「もっと、熱くしてやるよ・・・」


 掠れた声で。

 耳元で低く囁かれ、

 サンジは全身の力が抜けるのを感じた。





 冬島。寒い日。ふたりは・・・ 2






 (・・・ぁー・・なんで、こんなことに・・・なってんだっけ??)


 ぼんやりと、もう何度目かの疑問が浮かぶ。

 ちょっと意識を飛ばしてしまっていたサンジが気が付いた時には、体はゾロの膝の間に納まっていた。

 ちょうど、床に座って向かい合う恰好で、剣士の武骨な指で全身を撫で回される。

 シャツのボタンが外され、一瞬ひやっとした冷気を感じたが、すぐに触れてきた熱い手に、それも掻き消された。



 「お?ここも冷てぇんじゃねぇか?」

 なんだかニヤけた顔でゾロがそう言うのに、サンジは答えられず、ただ首をぶんぶん振るだけ。

 (今喋ったら、ぜってー変な声でる・・・っ)


 だって、ゾロが触ってるそこ、ち・・・ちちち乳首だから!!


 「 やっぱ寒いんだろ。鳥肌立ってるし・・・・・・ココも、こんなに勃ってる・・・」



 〜〜〜〜うがぁあああああ!!!



 ぷつんと尖ったソコを撫でられ囁かれて、サンジはありえない程の羞恥に震えた。

 「な・・・んななななあぁぁああ・・」

 「じっとしてろ。あっためてやってんだから」



 寒いから。サンジが冷たいから、暖める。


 さっきから、ゾロはそれしか言わない。

 「っそれ、ぁあっためるって・・・いわな・・・ぁう!」

 きゅうっと立ち上がった突起を摘まれ、甲高い声が出た。

 自分が出した声とは思えず、咄嗟に手で口を塞ぎ。



 唇に感じた己の手の熱さに吃驚した。


 (・・・おれ、もう寒くねぇじゃん!つーか熱いぐらいだし!!コイツに触られる必要なくねぇ!?)


 「ぞろっ!もぉいい・・・っも、十分あったまったから!!」



 そう言って押し離そうとするのに、剣士は眉間に皺を寄せて、


 「だめだ」  と言った。


 (・・・は?)

 何故、触られてるほうが、「もういい」と言っているのに、触ってるほうが却下するのか。

 分からずに、ぽかんとゾロの顔を眺めた。
















 「あの、ロロノアさん・・・?何でおれ、押し倒されてんでしょう・・・」

 上にのしかかるゾロに向かって、サンジは今更な疑問を投げかけた。

 「・・・あぁ?おめぇはほんっとにアホだな」

 「あぁん!?」

 既にサンジのシャツは脱がされ、ゾロも自分で服を脱ぎはじめている。

 「ここまできて、まだわかんねぇのか?」



 分かるもクソも、おめぇが勝手にやりだしたこったろ!!

 分かるわけねえ!!アホはおまえだ!! 早くそこ退け!!



 そう思うと同時に、


 この期に及んで、悦ぶ自分がいる。


 ゾロに触られて嬉しいと、思う自分が。




 「ちったぁ頭使って考えろ、アホコック」

 「あ・・・アホアホうるせぇ!!おめぇにだきゃ言われたくねぇよクソ腹巻!!」

 はぁー・・・と、重々しく溜め息を吐かれて、サンジは怒った。

 ・・・・・・遅すぎる気がしなくもないが。



 「・・・いいから。考えろ」

 サンジの軽口にも乗らず、ゾロは真面目な顔で言い募る、その表情には苦渋が浮かんでいて。

 「なんで俺がこんなことしてんのか。」

 「おれが・・・・・・寒がってたから・・だろ?」



 「・・・寒がってるやつを、全員抱いてまわるのか?俺ァ・・」

 「・・・・・・そうなのか??」

 「・・・んなわけねぇだろ。よく考えろ」


 押し倒された体勢のまま、それ以上触れず、目を逸らさず。


 ゾロの瞳が揺れているように見えるのは、サンジの気のせいなのか。


 (考えろって言われても・・・)


