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 「うっほーーーい!!冒険だーーー!!!」

 「うぉ!ルフィ!!一人で勝手に行くなって!!戻れなくなるぞ〜」


 「俺、ゾロとナミを元に戻す方法、探してみるよー!!」

 「あら、じゃぁ私もお手伝いするわ、船医さん」




 「・・・気ぃつけて行ってこ〜い・・・」


 昼になって。到着した島の裏側に船を着け、


 嬉しそうに上陸するルフィ、
 それを焦って追うウソップ、
 なんだかんだいって一番しっかりしてるチョッパー、
 お目付け役ロビン。

 四人を見送りながら、サンジは気の抜けた息を吐いた。




 ゾロとナミが今この島に上陸するのは無理だとしても、サンジまでが船に残っているのは・・・

 ログが溜まるのに二日かかると聞いて、そのあいだの食事を作る役目として、ナミに残るよう諭されたからだったが

 「ふたりっきりで残るなんて!! もしナミさんになんかあったらどーすんだ!?」

 というサンジたっての希望でもあった。



 その際、ウソップが

 「今の二人じゃ、どーにもなんねぇだろ。つうか、どっちを守るんだ?」

 と呟いたのを思い出し、さっきから溜め息ばかりが漏れる。



 そうだ。 今、ナミさんはゾロで、 ゾロがナミさんなんだ。


 あのとき。 「サンジくん、お願いvv」 と(ゾロの姿の)ナミに強請られたとき。


 ぞわぞわぞわ〜〜っと鳥肌が立って。思わずコンカッセをかましそうになったことは・・・墓まで持っていくことにした。





 ・・・それはともかく・・・。



 最悪なことに・・・なっちまった。


 どうにもならないと言われれば、確かにその通り。サンジに出来ることは、二人の食事を作ることぐらいだ。
 サンジはコックで、医者でも植物学者でもないのだから。

 コックという職業に負い目を感じたことは一切なかったが、原因の一端が自分にあると思い、何もできないことに多少落ち込んでいた。




 「・・・おいコック」

 不意に呼びかけられて、ビクッと振り向くと、立っていたのはナミ・・・の姿をしたゾロ。


 (う、あぁ〜〜・・・コレはゾロ、寝ぐされ腹巻のロロノア・ゾロ!!!  よしっ。)


 「あぁっ!?なんだよ? 腹で、も・・・減っ・・たんです、か?・・・」


 クソっっ!!ダメだぁあああ!!! 可愛いんだもんよ!! ナミさ〜んvvv


 自然にラブハリケーンを起こそうとする脚を、気力でつねり。やに下がる眉を必死で抑え。
 思いっきりしかめ面で尋ねる。
 非常に面白い顔になっていることうけあいだ。

 あぁーー言いたくねぇ!!マリモだと分かっていながら、こいつにメロリンなんかしたくねぇ〜!!!

 「おめぇも、降りてぇなら行けよ。船は俺が残ってりゃいいだろ。ナミもつれてけ」

 「・・・・・・は?」

 「お前もなんか買いてぇもんがあるって、ウソップが言ってたぞ」

 「あぁ、そりゃおまえの・・・・・ぁ」

 「んぁ?」

 「・・・・・・何でもねぇっ!!それよかおめぇ!!ナミさんの姿のままで一人っきりになるほうが、よっぽど危ねぇだろーが!!」

 そう言ったサンジに、ようやく、しぶしぶではあるがゾロも納得したようだった。







 ここは夏島。

 しかも湿気を帯びてそこはかとなく気持ち悪い。

 サンジの不快指数はほぼMAX。 気候だけのせいじゃない。


 せっかく島に着いたというのに、買出しにも行けず。
 レディをナンパしにいくこともできず。

 やることも特になく。

 しかも、

 どっちをどう呼んでいいのか分からない男と少女が、

 暇なのか何なのか、ありえないほどサンジにからんでくるからだ。


 「ね〜ぇサンジくん、おやつにまた冷たいものが欲しいわv」

 「・・っぐ。・・・ぁいよ、ナミさん・・・」



 「おい、コック、飲みもんよこせ」

 「は〜〜〜いvv・・・・・・・うわぁ!コレでも飲んどけクソマリ・・・・・うぐぅぅぅ」


 ちょっと、頭痛がしてきた。

 やべぇ。 おれこのままだと、暑さのせいだけじゃなくても、倒れちまいそう。






*************




 サンジは、ゾロが好きだった。


 もちろん、ナミもロビンも大好きは大好きなのだが。

 それとは全く違った次元で、腐れ腹巻を愛しちゃったりしてた。


 誰にも内緒で。



 ・・・と思ってるのはサンジ本人だけで。
 実は他のクルーには全部バレてたりする。

 無論、ナミも気が付いている。

 サンジの気持ちに。

 だからこそ。

 暇なのも手伝って、ゾロの姿のまま、サンジをからかって遊んだりしたのだが。





 「サンジく〜んvvなにしてるの〜〜?」

 「あぁvvナミさんっvv夕飯の準備だよぉ。もうすぐできるからね。今日は特製の冷麺だよ〜」


 (・・・チッ、こいつ、慣れてきやがった。)



 せっかく、気持ち悪いオカマっぽく見えるようにシナまで作ったのに。

 自分でやってても充分気持ち悪かったのに。寒気を我慢して頑張ったのに。

 もういつものメロリンコックに戻ってしまった。ゾロの気持ち悪い仕草に、不気味がって鳥肌を立てるのがおかしかったのに。


 ナミはそれが面白くない。

 非常に面白くない。


 なので、違う方法で嫌がらせをすることにした。

 うだるような暑さと、むさ苦しい筋肉バカになってしまった鬱陶しさと、島へ上陸できない鬱憤が、
 溜まりに溜まっていたせいもあって。一番効果的だと思う嫌がらせの内容を考えるナミ(ゾロ)のその顔は・・・・・まさに悪魔。


 サンジの受難は、これからだった。