サンジは今、人生最悪の状況を迎えている


 最悪っつーか、最低だ!


 よりによって、こいつに

 こんなところを見られるなんて・・・!




    
−1−





 サンジと、ゾロは、元予備校で働く同僚で、
 サンジが転職した現在、 ゾロのマンションで同棲中の恋人同士。
 男同士のカップルではあったが、
 蜜月、と言っても過言ではない、まるで新婚のような生活を送っている。
 もちろん、ヤることもきっちりヤってる。

 だが、毎日毎日いちゃいちゃいちゃいちゃして過ごしているバカップルだが、

 サンジには、ひとつ悩みがあった。

 普通に生活していて、可愛い彼女もいて、そろそろ結婚とか考えてる 同年代の男には、
 決して理解されないであろう、その悩みとは・・・。


 まだ、後ろだけでイったことがない。

 というもの。








 玄関先でうずくまり
 『恋人とのセックスを円滑に、より楽しむための小道具』 などとあからさまには明記されてはいないものの、
 訳してみればそんな感じのものが入った小包の中身を、サンジは唸りながら眺めおろす。

 (ナミさん・・・これをおれに、どうしろと・・・・?)



 ゾロとサンジ 共通の友人でもあり、サンジが以前働いていた予備校の講師でもあったナミは、いまでもなにかというと連絡を寄越してくれている。

 ゾロと一緒に住んでいる、ということを知る、数少ない友人の一人なので、ありがたいと言えばありがたいのだが。
 この可憐なレディに、ゾロとの関係までもを知られてしまった。
 そのことについて、サンジは最初のころは
 『ちがうーーちがうんだナミすゎーーん!!おれが好きなのは君だけだぁぁぁ〜!』
 と泣き喚いて跪きながら言い訳したりしていた。

 しかしナミの、神々しい聖母のような微笑とともに
 『誰を一番好きか、ちゃんとサンジ君も分かってるでしょ?自分にウソついちゃダメよ』
 と優しく慰められ、ほんとにそのとおりだ・・・と、納得した。
 その背中に見え隠れする、矢印のような尻尾には気付かないままサンジは、
 何かあれば、・・・特に何もなくても、ゾロとのことを ナミに相談する、というのが癖になってしまったのだ。

 体よく暇つぶしに使われていることなぞ、知らぬほうが身のためだ。



 だけども、先日ナミと話したときに、そんなことを言った覚えはない。
 夜の性生活について会話が及びそうになったときだって、さり気ないフリで話題を逸らしたはずだ。
 麗しい美女に、恋人とはいえ男同士の夜のアレコレを聞かせるなんてもってのほか。
 そのうえ、『ゾロとのセックスについて悩んでるんですぅ〜』なんて、男の意地にかけて、口が裂けても言えるわけがない。

 なのに。

 なんで、こんなものがナミの名前で送られてくるのか、サンジにはさっぱり謎だった。





 どうにも、 確認しなきゃなぁこれは・・・ と。

 カタカタと震える指で、探り当てた携帯電話のボタンを押し。


 リダイヤルの一番最初に上がった人物に、電話をかけた。


 数回のコールのあと、聞きなれた、低く馴染んだ声が耳に届く。




 『サンジ?どうした?』


 「あー、ゾロ? おめェ今日、飲み会で遅くなるつってたよな?」


 『ああ、悪いがメシ、先に食っててくれ』


 「うん・・・あ、と、そんで、・・・何時頃帰ってくる?」


 『まだわかんねえけど・・・早くても十時ぐれぇか。 ・・・ん?どうした、寂しいか?』


 ふいに、甘やかすような声音に変わる恋人に、サンジの胸が ドキンと跳ねる。


 いつもならここで、 うん、寂しい、早く会いたいよゾロ・・ と素直に甘えるのだが。


 今日だけは、早く帰ってこられてはマズいのだ。


 「んーん、気をつけてな。楽しんでこいよ」

 これからすることを思い、いつもと違う速さで打ち始めた鼓動。

 なんでもないよー みたいな顔をするのも、一苦労だ。

 だってゾロは、ほんの少しの声や仕草で、サンジのことを、全て見透かしてしまうのだから。

 もう少しだけ話をしていたいと思ったが、あんまり長く話していると、様子が違うのがバレてしまうかもしれない。

 サンジはいつものように「ゾロ、好きだぜ」と電話口にキスをして、通話を切った。


 携帯を置いて、時計を見遣る。


 午後七時。

 時間はまだ 充分。


 サンジは、馴染みのあるものや、見たこともないものまで混ざった小包を胸にかかえると、


 早鐘のように鳴る心臓をおさえ、急ぎ足で寝室へと向かった。










 ********************







 ええと、ええと。

 まず、どれがなに・・?


