ロロノア氏のある日の独白。
あのコックが、賞金首になった。
俺の賞金も跳ね上がったみてぇだが、そんくらいなきゃ世界一の大剣豪にはほど遠いだろ。
だから俺のはまぁどーでもいい。
コックは、自分の手配書が気にいらねぇらしく、いつまでも肩を落として落ち込んでやがったから。
ここはひとつ、慰めとくかと思い、
「そんなもんだぞ、お前は・・・」
と言ってやったら、なんだか異界の言葉で罵ってきやがった。
どうやら俺はまた、逆効果なことを言っちまったらしい。
「言葉にしろ。わからねェ」
聞き取れもしなけりゃ何が言いたいのかもさっぱりだ。
怒ってんだろうってぐらいは分かるけどな。
いくら俺がお前の恋人でも、わりぃがアホの国の言葉までは理解できねぇよ。
ナミもチョッパーも、自分の手配書に物申してたみてぇだが、あいつらは、それぞれ慰める相手がいるだろう。
それより問題は、このアホコックだ。
今も、世界中のレディから笑われるとかなんとか言って、ひとりで打ちひしがれている。
「おい、マリモ!おれが『そんなもん』てなぁどーゆーこった!?おれぁこんなフザケタ顔はしてねぇぞ!?」
ジェントルコックが売りのグル眉が、勢い込んで突っかかってきたから、俺は
「おまえはそんなもんでいいんだ」
と言ってやった。
「おめぇは、いつも一人でどっか行っちまうんだ、面が割れてりゃ厄介だろ。行くなっつっても聞きゃしねぇだろうしよ。それっくらい崩れてたほうが、誰か判らなくて好都合じゃねぇのか?」
「そりゃ、そうだけどよ・・・。つか!!いつもひとりでどっか行くのは迷子剣士、てめぇだろーがっ!!」
俺は迷子になんか、なったことねぇぞ。ちと目的地に辿り着くのが遅れるだけだ。
それも、人に聞いたり、歩き回ってるうちに着くんだから問題ねぇ。
きゃんきゃん吠えるコックのほっぺたをぐにっと摘んで黙らせ、続けた。
「それによ、おめぇの可愛いツラぁ、世界中のやつらに見られるのは、俺ぁどーにも許せねぇ。おめぇの写真が手配書に載るんなら、全部剥がしにかかるぞ」
「ほぇ??」
「知らねぇヤツにまで、おめぇのそのツラを拝ませてやる必要はねぇって言ってんだ。だからその絵でいい」
「・・・はっ、はは・・・・なんだぁ?手配書にまでヤキモチやいちゃうってか?困ったダーリンだなぁおい!」
未来の大剣豪が聞いて呆れるぜ。とか言いながらも、コックの顔が嬉しそうだったので、やっと機嫌が直ったか、と安堵した。
ふにふにした柔らかいほっぺたを揉み続けても怒らねぇ。
なにがコックをそんなに上機嫌にさせたのかは分からなかったが。
***** ***** *****
数刻後。
新しい船と対面したコックは、誰よりもはしゃいでやがった。
百獣の王と言うのに相応しい、ひまわりみてぇなライオンの船首がついてる船だ。
メリーと比べても、倍はでかい。
コックの第一声は「キッチン見せろ」だった。
やっぱりあいつの一番大事なもんはメシなんだな。
そらそうだ、
あいつは、コックという職業に、並々ならぬプライドを持ってるからな。
それがあいつだ。
じゃ、しょーがねぇから俺は格納庫と風呂と見張り台を点検しとくか。
おぉ、こりゃいい。
防音設備まで整ってやがる。
・・・・・・ナミの仕業か?
