後編



だいたいこいつぁ、思ったこともちっとも喋らねぇ。

よく言や『寡黙でクール』なんだろうが、無口なのも限度があるだろ。
たまには甘い言葉の一つも囁いてほしい。
『格納庫行くか』、じゃなくて。
抱き締めて、愛してるって言ってくれればそれでいい。

ほんとはすっげぇ好きなんだって分からせてほしい。
体だけじゃないって。ちゃんとおれが好きだって。


ん?無茶なこと言ってるかおれ?
酒飲むのと体鍛えるの寝るのと・・・あとヤることしか考えてねぇ単細胞マリモにゃ無理な話か?
んなの分かってるよ。

でもせめてな・・・


せめて、特別な日の夜くらいは。






「おい、てめぇ何のつもりだ・・・」

「あ?おれぁ犯されるのなんざ御免なんでね。触らなきゃいんだろ?」

テーブルの上にどっかりと座り、片手でしゅるりとネクタイを外す。
椅子に座ってるゾロが、おれの足の間で不機嫌そうに睨み上げているが、そんなもん無視だムシ。

「・・・、なんでネクタイ外してんだよ?」
「あちぃから?・・まぁいいや、大剣豪サンはそこで黙って見てろや」
吐き捨てて。唇が触れるほど、息がかかるまで顔を寄せる。
ゾロが目を見開いて。
口付けようとするのを、ふわりと身をかわして避けた。

「・・・触んなっつたのはゾロ、おめぇだろ?」
ギッと睨まれて、背中にゾクゾクした痺れが走る。
悔しいか?なぁゾロ、おれに触りてぇか?そんな顔して睨むほど、おれが好きだって。
・・・好きだから、してぇんだ、って、言えよ、早く。

そしたら、言ってくれたら、もうすきにしていいから。


祈るような気持ちと裏腹に、上から見下ろし笑みをたたえて。右手の指でぷちんぷちん、とシャツのボタンを器用に外す。

スラックスから引き抜いて、露になった胸元に・・・・・触れようとするゾロの手を、押さえつけた。

「・・・・・・」
「・・・触りてぇの?」
「・・・あぁ。」
「なんで?」
「・・・・・・」
そこでまた、むっつりと口をつぐまれる。
あ、いかん、ムカついてきた。

なんか、どーでもよくなってきた。
ゾロに触られてぇとか思ってた自分が、馬鹿らしくなってきた。
おれ、ゾロのこと嫌いになっちまったのかな。
だから、こんなに胸が痛てぇのかな。
ゾロのことなんか、どうでもいいから、胸が苦しいんだな。きっと。


「あ〜・・・じゃあもういいわ。寝る。おやすみ」

馬鹿馬鹿しさに溜め息をついて、体を起こしてテーブルを降りようとしたところで、ゾロにグッと引き寄せられた。

「わっなにっ・・ぅ」
ぎょっとする暇もなく、無茶苦茶に口付けられる。
驚いて、うう〜っと唸って押し返そうとしても、ますますきつく抱き締められるだけで。

そのうち、全身から力が抜けた。




****************


抵抗をやめたサンジをそれでも抱き締めながら、ゾロは気が遠くなるほど長い間、口付けていた。

カッとなった頭も段々冷えてはきていたが、まだなにひとつ理解できてはいない。
白い肌を晒して、煽るような視線を向けたかと思えば、泣きそうな顔で去っていこうとした、サンジの考えは。

しかしここで行かせてはならない、と、焦りにも似た思いが、サンジを抱き締める腕を緩ませない。


なんでそんな顔する。そんなに俺が嫌いか。

だが、どんなに嫌われようと、たとえ憎まれようと。


俺はお前を手放せねぇよ、サンジ・・・。





だいたいコイツは、普段うるさいほど喋り倒すのに。そりゃぁもうおめぇはちっとでも喋るの止めたら死ぬのか?サメか?泳ぐの止めたら死ぬサメか?黄色いアヒルの癖に。と言いたくなるほど喋りまくるのに。

こんなときはちっとも言わない。

ゾロを好きだと言ったのだって、最初の晩だけで。
あんときはサンジが可愛くてかわいすぎて、告白されたとたん、訳も分からずいただいてしまったが。
だって、照れたように、だがふてぶてしく、『おれはおめェが好きなんだよ、どーだ?ビックリしたろ?ざまぁみろ!』と言われたのだ。
そりゃびっくりする。

びっくりして、ついぽろっと『俺もだ』とか口が滑っていた。

言えるなんざ思っていなかったのだ。
自分が、サンジの半分ほどしか言葉を知らない、口下手な男だということは承知している。
いや、半分以下か?十分の一ぐれぇか。
とにかくこのやかましいコックのことを、ずっとずっと、もうずーーーっと、ものすごくかわいいと思っていたことを伝えられる日が来るとは、思うわけがなかった。


かわいくて凶暴で、いやらしくてかわいいコック。

与えるだけで、自分からは何も欲しがらないサンジが、初めて何かを欲しがった。

それが、自分だったことが心から誇らしかったのに。
サンジが望むのならば、なんでもくれてやるのに。
喜んでほしいと思うのに。



なんで今は、泣きそうな顔をする。





「・・・っ、ハァッ、てめ、しつけ・・」
息を切らすサンジが、赤くなった目尻と潤んだ瞳で睨んでくる。その表情も壮絶に可愛らしいが。
それよりも、聞かなくてはならない。


「なにが、もういいんだ」
「あ?もういいって、なにが?」
「・・・お前が言ったんじゃねぇか」


目を背けて、なにかを耐えるような顔で。



「ちゃんと、思ったことは言え。サンジ・・・・・聞いてやるから」
「あのなぁ、こんなこと、おれから頼んで言ってもらったんじゃ意味ねぇんだって!」



「なにがだ」、と聞くと、「知るか自分で考えろ単細胞」、と返された。「おめぇこそ思ってることあるなら全部言えよ!いっつもむっつり黙ってねぇでよ!」とも。

ゾロはちょっと驚いた。





言っていいのか。

サンジがかわいいとか、
顔も性格も可愛いとか、蹴られてても喧嘩してても楽しいとか、


おめぇの作る飯がうめぇとか、おめぇもうまそうだとか
なまっ白い肌にピンクの乳首はいやらしすぎだろとか、尻のもみ具合は最高だとか、

おめェの夢が叶ってもそのあとも一緒にいてぇとか、
俺が大剣豪になっても一緒にいろとか

もうすげぇこれ以上ねぇくらい惚れてるとか
抱いても抱いても足りねぇとか
好きだとか、愛してるとか


言っていいのか?



と、そのまま聞いた。






次の瞬間には、キッチンの外に蹴り飛ばされていた。



「だぁれがそこまで言えっつったァ恥ずかしいアホマリモ野郎め!人並みの羞恥心ってもんはねぇのか!?」


真っ赤になったサンジが、中からどかどかと出てくるのを、



ニヤケた顔で待つ剣士。



「ん?格納庫いくか?」



「お・・おぉ!!行ってやるぜ。しっかりサービスしてやるよ、クソダーリン?」





今日は、誕生日。


恋人と過ごす、人生初の。





終わり






お読みいただきありがとうございました!!

いろんな意味で、若い・・・(笑)