですよ」
困っちゃいますよねぇ、たおやかにビビが苦笑した。
隣ではビビの彼氏とゾロが、珍しいなーゾロが友達家に呼ぶなんて、いやンなことよりテメェ女一人を外に待たせてんじゃねぇよ危ねェだろが、しょーがないだろ財布忘れたんだから、とか呑気に会話していた。
サンジはビビに、そーだねと、口に出して言ったかどうか覚えてない。
そうだね、困っちゃうね、そういう噂は、もっと全力で否定してもらわないと。社員全員呼びつけてでも潰してまわってもらわないと。そう虚ろに思ったのはたしかで。

出会ったころから気になって、
目にするたびに惹かれて、
けれど近寄りがたくて、
見ているだけで満足してた間に横から掻っ攫われていたけど。
三年も片想いを続けた挙句、ほとんど会話も交わせないまま人のものになってしまったけれど。

いつのまにか、もうどうしようもないくらい、好きになってしまっていたけど。
恋人がいるなら仕方ない。

―――ゾロのことを、諦めよう。

身を切られるその決意と、涙を流したおれの日々を、返せ!!!


「やだもうー、会社の人にすっぴん見られちゃったじゃない、リーダーが夜中にコンビニ行こうとか言うからよー」
「はー?お前だってコンビニのおでん食べてみたい〜!てはしゃいでたじゃねーか」
「あ、そうだよ、おでん!私タマゴ!いっぱい!」
「はいはいわかりましたよ姫様」
よしよし、とビビの頭を撫でながら歩くコーザ。サンジからは遠ざかっていく後ろ姿しか見えないが、風に乗って届く締まりない声音から察するに、彼女のことが可愛くてしかたないって顔してんだろうな。アイツら聞こえてねえとでも思ってんのかな。いちゃいちゃいちゃいちゃしながら、このあとふたりでおでん食べるんだろうな・・・・・・。

「・・・・・・リア充爆ぜろ」

額に青筋浮かべ、腹の底から呪詛を吐いて、ふらりと力の抜けたサンジを、ゾロが受け止めてくれた。






淡い恋心、と思っていたものは、気付くと得体の知れない化け物に変身しちゃってるもんだな、と今現在、サンジは思っている。
ゾロの部屋の玄関で。

いくらゾロに恋人ができたのがショックだったからって、そのカノジョのほうに愛の告白、なんてどう考えても矛盾してるよなぁ。なんで、ゾロに告白しなかったのか。
―――たぶん、勇気がなかったんだ。
それでもゾロと、関われる機会を失いたくなかったから。
だから・・・・今これが、やっと巡ってきたチャンスなんだ。ここまでこれたことを無駄にしちゃいけないんだと。ずっと前に流行った『イツヤルノ?イマデショー!』というフレーズが浮かんで消える。

サンジは思い切って、目の前の「逆ってなんだ」と聞いた男に向き直った。
ごくり、自分が唾を呑む音がやけに響いて赤面する。やべーいざとなると緊張のあまり鼻水垂れそう。
サンジは視線をゾロに向け、けれどすぐに逸らし、またおずおず見上げる。
ゾロはその間も険しい顔をしながら、サンジの言葉を待っていてくれた。大事な時に急かしたりしないゾロの、こういうところも好きだ、なんて思って高鳴る胸をシャツの上からぎゅっと押さえた。

「・・・おれが、近付きたかったの・・・おまえ」

ゾロの目を見据えながら。言えた。言ってやった。膝がガクガクしてるし、うまく言葉にできなくて声は掠れ、なんか片言みたいになったけど。
「・・・ならいい」
ふうと息を吐いて笑うゾロ。わらうと言っても苦笑に近いその顔が、ゆらり、サンジに近付く。
どんな顔しててもクソかっこいいなゾロ、とか見惚れてる間に、視界が暗くなって気がつくと

ゾロに、キスされていた。


トンと壁に背中があたり、ゾロに唇をおしつけられてサンジは反射的に目を瞑る。
サンジよりも幾分高い体温、薄くて硬い唇が、一瞬だけくっついて離れた。
それでもまだほんの鼻先一つ分空けて、ちょっとでも身を寄せれば触れそうな距離で、ゾロが瞳を覗き込んでくる。サンジの頭の中で、まさか、まさかゾロがまさか、と同じ単語が猛スピードで駆け廻っている。
サンジの左胸に当てたままの拳に感じるびっくりするぐらい跳ねまくってる心音が、ゾロにも伝わってしまいそうで。ハァと震える吐息が互いの間に留まってあったかい、まだ触れてるみたいな感覚がした。