あの魔女、「あんたたち、夜中にあんあんあんあんぎしぎしばたばたうるさいのよ!!安眠妨害で訴えてやるから!!」とか言ってやがったしな。俺にだけだが。
見張り台も、頑丈な個室になってやがるし。
これで、コックの可愛い声も痴態も、誰にも見られずにできるってわけだ。
良い要望出してくれたぜ。
ま、あの女にぶんどられた『慰謝料』(借金)てのも、それでチャラにしてやる。
コックの歓喜の声が聞こえて、俺は見張り台から顔を覗かせた。
「おぉぉぉ〜〜〜い!!マリモ〜〜!!見ろよ!!芝生だぜ!?おめぇのお仲間でちゅよ〜〜!!」
あぁクソうるせぇ黄色だ。
んなに叫ばねぇでも聞こえてる。
するすると下に降りると、コックは満面の笑みで近付いてきた。
「なぁおい、キッチン見たか!?鍵付き冷蔵庫があったんだぜ!!すげぇでけぇオーブンまで!!」
「あぁ、ここまで聞こえた」
ちっ、鍵付きの冷蔵庫は、俺が、こいつの誕生日にやろうと思ってたのによ。
あのサイボーグに先越されちまった。
「これで、おめぇにもっとうまいもん食わせてやれるぞ。どうだ、嬉しいだろ?」
「あぁ。すげぇ嬉しい」
嬉しそうに、子供みてぇに、にひひっ、と笑ったコック。
今、『おめぇに』って言ったのか。
『おめぇらに』じゃなく。
俺に、旨い飯を食わせることが、コックにとっちゃ嬉しいことなのか・・・。
その言葉だけで、誇らしい気持ちになった。悔しい気持ちも一気に吹っ飛んだ。
「それにしてもさぁ、見ろってこの芝生!!すんげぇ青々してんの。おめぇの頭そっくりじゃねぇ?」
わしわしと、髪を捕まれた。
「そうだな」
と、逆にコックの金髪を撫でると、大人しくされるがままに目を閉じる。
おお、今日はほんとに機嫌がいいんだな。
理想のキッチンが、かなり嬉しかったらしい。
ここは、フランキーに感謝すべきところか?
***** ***** *****
ルフィとチョッパーが、『フランキー強奪作戦』に取り掛かった頃。
俺とコックは街中で並んで待っていた。
せっかくのコックとの時間を邪魔されたのは少々癪だが、あの船長が決めたことには逆らえねぇからな。
なにやら遠方で「変態」とか「ワイセツ物チン列罪」などと物騒な声が聞こえるが・・・・・・まさかフランキーのことじゃねぇだろうな・・・。
喧騒を見遣っていると、コックが話しかけてきた。
「なぁおい、フランキーが仲間になるかどうか、賭けるか?」
「あぁ?俺は、なるほうに賭けるぞ」
「んだよ、おれもだよ。賭けになんねぇじゃねぇか」
コックが心底可笑しそうに、嬉しそうに笑う。
あの未来の海賊王が望んだことは、すべて叶うと思っているのは、俺だけじゃない。
船の全員が、フランキーが仲間になるほうに賭けるだろう。
「なぁ、おれらの船、いいよなぁ。・・・おれ、この船乗って、よかったよ」
「そうか」
しみじみと、懐かしむように言うコックに
俺もだ、と言おうとしたが、妙に気恥ずかしくなってやめた。
「・・・おめぇに会えてよかったよ」
「・・・あ?」
コックの口からぼそりと呟かれたその台詞は、すぐに喧騒に掻き消された。
「ロロノアさん達、頼む!!」
「任せろ」
コックが応えて飛び出すのに、俺もつい身構えた。
チョッパーの後から追いかけてきたフランキーを用意された大砲に放り込み、周りのやつらが点火する。
ああぁああぁぁああああああぁぁぁあああああああ
という叫び声を残し、フランキーは飛んだ。
遠く星になった変態サイボーグを見遣りながら、コックが呆然と口を開く。
「な、ゾロ?あいつ・・・・・・パンツ穿いてなかったな?」
「・・・・・・あぁ。そうだな」
「ケツ、丸出しだったな?」
「あぁ。そうだな・・・」
「・・・さっき聞こえた『変態』って、あいつのことだったんだな」
「・・・あぁ。そうだな」
「うちの船に、変態は二人もいらねぇよな」
「あぁ、そうだ・・・・・・ってクラぁ!!変態ってのは俺のことか!?」
「お?分かってんじゃねぇかvv変態マリモちゃんvv」
くそう。
こんなときばかり口の減らねぇ淫乱コックめ。
・・・・・・まぁいい。
さっきの台詞の続きと一緒に。俺の、どのへんが変態なのか、じっくりたっぷり、その身体に聞いてやる。
今晩、あの船でな。
E N D
ワンピース45巻 436話『パンツ フロム フランキーハウス』のゾロ視点。(笑)
ゾロの視線の先には常にサンジ。頭の中も常にサンジ。
そんな剣豪が大好きなサンジ。
そんなお話。(笑)
およみいただきありがとうございました〜〜〜ww
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