天気は良好。



 余計な風もない。



 絶好の 飛行日和。





     
そらたかく










 完成させるのに、思ったより時間がかかった。

 最初は、メカ島のマザコンが乗ってたのを見たチョッパーの

 「飛行機ってどうやって飛んでんだ?」という素朴な疑問から始まった、壮大な計画。



 ウソップが設計図を描き。

 ナミが部品を手に入れ。

 サンジとロビンとゾロで組み立てた。

 「一番最初に乗るのは俺だぁぁあああ!!!」 というルフィを実験パイロットに。

 留まっている島の、小高い丘にて。

 何度も、何日も飛行テストを繰り返した。




 まぁ、ウソップの設計図は見様見真似だったので初めはとんでもないものになったり、

 ナミは道具屋のオヤジを脅しに脅してほとんどタダ同然で部品を買いあげたり、

 『レディに手伝わすなんて言語道断だ!』というサンジの信念の元、組立作業は結局ゾロ一人でやったり。

 ルフィは特に役にも立たないし(いても邪魔なので)、ぶつかっても吹っ飛んだりしても平気だという理由(ゴムだから)でパイロット決定だったのだが。




 それでも、

 完成に近付くたびにチョッパーのでっかい目がきらきらと輝く。

 ゾロはそれを見ると、なんだかあたたかくて、嬉しいような気持ちになったのだ。






















 「うぉぉぉおおお飛んだぁぁぁーーー!!!」


 空高く上がる飛行機。その後に出来る飛行機雲。

 遠くで叫ぶルフィの声。

 ウソップもナミもロビンも最初は半信半疑だったが、いくらたっても落ちないそれを見て、やっと実感した。


 「すげぇーーーほんとに飛びやがったぜーー!!」

 「うっそみたい!!やればできるもんなのねぇ〜〜」

 「ほんと。まさか成功するなんて・・・」




 「うおぉぉぉおおお!!!すっげぇーーー!!!ゾロ、飛んだっ!!飛んでるよ!!!」

 チョッパーが興奮しながらゾロに飛びついてくる。

 ゾロは小さな彼を肩に担いで

 「うっし!!」と嬉しそうにガッツポーズをしてみせた。






 (お〜お〜、お父さんめ。はしゃいじゃって)