「・・・なんでゾロ・・・キス・・・」
「あ?こういうことだろ?」
―――近付きてェってのは。

口角を上げ、目を細めてゾロが囁くやたら甘く響く声がサンジの耳を浸す。
(・・・っぎゃああぁ!やっぱコイツ、タラシ決定!自信満々に言ってんじゃねぇよ!)
内心では罵れるのに、実際その通りなので二の句が継げず、ましてどんな顔していいのかも分からず表情を作ることができなかったサンジは、ぐるんと巻いた両眉を情けなく下げ、感情そのまま表にだして真っ赤になって頷いた。
傍から見れば『照れている』と表現するしかないような困り顔で。
すると、ふっとゾロが声に出さず笑みを零す。

見上げる位置の光の加減か、普段茶色いゾロの瞳が一瞬、金色に映る。魅入られたように目が離せなくなって・・・たまらなくなったサンジはゾロの胸倉を引き寄せ、今度は自分から唇を合わせていた。
「・・・っん・・」
首を反らし顎を上げ、大して変わらないと思っていた身長差だが案外ゾロのほうが高くて、伸びをしないと届かないのが少し悔しい。
離そうとすると薄く開いた口の狭間でちゅっと音が鳴る、それにまた煽られてサンジはチュ、チュッと軽いキスを繰り返した。ゾロがサンジの後頭部を手で支えより深く唇を合わせてくるから、応えるように押しつけ角度を変えるたびに意図せず喉から甘い声が漏れる。
(うわ、キスってこんな恥ずかしいもんなのか・・・?)
こんなに、ただ吸いあってるだけで気持ちいいもんなのか? それとも相手がゾロだからか。

「・・・口開けろ」
熱い色を帯びた声で言われて、素直に開いたサンジの口内に、ゾロが舌を捩じ込んでくる。熱くて分厚くてねっとりした舌で、口の中いっぱいにされて
「ぇうぅ」
ゾワゾワと項に走る痺れが、背筋を通って全身に伝わる。粘膜で直接擦られる感触に、頭の奥が蕩けそう。ゾロのワイシャツの胸元を掴む指にも、ちっとも力が入らない。
ねろねろと舌の側面をねぶられ、空気を含ませてブヂュルと吸われる気持ちよさに、下腹部にグンと熱がこもりそうになる。ンー、うンン、と鳴き声のような甘ったれた声がサンジの喉を通りぬけた。
「・・っはぅ、っん、ぷぁっ」
息苦しくてあえぐように呼吸して、ゾロの肩をぺしぺし叩くサンジを
「音ェあげんの早過ぎだろ」
僅かながら息を乱し、ゾロがからかう。してやったりなツラしやがってと悔しく思うも、紅く滲んだ目元を下げて見つめられると、心臓がドキンとまた跳ねた。

「だっ・・・しょーがねーだろ、はじめてなんだから」
サンジはムゥと唇を尖らせて拗ねた顔をしてみせる。

「おまえな、いっとくけどな、ずーっと好きだった奴にキスなんかされてみ?あたまパーンてなるからな!?なるんだかんな!?あとゾロ、うますぎ!なれすぎ!」

ジンジン痺れる舌ではまるで呂律がまわらない。だんだん子供みたいに舌足らずになってきて、サンジはもうここぞとばかりに言い募った。後半なんてほとんど勢いまかせ。 自分が口に出した言葉の意味をじわじわ脳が理解しだすと、サンジはもうなんか恥ずかしくて居た堪れなくて顔があげられない。
いやいやこんなん、童貞カミングアウトして熱烈に告白してゾロ褒めてるだけじゃねぇかなにしてんだ!いつものスマートクールでカッコイイおれ、どこ行った?!

