サンジさんの日記


レシピ1、レシピ2、レシピ3・・・・・・・・・54、55、56。

レシピ 『 Z 』

(・・・・・・ゼットだァ?)

コックが寝静まった深夜。
ゾロは酒を拝借しながら、誰もいないキッチンの、
隅の棚にずらりと並ぶ料理本の背表紙に、なんとはなしに目を走らせる。
おそらくコックが料理のレシピを書き綴ったものだろう。
ゴーイングメリー号にコックが持ってきたもの、航海の途中で新たに増えたもの。その冊数は、56冊を数える。
薄いノートのようなそれらは、番号の若いものは見すぎてぼろぼろになっていて。

その端に一冊だけ、異種な題を見付けた。

それぞれに振られた数字とは別に、ひとつだけ振り分けられたアルファベット。
よくよく見ないと感じないほどの違和。

不審に思い手に取ったのは、天性の野生の勘が成せる業か。



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『○月×日
今日、イカレた羊頭の船に乗ってココヤシ村を出発。
村のみんなと別れを惜しむナミさんを慰めるが、遠慮された。
代わりに、大事な蜜柑畑の世話を任された。
ナミさんの為なら、船長を亡き者にしてでも守りきってみせようと決意。
マリモみたいな野郎はなぜかいつも不機嫌そうな顔をしている。日光と酸素が足りないのか。』

『○月×日
今日もナミさんは美しい。蜜柑のゼリーを気に入ってくれたようだ。
船長が賞金首に登録された。三千ベリー。
ちょっと驚いた。長鼻も驚いていた。
マリモは寝こけていた。あいつは嵐が来ても起きないに違いない。』

『○月×日
エレファントホンマグロを調理する。
皆お気に召した様子。調理のしがいがある。
マリモだけはなんの感想も表情もない。気に入らないのか、味音痴なのか。
今度聞いてみようと思う。』



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「・・・なんだこりゃ」
航海日誌のような、たった数行の簡素な文章が、日付もまちまちに書かれている。
コックが仲間になって、ココヤシ村を出た日から始まったそれは、やはり彼の几帳面な文字で。

しかし淡々としたその日誌は、書いた人物がくだんの暴力暴言コックであることを忘れてしまいそうになるほど、
普段の彼のイメージからはかけ離れていた。

「つーか、聞かれたことねぇしな」
マリモ、イコール自分だと、ゾロは既に充分自覚している。

料理の感想を、あのコックに求められたことはなかったように思う。
それどころか、まともに会話をしていたかどうかさえ疑問だ。



煙草をふかしつつ軽口を叩く。いきなりキレて怒鳴る。しまいには蹴りを入れる。
それにゾロが応酬する。常に。

ゾロは、にわかに興味を覚えながら、コックの書いたその日記を読み進めた。

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『○月×日
快晴。星がきれいだった。
マリモが不寝番。おにぎりを差し入れた。
口は出たが、殴り合いの喧嘩にはならなかった。
ちょっと進歩。』


『○月×日
島で仕入れたきつめの芋焼酎を飲ませた。
かなり香りが深いが、マリモには調度いいらしい。
酒に関しては、表情が読みやすい。
料理は薄味の、つまみになるようなものばかり好きなよう。
甘いもの、食感がねっとりしたクリーム系、油っこいものは苦手。
果物そのままや、甘辛く煮た野菜は好き。肉より魚。
ホタテやアサリなどの貝類は好まない。』


『○月×日
昼飯の時間に寝こけていたので起こしに行った。
緑色の髪に触っても起きなかった。さらさらしてた。意外。
蹴り起こした後、やっぱりどつきあったが、昼飯が好物の魚だというと、嬉しそうな顔をした。
明日も作ってやろう。』


『○月×日
今日も串団子を振っていた。こっそり持ち上げてみたが動かなかった。なんて怪力。
アラバスタで、腕に捲いていた包帯を、こっそりマリモのと取り替えた。
血と汗と泥で汚れて黒ずんでいた。
筋肉を鍛えるための、特製ドリンクをチョッパーと検討中。』


『○月×日
風呂でマリモに遭遇。
ちらっと見えた、腹の傷が痛々しい。全身傷だらけだが、背中は綺麗なままだった。
胸から腹にかけて歪な縫い目だった。筋肉は綺麗に盛り上がっていた。
あの身体を維持するための特製メニューを考えることにする。
あと、ちんこがすげぇでかかった。』


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「・・・・・・はぁ?」
コックの意図が読めず、ゾロはとうとう眉間に皺を刻んだ。

途中からはもう、書かれていることは料理と、ゾロのことばかり。
彼が愛するはずの航海士の名すら出てこない。
「つーか、・・・んなことしてやがったのか」
それほどまで観察されていたとは。
コックは、そんな素振りは見せなかった。


戦いの場では背中を預けられるが、普段はろくに会話も成り立たない阿呆だと思っていた。
だんだんと、夕食に好きなものが増えてきたなーとか、
今まで苦手だったメシも、コックが作ったもんならすげーうめぇなー
とは思っていたが。
まさか自分の知らないうちに全て読み取られていたとは。
しかも、髪を触ったり、持っているものを交換したり。

