11月11日。
船は、いつもと変わらずグランドラインを進行中。
もちろん、このお話に敵襲や、ややこしいいざこざなんかがあるはずもなく。
いつもと変わらず、表面上は至って平和だった。
前編
「あぁ〜〜あ、暇だな〜〜っと」
意気揚々と、聞かれもしないのに呟きながら、スキップでも踏みそうな勢いで、船尾へ向かうサンジ。
今日は天気が良くて暖かいから、洗濯も掃除も午前中に済ませたし、おやつの準備も万端だ。
食料の備蓄も、島を出たばかりでたっぷりあるし。
お子様たちとレディおふたりは、自分のやりたいことをやっている。
いつもは。ナミとロビンにめろめろ〜んと構いまくってうっとーしがられるサンジだが、
今日はなんだか、ゾロを構い倒したい気分なのだ。
けして、今日がゾロの誕生日だから、なんて理由じゃねぇぞ。ただ単にそんな気分なだけだ。
もちろん、夜のパーティーの下ごしらえも、とっくに終わっちゃいるが。
それは俺サマが有能かつナイスでジェントルメンな素敵コックだからだ。『仲間の誕生パーティーはやるもんだ』ってナミさんが決めたからな。
浮かれて3日前から準備なんかしてねぇぞ!?
あんな筋肉ヘッドの誕生日なんて、全っっっ然まったく関係ねぇんだからな!!
「お〜〜いマリ藻〜〜。ブロッコリちゃ〜〜ん、おっきろ〜〜〜」
呼びかけても返事がない。そりゃそうだ。剣士サマは只今、夢見の真っ最中。
でっかい口をがーがー開けてマヌケな顔をしながら、惰眠を貪ってらっしゃる。
おーおー、しゃぁわせそーに寝やがって。こんな近付いても気付かねぇでやんの。
ぐぉ〜とか、うがぁ〜っとかいうイビキをかきながら。
(光合成中ってか?それ以上成長してどーするつもりだよ)
サンジは ふ、と静かな笑みを浮かべる。
他人が見れば、おもわず見惚れそうに優しい笑顔。
しかしゾロが起きていたなら間違いなく『てめェなんか企んでっだろ!!』と言っただろう、怪しい笑顔。
「ゾーーロ、起きろっつの。このサンジ様がわざわざ来てやったんだぜ?・・・・・・いつまで寝てんだってぇーーーー っのっっっ!!!」
「の」とともに、気合入りまくりのコンカッセをお見舞いしてやる。
ぐぇえええっっっ!!!と奇声を上げてもんどりうつゾロに、サンジはしれっとのしかかり、
「なぁ〜〜ゾロ、遊ぼうぜ〜〜」と誘いをかけた。
「あぁっ!?」
「なぁな、何して遊ぶ??おめぇのスキなことしてやんぜ?」
何が起きてるのか理解できないマリモのために、やさし〜く聞いてやる。その間も腹に全体重をかけてのっかかているが、コイツはそんなもんヘでもねぇだろ。
「おい・・・・・・昼間っからか!?」
珍しいな・・・とか赤くなって焦ったように言ったゾロに、にっこり笑って頭突きを食らわした。
「万年クソ色ボケ野郎が!!どこをどうとったらソッチになんだよ!?」
「いてぇつってんだろ暴力コック!!」
怒りも露に怒鳴り返すゾロに。
いかんいかん、これじゃいつもと一緒じゃん。 と思いなんとか落ち着きを取り戻す。
「ちったぁ構えって言ってるだけだろ?暇なんだよ、今おれ。」
甘えたようにゾロの首に腕を回して強請った。
ゾロは、おれにこうされんのに弱い。
「・・・・・・うし。格納庫行くか」
「うわぁっ!?ちげぇ!!そーじゃねぇっっ!!」
おもむろに抱き上げられて、かなり焦った。
甲板にはルフィやナミさんたちもいるのに!!
いや、こりゃおれの作戦ミスか?
慌てながらも、背中に蹴りを入れるのは忘れない。
ゾロとサンジはデキていた。
とはいっても、こんなことになったのはつい一月ほど前。
それも、酔ったはずみのようなきっかけで。
つい勢いで『好きだ』とか言っちまって。そんでゾロが『俺もだ』とか平然と言い返しやがって。
あれよという間にぺろっと食われてから一ヶ月。
いまだに、この男のやることは訳が分からない。
なので、サンジはずっとこの日を待っていたのだ。
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夜になって。食べきれないほど準備していたはずの料理もキレイになくなったところで騒々しい宴会が終わり。
ラウンジに残っている、ゾロとサンジ。
あとのみんなは自室でそれぞれ夢の中。
蜜月真っ只中の、恋人同士のふたりっきりの甘い時間。のはずが。
本日めでたく誕生日を迎えた腹巻剣士は、なんとも苦虫を噛み潰したような顔で、というよりもう魔獣そのものの顔で。ちょっと呼吸困難気味にふぅふぅ言いながら、キッチンに立つサンジを睨んでいた。
正確に言うなら『サンジの尻の辺りを』だが。
サンジは後ろから突き刺さる視線を感じながら、ニマニマと緩みそうになる口元を抑え、ことさらゆっくりと、時間をかけてつまみを作る。
(へへっ、睨んでる睨んでるvv)
ゾロが、自分だけを見て、鼻息を荒くしてるのが、楽しくて仕方ない。
だってな〜、いつもなんかあっというまに食われちまってるからなぁ〜。たまには焦らして、ありがたみを再確認させてやンねぇと。こいつぁアホだから、ちっとお灸を据えてやるぐらいでちょうどいいぜ。
もちろん、いつもなんかあっという間に食われてるのは『料理』ではなく『コック』だ。
つまり、
ゾロを誘惑するだけして、でもお預けくらわせて、ふんふん言ってるヤツを焦らして、
そんでもって最後には、おいしくいただかせてやろうって計画だ。おれって天才!
