【海に降る雪】
寒いような、暑いような、不思議な感覚。
いや、冬空の下、何か熱いものが、身体に触れているのだ。
夢から覚めたサンジは、背中に当たるクソ熱い男の体温に、ふわりと微笑んだ。
毛布にくるまれ、後ろからでかい身体に包まれ。
目が覚めると、そこにゾロが居る。
それは、なんて幸せなことだろう。
ふと見上げると、見張り小屋の外では雪が降っていた。
ただ静かに。
船に降り積もり、海に降り注ぎ、水面に溶けて消えていく。
ずっと昔。ゾロとこうなる前は、この男のやることなすこと、あまりに無謀で・・・
いつか、雪のように溶けてなくなってしまうんじゃないかと、思ったころもあった。
ただひたすら、その存在を感じていたくて、
なのにどうすればいいのか。どうすれば、ゾロを繋ぎとめておけるのか判らなくて。
そして、そう思ってしまう自分自身の気持ちも分からずに。
喧嘩をふっかけたり突っかかったり、ことあるごとにからかったり。そんなことしかできなかった。
ゾロは、いつも遠くを見ていて。
その先に、行こうとするゾロを、とても眩しく気高いと、思うと同時に。
怖くてたまらなかった。
いつか、全てを捨てて、後ろを振り返ることなく、この男は行ってしまう。
ゾロの夢を追う気持ちは、サンジも、クルーも理解していたし、邪魔をしてはいけないことも判っていた。
夢を叶えたあと、どうなるかなんてことも、考えるだけ無駄だと思っていたのだ。
あの頃は。
サンジは夜風に当たり冷えた頬を、ゾロの首筋にすり寄せる。
熱い、ゾロの体温に。
急にじわりと、涙が滲む。
何百回、何千回とこんな夜を迎え、
その度に、サンジが目覚めるまで側に居てくれる。
普段は無骨な男の、優しさに。愛しくて、幸せで、涙が出た。
「ゾロ・・・」
「ん。どうした、寒いのか?」
ずっと起きて、代わりに見張りをしてくれていたのだろうか。
寝ていた様子もなく、甘い声で訊かれ、サンジは頷いた。
寒いわけではないが。むしろ、サンジが冷えないよう、身体ごと包み込んで、ゾロが温めてくれているけれど。
サンジは、裸の胸を、ゾロの身体に押し付けた。
もっと抱き締めてほしくて。甘やかしてほしくて。
意図を汲んだゾロが、きつく腕を回してくれる。
「・・・海見てたのか?」
サンジが訊ねると、ゾロはしれっと
「いや。お前見てた」
と言い返した。
「・・・見張りしてねぇのかよっ!」
「あんだよ。悪ぃか。なァ、それより、起きたらもう一回だっつったの、覚えてるな?」
ざらり、と舌で耳元を舐めあげられ、先ほどまでさんざ煽られた身体に、再び火がともる。
だが熱い舌の感触が離れると、途端に冷たい外気にさらされ、濡れた耳がヒヤリとした。
「・・えー。雪降ってんだぜ?」
「言い出したのはてめぇだろうがよ。オラ、きちっと責任とりやがれ」
相変わらず強引だなぁ、おれの魔獣くんは。
そう思いながらも、サンジもニヤリと笑って、ゾロのほうへと向き直る。
「明日の雪かきは、おめぇの仕事だかんな?」
どうせ明日はゾロのせいで立てなくなるのだ。それぐらいの我がまま、聞いてくれてもいい。
「何でもいいから。ほら、ヤんぞ」
「へへ。んじゃぁ、このムッサ硬い息子さんを、どうにかしましょうかねー」
言って、挑発するように、唇を合わせた。
細く眼を眇めたゾロに。
たっぷりと愛されながら。
サンジを包み込む手が、見つめる瞳が。
もう、一人で行ってしまったりしないと語っている。
信じてる、なんて、こっぱずかしくて言えないけれど。
夢を叶えたコイツの進む先に、おれ達が待っているから。
「ゾロ・・・愛してる・・・」
そう、小さく呟いた。
END
大好きなまーるさんの、2008年お誕生日のお祝いに、
と、調子に乗って送り付けさせていただいたSSSです(^^;)
だ・・大丈夫!!気持ちだけは、すっごいこもってるから!!(大丈夫なものか)
まーるさん、お誕生日おめでとうございましたーーvvv
うちサンジは、「愛してる」より「信じてる」と言うほうが、恥ずかしいそうです・・・
変わった子・・・v(お前が言うな)