 その瞬間をカメラにおさめながら、自分もニヤけそうになるサンジ。


 にっこにこしながらゾロにしがみつくチョッパーもさることながら。

 子供のような笑顔で笑うゾロも、それはそれで可愛い。



 「クソコック、見たか!?すげぇな!!」

 「おぉ、見てる。やったなぁおい!!」



 いつもは、世界中に喧嘩売ってやがんのか!?といいたくなるほど仏頂面の剣士とは思えなくて、
 サンジもつられて笑った。









 「なぁところでよ・・・・・・」

 「あぁ・・・誰か教えたか?」

 「・・・いや。教えてねぇ。っつかよ、成功するなんて思ってねぇし」

 「じゃぁ。もしかして・・・?」

 「あら、船長さん、どうするのかしら?」



 「なになに??どしたんだぁ?」



 しばらく空を眺めていた仲間たちの顔がたんだん、言いようもなく歪められるのに、チョッパーは首を傾げて尋ねた、
 ちょうどそのとき。




 ぐい〜〜〜んっと旋回してきた麦わら印の小型飛行機から、なんとも情けない悲鳴が聞こえる。

 いままで嬉しそうにはしゃぎまくっていた麦わらの少年が

 「お〜〜〜い、これ、どうやって降りるんだぁ〜〜〜!!??」

 と叫ぶのが聞こえて。



 「「「「「やっぱり・・・?」」」」」

 嫌な予感が現実になったのを知って、一味は冷や汗を垂らした。













 「いやぁ〜〜〜死ぬかと思ったぞ!!!」

 「普通は死ぬぞっっ!?おめぇどんな身体能力だよっ!?」

 船への帰り道。

 ルフィが先頭を歩き、ほうけたように言うのをウソップがすかさず突っ込む。




 「あれだけ地面にぶつかってもルフィは無傷だなんて、ほんっとあきれるわね〜」

 「でも、船長さんだけでも無事でよかったわ」

 あわよくば完成した飛行機を売り飛ばそうとししていたナミが、悔し紛れに呟くのに、ロビンが優しくたしなめる。




 最後尾に、ゾロ、チョッパー、サンジが

 三人並んで歩いていた。



 ゾロは大破した飛行機(だったもの)の残骸から、かろうじて無事だったプロペラを片手に。

 もう片方には、チョッパーの手・・・というか、蹄。


 「プロペラ残ってよかったよ。ゾロが一生懸命削ってたやつだからな!」

 まだ興奮冷めやらぬ様子でゾロの手にぶら下がりながら歩くチョッパーの、


 反対側の蹄は、しっかりサンジの手を掴んでいた。




 「そーだな、コイツ、毎晩すげぇ必死だったもんな。チョッパーも見たか、あの顔?」

 クックッと思い出し笑いをするサンジに、チョッパーもうんうんと頷く。

 「なんか怖い顔で削ってただろ?でもすげぇよ。刀だけでプロペラ作っちゃうんだもんなぁ」


 夜中、みんなが寝てしまった後も、一人でしゃこしゃこプロペラの羽を削り出すその姿を目撃してしまったチョッパーが『まるでどっかの昔話の鬼婆みたいだ』とちょっとちびりそうになった。のは誰にも内緒だ。


 「そっかぁ?剣士サマには必要ねぇだろそんな技。プロペラ職人とかに転向するってか?」

 未来の大剣豪がせかせか羽作ってる姿、笑えるぜ。とニヤけるサンジに、ゾロは

 「うるっせぇな・・・」

 ムッとしたようにサンジを睨む。

 作業の間中、ちょろちょろとひっつきまわっていたコックに言われたくない、といったところか。



 「サンジは、ゾロがずっと構ってくれなかったから、拗ねてんだよな?」

 チョッパーがなんとも無邪気な笑顔でサンジに向かって言った。

 「・・・あ・・ぁあっ!?っな・・・・な!」

 「・・・そうなのか?」

 口をぱかん、と開いて真っ赤になるサンジに、なぜか嬉しそうに尋ねるゾロ。


 「チョチョチョチョッパー!なに言ってんだよっ!!んなわけねぇだろっ!!」

 「え?だって、『ゾロがいなくてつまんねぇ』って言ってたろ?」

 「っ聞いてやがったのか!?」

 図星を突かれて、うわわわぁぁぁっととんでもなく焦ったサンジは、自分が墓穴を掘ったことに気付くのが、少し遅れ。ニッとゾロが笑う、その顔をまともに見てしまった。



 「・・・うし。船帰ったら、たっぷり可愛がってやっからな」


 「・・にこやかに・・・・・・人前でなに宣言してんだおめぇはーーー!!!」



 がすがすっ!!とゾロの背中あたりを蹴りつけながらサンジは、それでもチョッパーの手は離さない。

 もちろん、おもっくそ蹴られながらも、ゾロもチョッパーの手を掴んだまま。


 仲良く3人そろって手をつなぎながら、

 喧嘩しつつも並んで歩く姿は、まるで仲のいい親子のようで。






 (あのプロペラ、うまくできてるから売ろうかと思ってたけど・・・・・・チョッパーが気に入ってるんじゃ無理かしら)

 可愛いトナカイに底なしに甘いパパとママと、ふたりに可愛がられて幸せそうな息子の会話を後ろに聞きながら、

 ナミはいつになく幸せな気持ちで、ふわりと微笑んだ。





 その日以来、船のラウンジの壁には

 ゾロが作った『飛行機のプロペラ』が、

 みんなの写真と一緒に、いまも誇らしげに飾られている。








   
 E N D











 このお話の元になった、さかぷぅ。様のイラストはコチラ♪








 プラウザを閉じてお戻りください。