背後のゾロに見えないように、小さく拳を握るサンジは。
アホだった。
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(なんで触ろうとすると蹴りやがるくせに、俺の前をうろちょろしてんだアホコックめ)
今日はゾロの誕生日だ。
意地っ張りなコックから、にっこり微笑んで『おめでとう』が貰えるとは思ってなかったが。
せめて恋人になって最初のイベントぐらい好きにさせろや。とは思っていた。
あわよくば、いつもは恥ずかしがってしてくんねェことも、誕生日を口実に頼めばやってくれっかも。
コイツはイベントごとを何より大事にしやがるからな。
そう考えて、こないだっから手を出そうとしているのだが・・・・・・
いっこうにヤレやしねぇ。
ゾロは、『もうこうなったら無理やりにでもヤッちまえ』というのと、『いや、そんなことしたら二度とコックとはヤレねぇぞ!?』と頭の中で魔獣と理性がどーでもいいせめぎ合いを繰り広げていた。
サンジと恋人になってから約一ヶ月。
その間、一日も日を空けず抱いたコックの体は、蕾が花開くようにだんだんと解れていく。
ゾロは、その瞬間が楽しくてたまらない。
夢中になり、気が付くとサンジが失神している、ということもしょっちゅうだった。
しかし、ここ三日ほどは、ゾロから『格納庫行くか』と誘ってもサンジに断られ続けていた。
言葉で、蹴りで。その度手酷い扱いを受けながら。
ふと。
ほんとになにげなく。
(コックはもう嫌になったんじゃねぇか?)という疑問が浮かんだ。
そんなことはないはずだ、と打ち消そうとしても、一度浮かんだ疑念は止まらない。
そういやぁ、いつも『嫌だ』とか『やめろ』とか『絶倫魔獣』とか言ってやがったし。ありゃ、口先だけかと思ってたが、ほんとにそう思ってたのか?
あんなに乱れて、甘い声あげながら、実際は嫌で嫌でしょうがなかったのか。
思えば思うほど、ドツボにはまっていく単純腹巻。
自分の誕生日に、恋人と二人きりのキッチンで。
ゾロは、ひとつの賭けをすることにした。
そのために、サンジが自分から望む言葉を言うまで、手は出すまい、と。
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一日の仕事は終わり、ラウンジの椅子にゾロと並んで座りながら、サンジはチビチビと酒を飲んでいる。
ゾロには、今日のために仕入れた、辛口の米の酒。
自分のは、アルコールが弱めの果実酒。
ゾロにしてみれば、『そんなの酒じゃねぇ。ジュースだジュース。』と言われそうなものだが(実際言われたが)
あんまり酒に強くないサンジにすれば、これでも充分だ。
酔って寝ちまうわけにもいかねぇからな。
んんーでも、まだか? ゾロ、なかなか誘ってこねぇな・・・。
なんでだろ。焦らしすぎたか? ・・・ちっ、マリモの癖に生意気な。
さっきまでは刺すように欲情した眼で見てたのに、いっこうに触ろうともしないゾロに、今度はサンジの方が焦れてしまう。
ほんわかアルコールも回っていい気分になってきたのに。
なので、思い切って、
酔ったふりしてゾロの肩にもたれてみた。
「ぞろぉ、誕生日おめでと〜」
頬をすり寄せて甘えた声を出してみたりもする。
ゾロは、おれが甘えたり、かわいこぶったりすんのに極端に弱ぇからな〜。
むちゃんこ恥ずかしいのを我慢してんだおれぁ。ここまですりゃ、いくらアホでも手ェ出すだろ、普通。
かなりの確信を持って、しな垂れかかるサンジの肩を。
ゾロに、
そのままグッと押し戻されてしまった。
「・・・ぇ・・?」
ぽかんと、小さく声を出してゾロを見る。
その顔は、なんか怒ってるみたいで。
眉間に皺を深く刻んで。
「・・・ゾロ?」
「俺にさわんじゃねぇコック。犯すぞ」
・・・やっぱり。
ゾロは、おれの体にしか興味なかったんだ。
おれが好きだって言ったのに応えてくれたのだって、ただ船の中で都合よく処理が出来る相手が見つかったから。
本気で好きでもないのに相手してたんだ。
なら。
犯される前に、おれが犯してやるよ、ハゲマリモ。
後編に続く。
続くらしいですよ?(他人事かい)