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早朝。メリー号。ラウンジ。

麦わら海賊団、全員集合。


その中心には

噎び泣く剣士と、ふんぞり返る航海士。


図鑑や医学書とにらめっこするトナカイ船医。
それを横目で見る、なんだか楽しげな美人考古学者。
蒼褪めながらおどおどする長鼻狙撃手。
目をきらきらさせて喜ぶゴム船長。


苦笑いで朝食を運ぶ金髪コック。



(世の中、願った通りにゃいかねぇもんだ・・・)









チョッパーが図鑑を捲りつつ、説明を始めた。

「たぶんな・・・確証はないけど、昨夜ナミが飲んでた果実酒のせいだと思うんだ」

「え、え?でも、俺が味見したときは、なんともなんなかったぜ!?」

サンジが困惑しながらそれに割って入る。

たしかに、この前立ち寄った島で買った、フルーツを漬け込んだ酒を、昨日の夕食の後、ナミにだけ振る舞ったのだが。
 ―ちなみにロビンに出したのは、最高級の豆から挽いたコーヒーだ―

サンジをチラッと見て、チョッパーがまた口を開いた。

が、キョロキョロと視線を彷徨わせる。

・・・どっち見ればいいんだろ・・・?とばかりに。

「ゾロ、そのお酒、ナミのグラスから飲まなかったか?」

結局、チョッパーは『ゾロ』、と呼んだ 航海士に視点を定めた。


「・・・あぁ、酒だっつーから、一口貰った。甘かったがな」



チョッパーが、はぁーっと重い息を吐く。

「図鑑によれば、こないだの島にしか咲かない、『イレカエソウ』っていう珍しい草があるらしいんだ。
 その実は甘くて、それだけで食べても、料理にしても問題ないんだけど・・・」

「・・・けど・・・?けど、なんだよ?!」

冷や汗を掻きつつウソップが先を促す。

「アルコールに漬けて、ある程度の気温と湿気で寝かすと成分が変わって・・・・・・
 それを同じグラスから飲んだ人間は、中身が入れ替わっちゃうんだって」



「「・・・・・・んなアホなぁ!!!!」」

ウソップとサンジが同時に叫ぶ。


「あら、ここはグランドラインよ?常識ではありえないことでも、ここでは、起こって当然、だわ」

ロビンが、妖艶に微笑んで、あっさりと言ってのけた。














サンジは、ナミが大好きだ。


というか、世の中の女性はみんな好きだ。
レディは人生の潤いだ。天使だ。女神だ。メロリ〜ンvv

とくに、この船のレディ二人は、文句の付けようもない美人。
たとえ金の亡者であっても、みんなに魔女と呼ばれていようが、サンジはナミが大好きだ。
もちろんロビンも大好きだ。

なので。
毎日毎日麗しいナミとロビンを褒め称え、一日一回は「ナミすぁ〜ん、ロビンちゅぁ〜んv 好きだ〜vv」と
ハート乱舞で愛を囁いていた。


なのに。



この、天使のような美少女が、ゾロで。

人外魔獣の緑マリモが・・・ナミさん?


暑さでなく、頭痛と眩暈がした。






漸く気を取り戻したらしい『ナミ』が、口を開く。

「あんまりよ!よりによってゾロになっちゃうなんて!だいたい、あんたが意地汚い真似するからこんなことになったんでしょうが!!」

借金、二割増しね!とかなんとか。

その、低く野太い声で。


(((((・・・っうわぁぁぁぁ〜・・・・)))))


これには、さすがにロビンも含めて、全員が硬直した。




ゾロの見た目で、女言葉。



背筋を冷たい嫌ぁな汗が走ったのは、サンジだけではないはずだ。


「おい、チョッパー、いつになったらもどるんだ?」

今度は、可憐な少女から出たとは思えない乱暴な台詞。


「う〜ん・・・詳しくはわかんないけど、たぶん2、3日で戻るんじゃないかな」

こんなときは一番冷静な船医が困りながらも言うのに、

頭を抱えたのは『ナミ』だった。

「どうすんのよ、今日にはもう上陸すんのよ?こんな姿で街なんか歩けないわよ!」


「ナ・・・ナミさん・・・あの・・・」

「ナミ〜・・頼むから喋るなって〜。その声で。めちゃくちゃ怖ぇから!」

サンジの言葉を待たず、ナミにそう言ったのはウソップだった。

心なしか彼も、目に涙をため、震えているように見える。


「船で大人しくしてるしかないんじゃないかな。今出ると、お互いマズイだろうし・・」

遅れて、ナミの問いにチョッパーが答える。



たしかに、と頷いて、サンジは二人を見比べた。


賞金首 ロロノア・ゾロの姿をした、航海士の少女と
 
可憐な少女の姿をした、万年迷子剣士。

この状態で外出すれば、トラブルになることは目に見えている。


「・・・まったくもう、ついてないわ」

ナミは、その眉間に深く刻まれた皺をさらに寄せて、腕を組んだ。



・・・普通なら。

ここで『怒ったナミさんもステキだ〜〜』とかメロリンするのがサンジなのだが・・・


この、(見た目)男に、メロリン・・・できねぇ・・・っ!!


なにせ相手はむさ苦しい緑マリモ。中身が愛するナミだとしても、


軽はずみに、愛を囁くことなどできるはずがなかった。



絶対に。