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 「なぁナミさん・・・」

 大人しく、隣に座るサンジから冷たいアイスクリームを食わされている、

 『ナミ』と呼ばれた剣士は、返事をするでもなく、サンジを窺い見た。


 「誕生日のプレゼント、もう決めた?」

 「・・・あ?」

 「明日だろ?おれ、まだ何がいいかわからなくてさ。ナミさん、何あげるの?」

 「・・・・・・、 はあ?」

 「いや、だから・・・・・・ゾロの、誕生日に。何かあげるんだろ?プレゼント」


 心底不思議そうな顔をするのを、覗き込むように重ねて尋ねる。

 その瞬間に、びっくりするほど大きく見開かれた瞳に、サンジのほうが驚いた。

 「あれ?島に着くときにちょうど誕生日と重なるから、11日の夜はパーティーしようって言ってなかった?ゾロに内緒でって。」

 「あ・・・」

 「だろ?おれさぁ、この島でなんか買おうと思ってたんだよ〜。でも何やったら喜ぶかとか、さっぱりわかんねぇの。ゾロが欲しいものって、なんだろね?」





 他のクルーの誕生日にサンジがプレゼントしてきたのは、いつも料理だった。

 そいつの好物ばかりを並べて、好きなだけ食わして。

 ナミとロビンには、普段じゃとても手が出せないような高級で珍しい食材を探して、最高のディナーにしたものだ。


 しかし、今回は、サンジが料理を作る必要が無い、島のレストランで祝うのだ。

 だから何か他に、プレゼントを探さないとなぁ。と思っていた。




 酒か?でもいつもそれじゃ芸がないよな。

 新しい腹巻?っつってもあいつ、似たようなのいっぱい持ってるし。

 刀・・はみっつもあるし。自分で選んだもんじゃねぇと持たねぇだろうしなぁあいつ。内緒で渡せねぇじゃん。

 あ! 日光!・・・は、足りてるか、毎日光合成しまくりだし。プレゼントするもんでもねぇか。




 いろいろと考えては、否定する。
 ゾロが欲しがるものなんて、見当もつかない。

 だから思わず、手近なクルーに聞いて回ったりして。


 チョッパーはよくきく特製の傷薬。

 ウソップは刀の手入れをする道具。

 二人に聞いたところで、サンジはちょっと落ち込んだ。

 おれだって、クソうめェメシを食わせてやるつもりだったのに。ナミさんの誕生日以降、ずっと楽しみにしてたのに。

 特技を生かして、手作りのものをあげられる船医と狙撃手が、すこし羨ましかった。





 だけど、なにかしたい。

 いつもケンカばかりして、けして相容れなかった相手。

 顔を見るとムカついて、苦しくて切なくて、でも嬉しくなる。そんな男に・・・・・・ゾロに。

 喜んでもらいたい。

 喜んでもらえなくても。ゾロに、どうしても何かを渡したい。


 他の誰に感じたこともない、強いその思いだけが、サンジの中にあった。









 「おい。溶けるぞ、それ」

 ゾロにあげるもの、を考え込んでる最中に、急に話しかけられて、

 「あ、あぁごめん。はい、あ〜ん」

 「あ。」

 素直に口を開けるのに、スプーンで、とろとろになったアイスを流し込みながら

 なんか、ゾロに餌付けしてるみてぇ。こうしてるとコイツの顔、整ってんなぁ。
 いっつも顰めっ面してんのに、こんなとこは子供みてぇ。

 いやいやいやいや違った・・・これはナミさんだった。

 と軽く首を振った。


 「なんでもいい」

 「・・・えっ?」

 ちょっと見惚れていたらしい。

 あ、さっきの質問の答えかな? ん?『なんでもいい』?? 『なんでもいいんじゃない?』ってことかな。

 と解釈して。


 「ナミさぁん。なんでもいい、が一番困るよ〜〜」

 と、新婚の奥さんみたいなことをのん気な笑顔で言ったりしてた。

 それに静かに「そうか」と呟いて、

 「おまえなら、なにが欲しい」

 と真剣な顔で聞いてきた。


 「え?おれ??ん〜〜〜〜〜・・・鍵・・」

 「鍵つき冷蔵庫、以外でな。あと食材もナシだ」

 「あう・・・」

 そんな急に言われても思いつかない。もともとそれ以外にあんまり欲しいものなんかないし。




 ・・・ひとつだけ、あると言えばあるけど。

 それは、願っても手に入らないものだから。





 へにょ、と眉毛を下げると、それを見た剣士は、クッと笑いを漏らした。


 (・・・あれ?)


 なんか今の顔、すげぇゾロっぽかった・・・?



 サンジの肩が、ピクンと跳ねる。触れる距離にいる人物にも、それは伝わって。

 「ん?どうした?」

 からかうような視線を向けられ、頬に手が掛かる。

 「ナ・・・ミさん・・・?」


 「俺が誕生日に欲しいもの、言ったらくれんのか、おめぇは?」


 (あれ?・・・待って?なんか変・・・・・・ナミさんぽくない・・・ってか・・・)