あまつさえ、ちんこでかいて。

「・・・変態か?」
同じ男の自分にそんなことをして、何が楽しいのだろうか。
心底不思議に思ったが、なぜか怒りや嫌悪は湧いてこなかった。
しかし、ゾロは女にしか興味がない。無論、コックもそうだったはず。

(ナミあたりにしとけばいいだろうに。)
ふとそう思った途端に、ぐわっと身を刺すような怒りがこみ上げてくる。
(・・・なんだ?)
ナミに対して、特別な感情など抱いていたつもりはない。
ゾロの好みは、もっと色気があって、大人で、しかし尻が軽くて股の緩い・・・つまり、一晩の相手として都合のいい女だ。
あんな乳臭いガキには興味ない。もちろんロビンも、一筋縄ではいかなそうな雰囲気で、端から対象外。
第一、これから先、共に旅する仲間に手を出すのは、得策ではない。というかあの魔女二人組だけは、絶対敵に回したくない。
なのに。
コックに髪を撫でられ、幸せそうに目を細める女を想像した途端、頭に血が上り、嫉妬に似た感情を覚えた。
「許さねぇ」
呟いてから、一体なにをだ。と首を捻る。
己が抱く感情に納得がいかぬまま、ぱらぱらと日誌を捲るゾロの手があるページで止まり、
その目が驚愕に見開かれた。

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『○月×日
寝ているゾロにキスした。気付かれなかった。
あいつはどこまで鈍感なのか。敵襲があるとすぐ飛び起きるくせに。』


『○月×日
ゾロを起こす前にキスをするのが日課となりつつある。
知られたらマズイと思うが止められず。
ゾロのことを想いオナる俺は異常なのか。』


『○月×日
ゾロが、俺に触ってくれないだろうか。
あの低い声で名前を呼ばれながら扱かれたら、さぞかし気持ちいいだろう。
と思っていたら、ゾロに抱かれる夢を見た。
末期だ。』


『○月×日
久々に敵襲があった。ゾロ負傷。
肩から流れる血液を、飲んでみたい。
魔獣なあいつの吐き出す体液を、体中に掛けられたい。』

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「・・・・・・」
ゾロは言葉もなく、日誌に書かれた内容を眺めた。
淡々と進むコックの妄想日記に、ゾロのこめかみに青筋が立った。
と同時に、なぜか股間が勃起していた。
頭と下半身にどくどくと血が集まるのを感じながら、ゾロは再び日記に目を戻す。


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『○月×日

俺はおかしい。
ゾロにヤラれることばかり考えてしまう。

組み敷かれた俺の股間を、ゾロが弄って、俺の上で獣のような呼吸を繰り返す。
やる気満々に、俺に興奮してくれればいい。
ヌルヌルになったちんこをあの口で銜えて、逃れる間もないほど追い立てられる。
ゾロの舌が棹からカリにかけて這いずり回り、尿道口に差し込まれる。
手で太腿を擦られながら、小刻みに震わせた舌で先っぽを舐めまくられる。
もう片方の手で嚢を揉みながら、全体を口に含んで強く吸われる。
放った俺の精子を飲み干して、意地悪気に笑う。』



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ゾロは己の下であられもなく声を上げ善がるサンジを想像し。
日記に目を落としたまま、すでに完全に勃ち上がった股間に、片手を忍ばせた。


興奮で、こっちまで頭がおかしくなりそうだ。


あの、女にしか興味のないラブコックが、男に性器を弄られて果てる。
しかも彼の想像の中で、体を好き勝手に捏ねくり回しているのは、誰あろうゾロである。

その白く艶めかしい姿態を想い、深夜のキッチンで一人慰めるゾロも、十分ヤラレてる。

( くそ・・・っ、俺もヤキが回ったか・・・)


まるで官能小説のような日記。

コックが空想で描いた、ゾロとの情事。

普通なら、気持ちが悪いと捨て去ってもいいようなものを。


異常なほど昂ぶる熱に。ゾロも自身を持て余していた。


だから。

ガチャリ、とキッチンの扉が開き、視界に、風呂上りのコックを捉えたときも。

『獲物が来やがった』

ぐらいにしか思わなかった。




ゾロが冷静な判断ができていればそのとき、



己の下で、組み敷かれながらもほくそ笑む、サンジの表情に、全てを悟っていただろうに。





サンジの術中に、見事にはめられてしまった。と気付いたときには、

既に遅く。

ゾロはもう、この素直じゃない恋人を、手放せないほどになっていた。






誰も居なくなったキッチンで、ゾロが、そのレシピに気付く日を、

ずっとずっと待っていたらしいサンジに、

「んな手間のかかる真似しねぇでも、言やぁよかったろうが」

と言ったとき

「だって、恥ずかしかったんだよ・・」

と頬を赤らめたコックが、なんとも言えず可愛かったので。


まぁよしとするか。







つか、その日記のほうが、よっぽど恥ずかしいぞ!!!






終わり。









ほんとにごめんなさい(土下座)