 ベッドの上に座り、段ボール箱の中から取り出したそれらを、確認のためにひとつずつ並べていく。


 まず見た事があるのは、ローションやら避妊具やら。
 これは、いつもお世話になっているものだから、使い方も分かる。

 紫色の、長さ十五センチほどの細長い、ローター・・?かな、これ。本体にコードで繋がれたスイッチがついている。
 それより少し小さい、親指サイズのローターっぽいのがもうひとつ。こちらはどうやらリモコンで遠隔操作できるものらしい。
 明らかに男性器を模したと思われる、ぶっといバイブ。や、これよかゾロのがでかいけど。
 あとは、ピンクのふわふわもこもこのついた・・・手錠・・・。

 そして、大量の電池。

 至れり尽くせりとはこのことか。

 過去に集めた知識(主に成人向けビデオでだったが)で使い方が、なんとなくでも分かるのはここまでで、
 あとは見たこともないものばかりだった。

 ブツブツした突起のついたゴム状に穴の開いた、派手な色のなにか・・・
 シリコンっぽい、まるい輪っかがふたつ連なった・・・なにか。
 あ、下着みたいなのも・・・・・っつか、これなんだ!?下着か? ヒモか?!

 恐る恐る、並べていたサンジは、そこまで見て、ごくり、と喉を鳴らす。
 未知への恐怖か興奮か。背筋が、ざわざわして、ひどく汗がでる。
 残された箱の中に、なにかもっと、見てはいけないものが入っているような気がして。
 これ以上、見る勇気がない。

 とりあえず、使い方の分かりそうなものだけを残し、あとは全部箱に戻してベッドの下におろした。


 「あ、シャワーとか浴びといたほうがよかったのかな・・」

 これらのいわゆるおとなのおもちゃ、を、送ってきたのが誰あろうナミだ、とか
 ゾロに、なんか悪いことしてるのかも・・とか。
 ひとりでこんなの使っちゃうなんておれ、どうしちゃったんだろ・・とか

 そんなこと、サンジはもう考えられなくなっていた。


 ただ、震えるほどの背徳感とともに、喉が異常に渇くような。

 異様な興奮で、もう、目の前にある器具しか、映らない。






 ズボンを脱ぎ捨て、シャツと下着だけになると、

 ころんとベッドに寝転がった。

 ふうーと息を吐きだし、器具を手にとり眺め、しばらく逡巡する。



 ゾロとの、

 セックスは、

 ほんとに、すごくすごく気持ちいいのだ。


 無骨な普段からは考えられないほど、優しく、サンジを気遣って抱いてくれる。

 物足りない、どころか足りすぎて、幸せで・・・・・・おなかいっぱいになりそう。



 でも、だからこそ。

 サンジが、後ろでも快感を得れるようになれば、ゾロも 喜んでくれるんじゃないかと、思う。


 そのための、開発。



 自然にわきだした唾を、ごくんと飲み込み、サンジは期待に昂ぶる性器に手を伸ばした。

 ゾロと一緒に住むようになってからは、その必要もなかったため、自慰をするのも久しぶりだ。


 下着の上から、ゆっくりと揉み込むように撫でさする。

 まだただの同僚だったころから、頭に思い描くのは、いつもゾロだったな、とふと思い出す。

 あの頃は、想像でしかなかった熱も、触り方も。

 今もう現実に覚えこまされた体が、痺れるようにうずきだした。

 だが むにむにと揉んでいても、なにか違う、と思ってしまう。


 自分の手じゃ、あんまりヨくない・・・
 ゾロの、手のほうが・・・・

 「ン!・・・・ぅ、・・は、アん」

 あの硬いてのひらで撫でられる感触を思い出すと、途端に息が上がった。

 普段は我慢している声も、サンジ以外に聞く者のいない今なら素直に出せる。
 ひと撫でするごとに、むくりと頭をもたげるペニスを下着から引きずり出し、とろとろと垂れる先走りを塗りつけながら指を絡めた。