 その考えつく先は、全部自分の都合のいい解釈としか思えない。



 ゾロが・・・俺に触りたがってる。なんて・・・。

 ありえねぇだろ。 笑えてくらぁ。

 笑えるはずなのに。



 こみ上げてきたのはなぜか、涙だった。





















 *****     *****     *****     *****












 こんなアホは見たことねぇ。


 「考えろ」と言ったはずなのに、急に顔を歪めて泣き出したコックに、ゾロは苦々しい思いで眉を寄せた。。

 どうせ、また訳の分からないことをぐだぐだ考えて、一人で傷ついているんだろう。

 うろたえるより先に、怒りが湧く。



 コイツはいつも、一人で抱え込んで、悩んで、傷つくアホだ。

 それも、俺の見ていないところで。


 「・・・なんで泣く」

 「・・・っるせ・・・っおまえ・・も、何がしてぇんだよ・・・」



 アホで、ムカつく、愛しいコックだ。


 悲しむ顔は見たくない、と思っていたが、泣かせているのが自分だと思うと それはそれで、泣き顔にゾクゾクした。




 「分かんねェなら、体に聞くぞ」

 ゾロはそう断言すると、押し倒したままのサンジの頬に口付けた。

 そのまま、頬を流れる涙を舐めとる。


 「・・・・・・ぇ?」

 ほけ・・・っと開いたその唇に、自分のものを押し当てた。

 唖然としたままゾロの唇を受け入れるサンジ。

 少しだけ、胸が空く。


 唇をべろりと舐めると、サンジは更に目を見開き。

 しっかりと目が合っているのを確認して、ゾロはニヤリと笑った。



 都合よく開いたままのその口に、ゆっくりと舌を挿し入れる。

 ふわりと触れた柔らかい舌に絡めると、

 「んふっ・・・」

 サンジの口から甘い声が洩れた。




 いつも女におべんちゃらを言い、ゾロに喧嘩を吹っ掛けるその唇が、自分の口付けを受け入れている。

 コックの口から漏れる声に、自然と下半身に血が集まるのを感じた。

 (甘ぇ・・・)

 ゾロは既に夢中でその唇を味わった。


 舌を絡め、唇に舌を這わせる。

 下唇を吸い、軽く歯を当てた。

 その度に、サンジの口から声が漏れ、息が上がる。存分に味わった後、ゾロはキスの箇所を移した。

 唇から頬に、耳に、首筋に。舌の先で撫ぜながら。

 唇が離れた場所にも、指を這わす。緩く、なぞるように擦ると、サンジの体がびくびく震えた。



 「んぁあっ・・・ふ・・っん・・」

 (・・くそ。・・んな声、出すなっ)

 出させているのはゾロ自身だというのに、どこを触っても感じるコックの体に、余計煽られた。


 コックはもう、抵抗もなく横たわり、ゾロの愛撫を甘んじて受け入れている。

 『寒いから暖める』と言うゾロの口実も、どこまで覚えているのだか。


 視線を落とすと、目の前に、慎ましく色づく桜色の突起。

 女の胸のような膨らみは全くないが、ふわんとした、それでいてプルンとした乳首に、今更ながら目を奪われた。

 「・・すげぇ・・・」

 思わず、ばくんっと口に含む。

 「・・・・・・うそ・・・やっ!?」


 サンジが驚いたような悲鳴をあげるのにも構わず、そのままむしゃぶるように吸った。



 (これ、取れっちまいそーだな・・・。)



 柔らかく、ちょっと大きめな乳首は心許ないように思えたが、それでも舐め吸っているうちに、きゅうっと硬く尖り、薔薇色に変わった。




 「やっ・・・あ・・あ、ぅん・・っ」

 涙を滲ませながら、ゾロの動きをサンジが見ている。

 それに気付いて、サンジと目を合わせわざと、舌だけを突き出して、赤く熟れた突起をチロチロと弾いた。

 もう片方、未だ触れてはいなかったほうへ指を伸ばすと、きゅっと緩く摘み上げる。

 「ひぁ・・・んあぁ・・・」

 気持ちよさそうに身を捩るサンジの脇腹を、空いた手でゆっくり撫ぜた。



 「っふ・・・ぁ・・あん・・・」

 蕩けるような快感と羞恥がない交ぜになったような表情で、切なく眉を寄せるサンジに、ゾロの熱も否応なく高まる。



 (あーークソっ!このまま突っ込んじまいてェ!!・)


 ・・・しかし、そんなことなど出来るはずがない。

 コックを傷つけたいわけではないのだ。

 できることなら、やさしく、包み込むように慈しんでやりたい。



 そうは思えど。

 目の前のコックの痴態を前に、『なにもしない』などという選択肢は選べない。

 絶対選べない。

 つーか、我慢がきかない。



 せめて、傷がつかないよう、できるだけ慎重に事に及ぶつもりだ。

 男同士の交わりは、話にしか聞いた事がなかったが、このときの為に知識は万全。準備も万端整えておいた・・・はずだ。

 いざと言うときの為に、船内のあちこちに隠しておいてよかった。



 『事に及ばない』なんて選択肢も、もちろん端からない。




 ロロノア・ゾロは、普段愛刀を持つ手でサンジのベルトを外し、前を寛げると、そこから左手を滑り込ませた。



 「んにゃぁっ!!」



 (―――にゃぁ て・・・ッ!!)



 サンジの口から出た悲鳴に似た嬌声に、ゾロはなぜか、がぁああっと頭に血が上った。



 どこかで、ぷつっと何かが千切れる音を聞いた・・・気がした。