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 三人で囲む夕食。

 サンジ作の冷麺を食べるゾロとナミ。


 ちょこまかと動き回るサンジ。


 「ナミさ〜んvvあとデザートもあるよぉ」

 にこやかに話しかける先には、ゾロの姿をした、中身は女航海士。

 ゾロ本人は、鮮やかなオレンジ髪の少女の姿で、もう酒を飲んだりしている。

 黙々と。眉を寄せながら。


 (あ〜ぁ、そんなに顰め面したら、あたしの顔に皺ができちゃうじゃない!)

 しょーがないマリモね、まったく。



 ナミは、ゾロもいる前で嫌がらせを実行することにした。

 あわよくば、うまくいっちゃうかもしれないわね、と思いながら。

 ニヤリ・・とナミの笑顔を見たサンジは一瞬固まり、マジマジと凝視する。



 「ナミさん・・・どうかした?」


 「サンジ・・・いいからこっち来て一緒に食え」


 普段、ゾロが絶対呼ばない彼の名を呼び、ゾロの口調を真似て、優しく囁く。


 「・・・・・・は?ナミさん??」

 「ほら、ここ座れ」

 ここ、と指された場所にふらふらと腰を下ろしたサンジだが。

 「あの・・・なんで隣に?」

 不思議そうな、怪訝そうな顔でおどおどしている。その表情だけでも、充分だったが。

 「デザート、おめぇが食わせてくれよ。サンジ」

 「ひぇっ!?え・・・ぇえ!?」

 すぐ脇に座らせたサンジの腰を抱き、不必要なまでに顔を寄せる。

 真っ赤になったサンジに、ナミが内心ほくそ笑んだとき。



 ゾロが、ガタン!と音を立てて立ち上がった。



 「わっ!!ぞ・・・ゾロっ!?どーした!?」

 サンジが慌ててそっちを向く。ナミは見えないところで小さくガッツポーズをした。

 「・・・・・・酒。足りねぇ」

 「お・・・おう、取ってきてやるよっ」

 素直にサンジがそう言い、よたよたと予備の酒を取りに倉庫へ向かうのを。

 険しい顔で見送ったゾロは、ラウンジからサンジが出て行った途端、ナミに詰め寄った。

 「おい、てめぇ、どういうつもりだ?クソコックに近寄るんじゃねぇ」

 嫉妬丸出しで言われても、そう言ってるのが自分の顔だからか、ナミは余裕の表情で言い返した。


 「悔しかったら、あんたもやってみなさいよ。まぁ、サンジくんに優しくするなんて芸当、ゾロには無理だろうけど?」


 あほくさ。



 そんなにサンジくんが大事なら、さっさと自分のものにすればよかったのよ。

 それを、子供が好きな子を苛めるみたいに、喧嘩ばっかりふっかけて。

 それで毎回船を壊されたんじゃ、いい迷惑だわ。



 忌々しげに睨むゾロに、不敵な笑みを投げかけながら。

 ナミは、自分の策略がうまくいけば、どっちから成功報酬をもらおうかと、皮算用を始めた。






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 (名前、呼ばれちゃったよぉ・・・)


 熱くなった頬を擦りながら、サンジは急いで倉庫に駆け込んだ。



 『ゾロ』に、初めて、名前を呼ばれた。



 いや、実際呼んだのはナミさんだ。

 分かってるよそんなこたぁ。


 ゾロが、おれの名前なんて呼ぶわけないって分かってる。

 でも、


 あの声で、


 「サンジ」と呼ばれた瞬間。



 心臓、止まるかと思った。




 そう呼んだのはゾロの顔で、ゾロの声だけど、中身はゾロじゃない。
 ナミさんだ。
 おれの大好きなレディだ。

 たとえ見た目がクソ腹巻でも、レディにデザート食わせてもらえる、なんて名誉なことじゃねぇか。



 なのに、なんでこんなに悔しいんだ?

 なんで切ないとか、思っちゃってんだよおれ。


 ゾロに、

 ほんとのゾロに、あんな風に、名前を呼んでもらいたいなんて・・・。













 「おっまたせ〜〜ナミすぁんvvデザートすぐ用意するからねぇ。 おら、クソ剣士、酒だ。」


 『ゾロの姿をしたナミ』に、デザートを渡し、

 『ナミの姿をしたゾロ』に酒瓶を放り投げ・・・・・・ようとして、やっぱりそのまま渡す。もし手が滑って、ナミさんの玉のお肌にぶつかりでもしたら、と思ったからだ。

 ゾロは、それを受け取ると、何も言わずに飲みだした。



 「それよりナミさんっっvvデザートのアイス、おれが食べさせてあげるよぉぉぉぉvv」

 さっきは驚きのあまりちょっと変な声出ちまったしな。

 メロリン リベンジだっっ!!

 とばかりに目の前の、緑頭の『ナミ』に向かって、ラブハリケーン全開だ。



 けど、いつものごとく『いい、いらない。』って冷たくあしらわれんだろうな〜。

 あぁv でもそんな冷静なナミさんも素敵だーーー!!!



 「はい、あ〜んvv」

 と、スプーンに乗せた 冷たいアイスクリームを

 口元に持っていく。


 するとナミは、心底嫌そうな顔をしながらも、それを口に含み、そのまま飲み下す。


 「あめェ。けどうめぇなこれ」

 「・・・・・・ほぇ?」


 ナミさんがほんとに食べてくれるとは思わなかった。

 この展開は、今までの経験上、これっぽっちも想像してなかった。


 つーか、ゾロの、食べてる顔、こんな近くで見るのは初めてだな。

 なんちゅーか、赤い舌がエロくさいっつーか・・・。




 ・・・いや、ちげぇやべぇ!相手はナミさんだぞ!!

 けしてマリモがエロっちぃわけじゃねぇ。

 ナミさんが麗しいからだそーだゾロのことをやらしい目で見てるわけではぜってぇねぇから!


 「も、もう一口いかがです?」

 「くれ」

 素直に口を開く緑髪に

 サンジは、ゾロが懐いてくれたような錯覚を覚え、なんだか嬉しくなって

 飽きずに アイスを与え続けた。












 ほの赤くなったサンジの顔を見ても、オレンジ髪の少女は

 もう嫉妬したりはしない。


 「俺、もう寝るわ。じゃぁな」

 声が震えないように気をつけながら、低い声でそう言って、キッチンを出て行く。

 「あ、あぁ。おやすみ・・・」

 その後姿を少し寂しそうに見送るサンジには、


 彼女が、ニヤケた笑みを浮かべているのは見えなかった。



















 キッチンを出て、

 女部屋へ入り


 もう堪えきれないというように








 大爆笑を始めた少女の手には



 あの、果実酒の瓶が握られていた。