 「ぅあ、・・・っフゥ・・・ぅう」

 目を閉じ、まぶたの裏で、いやらしい顔の恋人が、自分の性器を扱くところを思い浮かべる。

 ニヤケた口元と、少し顰めた眉、目を細めて見下ろす、あの表情。


 (ア、うあ・・・・っ、けっこう・・・クる・・っ)


 「ゾ、 ろ・・・っア、はぁっ」


 いつもされるように、ペニスの割れ目に、指の先をもぐり込ませ、グリ、と軽くコスってみる。

 濡れて滑る感触に、耐え切れず、ピュ、とカウパーらしきものが飛散した。


 ( あ・・ も・・イっちゃ・・・・・)

 ・・・っ てどうするよ!


 達くのは後でいいのだ。 やるべきことが、他にあるんだから。


 自慰に耽り、あやうく本来の目的を見失いそうになったサンジは、片手に握られたままの、小さな器具を目線の先に置いた。


 自分でも、触ったことねェのにな・・・。


 これっくらいなら大丈夫かな、と舌を出して濡らすのは、少し長めの、コードつきローター。
 長い、と言っても、胡瓜や人参よりは小さ・・・って食材と比べるのもどうなんだっ!?

 職業柄、クセとはいえ、こんなときに料理のことを思い出してしまい、ぶるぶると首を振った。


 寝転んだまま膝をたて、そろそろと足を開く。
 ドハデな紫と、硬い、プラスチックの感触にはどうにも慣れなかったが。
 探り探り、アナルの周辺をつついてみる。
 無機質な冷たさに、ぴくんと尻が揺れた。


 硬くすぼまった尻孔に、挿れようとするものの、流れた先走りと唾液で、ヌルと滑ってうまく挿らない。
 ツルン、ツルンと表面をオモチャで撫でているうちに、その刺激だけでも、だんだん体が熱くなってくる。

 それまで口を閉ざすだけだったはずが、徐々に挿入を求めて ひくひく蠢きだした孔に、
 照準を合わせピト、と垂直に押し当て、 ハァン・・と息を吐き、ベッドに深く身を沈め。

 「ぅ・・・・っく・・ン」



 少し躊躇ったあと。クイ、とひときわ力を篭めて、己の中に異物を押し挿れた。

 くぷんとめり込む、細く硬い感触。


 「んぁ・・・・っんん・・」


 肉の硬さとは違う、無機質で感情のない、強烈な違和感。



 「ヤ・・っぁ・・・」



 やっぱり、ゾロがいい。 ゾロの熱がいい。

 ゾロじゃなくちゃ ヤだ・・・


 ちょっと意地悪で、でも優しいあの手に、触って欲しい。



 いつもさいしょは、ゆびがはいってきて。

 すげー熱いな、ってエロい声で、ぐにぐに、ナカで動かされて。

 入り口はキツいのに、中、柔らかいな、って。二本目いれるときには、手で、尻を割り開いて。

 引き攣れるみたいなかんじがするのに、むにーって開かれるの、なんかきもちよくって。


 その感触を思い返すと、異物を飲み込んだ後腔が、少しひくついた。

 「うア、ン・・っゾロぉ・・・ぁ、んハっ・・あ・・」

 そろそろと引いてみると、細長い棒が出ていこうとするのに、入り口がきゅぅと締まって絡みつく。

 「ふわ・・・ぁぁあ」

 ゾワゾワゾワーと全身に、嫌悪でなく 鳥肌がたった。








 「ま、こんなこったろうと思ったけどよ」


 突如 からかいを滲ませた低い声が、聞こえた気がして。


 (・・・あぁ・・・・声まで聞こえるなんて・・・おれも相当ヤバいなぁ・・・)

 一瞬ぼやけた頭で思ったけれど、

 なんだか、幻聴というにはあまりに鮮明で。

 頭で理解するより先に、本能で全身の毛穴が、きゅーうと縮こまった。


 がばあ!!!と身を起こした、視線の先に、寝室の扉に凭れた男のシルエット。


 それも、あまりに見慣れすぎた。


 (・・・・・・ゾ ・・ッ)



 えっ? え、 ええええっ!?!?

 なんで・・・!!?

 うそ・・・


  ―――――――見られたっ!!


 気付いた直後には、ゾロにのしかかられていた。









 
 
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