 表情が、雰囲気が、呼吸が。

 いたるところにロロノア・ゾロを感じる。

 サンジのよく知る可愛らしい少女のものでなく。


 野生の、雄の匂い。


 「にゃにゃにゃにゃみしゃんっっ!?」

 「俺が欲しいもん、聞きてぇのか?」


 ニヤリと嗤ったその顔に。

 サンジの鼓動が 振り切れた。



















 一方、女部屋の少女は。

 「あ〜ぁ。こんなことで戻るんだったら、もっと早く試しとけばよかったわ」

 サンジから受け取った辛口の酒を飲みつつ。

 テーブルの上に乗った例の果実酒を眺めていた。


 「チョッパーがまだ元に戻る方法を探してくれてるだろうから、明日になったら報告に行かなくちゃ。」


 酒に強いゾロ用に、サンジが用意したキツめの酒。

 ナミは普段飲まないそれを味わいながら、このお酒も、けっこう美味しいわね。とふんわり笑ったとき。


 んぎゃぁぁぁぁーーーーーー!!!  っと凄まじいコックの叫び声が船内から聞こえてきて。


 あ、もうばれちゃった? と、魔性の笑みを見せた。

 あとは、あのアホ剣士のお手並み拝見ね。







































 「―――――――――っっっ!!!???」

 「耳元で騒ぐんじゃねぇアヒル!」


 大きな掌で口を塞がれたサンジは、引き攣りながら目の前の男を見る。



 さっきまでは、ナミさんだったはず!

 このゴツイ剣士の中身は、ナミさんだったはず!!



 なのに・・・なんで戻ってんの!?

 いつ!?

 いつからゾロだった!?




 「ム―――っっん〜〜〜〜っっ!!」

 「あ?おめぇが倉庫に酒取りに行ったときだ」

 「・・・んん!!んうう〜〜」

 「どうやってて・・・あの酒、また同じように飲んだら戻るんじゃねぇかとナミが言い出してな」

 「ふんーー!!ん、んんん」

 「あぁ!?外すかよ。おめぇうるせえだろ」



 こんなときに変な才能発揮しなくていいから!
 うめき声で言いたいこと理解しなくていいから!
 はやくその手をどけろ!!


 「んむ〜〜〜っっ!!!」

 「あぁ〜〜〜〜はいはい。どけりゃいんだろ」

 「ぷあっ!っはぁ・・・」


 やっと外されたクソ熱い手に、若干の名残惜しさを覚えたが、

 深呼吸しながらサンジは、ゾロを睨み上げた。


 当のボケマリモはなんだか変な顔してそんなサンジを見下ろしている。

 サンジにその表情の意味は分からなかったが、居たたまれなくて、とりあえず罵ってみたり。


 「てめぇ、よくも騙しやがったな!?」

 「騙してねぇ。お前が勝手に思い込んでただけだろ」


 んにゃろ〜〜〜屁理屈こきやがって!!

 とは思っても、確かにその通りなような気もするので、

 サンジはちょっと不貞腐れてゾロから視線を外す。


 「戻ってんならさっさと言えばよかっただろ」

 「んなもったいね・・・・・・いや・・・・・・アイス、美味かったぜ」

 その言葉の後、ボワンっと沸騰したみたいに赤くなったサンジの顔を、

 ゾロが笑って撫でた。



 「なぁ、『誕生日にほしいもの』、 貰っていいか」




 その頬に触れる指の感触に。なぜゾロが自分に触っているのか、なんでそんな優しい顔で見つめてくるのか分からないけれど。

 思わずさっきの、エロくさいゾロの食べ方をうっかり思い出してしまい照れたサンジは、言われた意味を考える前に頷いていた。





 「誕生日には、お前をよこせ」


 「・・・・・・はい?」


 よく分からないことを言われた気はした。

 だが、聞き返す前に、ゾロが続ける。


 「明日は俺と一緒に居ろ。そんでまた、ああやってモノ食わせろ」

 「・・・あぁ。い、いいけど・・・」


 そんなことでいいのか?

 誕生日のプレゼントなのに、一日一緒にいて、『あ〜んv』して食わせてやるだけでいいのか?




 ん?・・・・・・おれが!?

 ゾロに!?

 ええええええっどんな趣味だよ!?

 いつもケンカしかしてねぇじゃんおれら!



 「・・・ゾロ?」

 「あんだ?」

 「や・・・おめぇ、ほんとにそんなんが欲しいのか?」

 「あぁ。欲しいな」

 「そ・・・・・・か・・・」


 ゾロが欲しいなら、いいか。

 そんなことで喜んでくれるんなら、こっぱずかしい新婚みてぇなマネでもして、サービスしてやっか。

 男同士で「あ〜ん」なんて、反吐が出るほどありえねぇケドな。


 実際ゾロにやってみたら、コイツはどんな顔するんだろ。

 照れたりすんのかな。気持ち悪がったりして。

 さっきはナミさんだと思ってたから、あんまよく見てなかったもんなぁ。

 そのときの顔を、じっくり見たいような、見たくないような・・・。



 「よし分かった、明日は楽しみにしてろよ。」

 とニヤと笑いながら赤くなって言うサンジに。


 ゾロは、してやったり、とばかりに顔を歪めた。




 もちろん、そんなことにサンジは気付かない。

 『お前をよこせ』と言われた、その意味も。

 誕生日当日に、どんなことをされてしまうのか、知らぬが仏。




 こうして、蒸し暑くはた迷惑な入れ替わり事件は、幕を閉じたのだった。




























 余談だが。

 翌日。


 元に戻る方法を、寝ないで必死に探し出してきたチョッパーに大泣きされ、 

 ナミとゾロが平謝りに、おやつを分けてやる光景が、船の上で見られたらしい。

 今回の一番の被害者は、このトナカイ船医だったと、クルーたちは同情した。







   
E N D




お読みいただきありがとうございました!!
ゾロ誕生日おめでとう!!!可愛いコックを召し上がれ!(笑)


・・・ちょぱ・・・(泣)