「・・・ハァ!?・・・初めて?」
なのに気がつくと、さっきまでニヤついていたゾロが表情を変え、今は唖然と目を見開いている。あれ、ひっかかるのそこだけ?
「・・・うん」
「・・・・・・・・・そうか」
奇妙な沈黙の後、静かに呟いてゾロが、サンジを抱き寄せ肩口に額を乗せる。抱きしめられている姿勢だけど、項垂れているようにも取れて。
「・・・ゾロ?」
馬鹿にされるのかと思ったサンジの耳に、次に聞こえてきたのはなんとも重苦しい声だった。

「・・・・・・俺が好きなのか」

好きなのか?という問いかけではない、確認するみたいな言い方。サンジからはゾロの表情が隠れて見えない。 もしかしてまた選択を間違えたのだろうか。―――だとしても、一度ゾロに届いてしまった言葉は、取り消せないのだ。
指くわえて見てる間に、ゾロにまたカノジョできたりしたら、今度こそ立ち直れない。あんな思いすんのはもう嫌だ。いつもの癖で悪態吐きそうになる天邪鬼な自分を封印してでも。

「・・・すきだよ・・・」
初めて会ったころからずっと。

「ゾロ、に、いま恋人とかいねェなら、付き合って・・・クダサイ」
「・・・・・・・・・」
たどたどしい告白に、だが返ってくる言葉はない。肩に頭を乗せたまま重く溜め息を吐くゾロ。
サンジは、彼に拒絶されるんじゃないかと、急に不安になってしまう。
胸の奥がツンとする、何かが詰まって塞いでいるような、ゾロのことを想うたびに湧いてくる、哀しくて切ないこの感覚。 恋だと自覚してから、喜びや嬉しさと、同じだけ付き合ってきた苦しさに、サンジはいまこの場で押し潰されそうになっていた。

「ゾロ・・・好きだ・・・」
力任せにゾロの背に手を回し、ぎゅうと抱きつく。ゾロの肩口に顔をうずめ、じわり、勝手に溢れだした涙がスーツに吸いこまれた。
好き・・・すきです・・・ ぐずぐずと鼻をすすりながらおなじ台詞を何回も繰り返し。
(・・・ほだされて、流されちまえばいいよ、ゾロ)
魔法の呪文みたいに、唱えるだけでゾロが自分のことを受け入れてくれればと願いながら。 勝算?そんなものねぇよ。 これが正しいのかどうかすら分からない。駆け引きなんて上等なテクニック、持ち合わせてないんだから。
もうサンジに残されたのは、素直に気持ちを吐き出すことだけ。 一縷の望みにただ賭けた。

これで最後。ダメなら諦めるしかないのだ。

「・・・わかった」
見上げると、真剣な顔つきのゾロがサンジを見据えている。けれど『好きです』に対して『わかった』の、意味がサンジには分からない。・・・まさか、ほんとに絆されたりしたんだろうか。
「・・・それ、付き合う、ってこと?」
「ああ」
「・・・いいのか?」
「いい」
「・・・なんで?」

ああとかいいとかばっかりの返事に、次に『うう』つったらコイツ蹴り飛ばしたろか、とサンジが睨みをきかせたら、その顔を見たゾロがふっと気を抜いたように笑った。
「なんでもなにもねェよお前、そういうことは早く言えアホ」
ぐりぐりと眉間、というか左の眉毛巻いてるあたりを指でこねくられてサンジはぐぅうと顔を顰める。やめろやめろこれ、整えるのけっこー大変なんだからな!?
・・・ていうかアホて!今付き合うことになったばかりの相手にアホ呼ばわりて!
「んな、男が男好きになったなんて簡単に言えるかボケェ」
サンジもゾロにつられて口汚くなってしまう。やっぱあれな、素直になるってムズカシイ。
それなのに、こういう会話でもゾロとできるってだけで嬉しいんだから恋心ってヤバい。

「ったく、手間ァかけさせやがって」

え?と顔を上げたところを、ゾロに抱きしめ返されて、サンジの胸がクンと鳴る。
うっとりと逞しい腕に囲まれていたらサンジの、おれがいつゾロに手間かけたっけ?なんて疑問は一瞬で霧散した。

ただ幸せに浸って、ゾロの背にしがみついていた。





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最後にここで少し、ロロノア・ゾロの話をしよう。


ゾロの、サンジに対する初めの印象は、なんだアイツすげー眉毛巻いてんな、とかその程度。
部署が違うため面と向かって話したことはあまりない。仕事はできるらしいがなにせ女性に対する行動がことごとく軽い、チャラい、あと勢いよく回るの怖い、と言われている男。

その金髪が、ゾロに投げかける意味ありげな視線に気付いたのは、入社後しばらくしてからのことだった。

(女好きを触れまわっておきながらコイツは、男もイケんのか?・・・物好きな)
それまでもオンナのようにゾロに抱かれたがる男がいないわけではなかったが、さすがにソッチの趣味は持ち合わせておらず。今回もどうせその類、適当にかわせば済むだろう―――とそう、確かに考えていたはずが。

濡れて潤んだ瞳で、頬を染め見つめてくるくせに。
社交辞令で挨拶をすれば、はずんだ声で返し、嬉しそうに笑みを浮かべるくせに。
会社でも、飲みの席でも、視線だけは肌で感じるものの、一向に話しかけてもこようとしない金髪に―――あまつさえ、オンナとみれば手当たり次第に口説いて回る彼の様子に―――いつの間にか苛つきを覚え、知らずゾロのほうも金髪を目で追うようになった。

その月日が二年を数える頃にはもう 『抱かれてェなら抱いてやるから、早く寄ってこい』 とまで考えるようになって―――
サンジが醸し出す悩ましげな色に気を取られ、他の人間などまるで目に入らない。柔らかそうな髪を、白い肌を、細い腰を、サンジの身体を存分に撫でまわす様を何度も想像して。
・・・オイこりゃ一体どんな手管だよ。などと絆されそうになっている自分に驚いてもいた。


そしてゾロの誕生日の夜、漸くサンジ自ら近付いてきた。数えてみれば出会ってから三年半の月日が流れていた。

サンジを部屋へ持ち帰ったのは、だからゾロにしてみれば当然の行動。
ビビと付き合っていると思っていたらしいのには多少驚いたが。
ゾロに近付きたかったというサンジの台詞に、やっとかよ待たせやがってと。
口内へ深く舌を潜り込ませると、ぎゅっと肩をすくめ、上あごをくすぐるとブルリと震え声を漏らす。慣れているのかいないのか、キスひとつで腰を抜かしそうになるサンジに、ゾロもなんとなく違和感を抱いて―――
『初めて』と『好き』というサンジの告白に、度肝を抜かれた。


ゾロはまさにこの瞬間まで、サンジが身体目当てでゾロを見ていたのだと、疑いもなく信じていた。
彼が自分に抱いていたのが『恋愛感情』だったなど、夢にも思っていなかったのだ。
「そうか」という一言を発するのに、だから時間がかかった。

俺のことが好きなのか・・・そうか。

しがみついて涙まじりに「好きだよ」を繰り返すサンジに、ゾロの心臓がギリッと締め付けられる。
どうやらこの男のことを自分は誤解していたらしい。それなら悪いことをしたな、と。
だからといって、『ならこの話はなかったことに』 なんて考えも浮かばない程度には、サンジのことを憎からず思っていたのだ、ゾロも。
だから「わかった」と答えた。
腑に落ちないようにいいの?なんで?と問いなおすサンジを、ゾロは憎からずどころか、堪らなく可愛いと感じて、抱きしめた。


しかしこの時はまだ、ゾロ自身も気付いていなかったのだ。

自分でも知らないうちに、サンジの存在が大きく心を占めていたことに。

一度パズルのピースがはまってしまえば、転がり出して止まらない。

もうしばらく後には、想像していた以上にサンジに振り回されつつ、メロメロになるのだということに。


(そんなに俺に惚れてんならしょーがねェよな)
なんて彼が優位に立ったつもりでいられるのも、今だけなのだ。




 END





ゾロ誕一作目これにて終了ですーゾロおめでとうーv
もっそ中途半端に終わりましたが、この二人の話はまたいずれ、どこかで機会があれば書きたいなぁと、
思っていますので・・・やたらと設定詰め込み過ぎたのはそのせいです(汗)
望んだ通りのことが起こらないのが人生だよねー。(うーん?)

およみいただきありがとうございましたーv
ブラウザを閉じてお戻りくださいv

2013.11.18up