『好き』という気持ちに、際限なんてあるんだろうか。

  いつでも、 逢うたびに、 顔を見るたび、 声を聞くたび

  いまよりもっと好きになる




  






 仕事が終わるのは、サンジのほうが早い。
 新しく始めた仕事も順調で、
 帰りに近所のスーパーへ寄って、安くて新鮮な食材を吟味して買い、
 先に帰って夕食の用意をして、ゾロを待つ。
 それがここ最近のサンジの日課だった。

 そして、日課がもうひとつ。


 「おかえりゾロー」
 「あぁ、ただいま」

 帰ってきたゾロを、玄関先で迎えること。
 ぎゅうっとしがみついて、ゾロに抱き締めてもらって、お帰りのちゅうをすること。

 「メシできてるぞ、先に食うだろ?」
 「おう」

 ごはんにする?おふろにする?そ れ と も 〜
 ぬわぁーんてクソこっぱずかしいことはぜっ、っっってぇーーーー口が裂けても言わないけど!

 好きで好きで仕方のなかった、元同僚だった男と付き合いだしてしばらく、
 自分でもびっくりするほど甘えたになったもんだ、としみじみ思う。

 以前のサンジからは考えられないほどの変わりように、ゾロはどう思ってんだろうかとか、少し不安になったりもしたけれど、
 愛おしそうに髪に鼻先を埋めて抱き締められていると、そんなことはもうどうでもよくって。
 ぎゅって力をこめられると、胸のへんがきゅーーーうってなって。
 あぁ、好きだなーなんてうっとりしてしまう。

 だって、ずっと好きだったのだ、この男のことを。
 仕事を辞めると決意したときも、ゾロともう会えなくなるかもしれないということだけが気がかりだった。
 それを悟ってかどうか。
 最後の日に。
 連れてこられたゾロのマンションで。
 ここで一緒に住むぞ、と言われたときは、その行動力に呆れるとともに、すごく嬉しかった。
 ゾロも、同じ気持ちでいてくれたことが。
 自分に、恋をしていてくれたことが、嬉しくて、幸せで、泣いてしまったほど。

 好きだ、と口に出して言われたのは、あれが最初で最後だったけど、それでも、
 無口で、気持ちを言葉で表現するのが苦手なゾロが告げてくれた、精一杯の愛情だった。
 そのまま、はじめてなのに、ぺろっと喰われちゃったりした。
 あんときは、まじで死ぬかと思った、いろんな意味で・・・。



 と、ゾロとお帰りのぎゅうをしたまんま、とろんと物思いにふけっていたサンジだったが、
 なんだか、ゾロの手が、腰まわりに下りて、ついでに首筋に唇を押し付けられてるのに気付いて。
 「・ぞ・・ゾロ・・っ飯!!冷める!!」
 あわわわ、とゾロを引き剥がした。

 また、昨日みたいに玄関で襲われるのだけは御免だっ!
 出来立ての、あったかいご飯を、おいしいうちにゾロに食べて欲しいから、ってのと。
 廊下を歩く靴音が聞こえるたびに、息を止めて、声を殺して・・・・あんなスリル・・・・っ・たまにでいい、たまにで!

 ・・・まったく無くていい、と言わないあたり、自分でも相当おかしいことは分かってる・・・。

 ゾロはそんな赤くなったサンジの頬にキスを落とすと、思ったよりあっけなく手を離した。
 「んじゃ、先に飯にすっか」
 「あ、うん。」
 すんなり抱擁をやめられて、もうちょっと抱き締めててほしかったかも、なんて頭温いことを思うと。
 「どうした?顔、赤ぇぞ」
 分かっていてなのか、ゾロにからかうように頬を抓られ、
 サンジはむぅ、と口を尖らせた。
 (こいつは、いっつもいっつも、全部分かってて、おれの考えてることなんかお見通しって顔して。)

 それが、嬉しいの反面、なんだか 悔しい。







 夕食後は、順番に風呂に入って、まったり二人でテレビみたり映画を見たり。
 それもまた、いつもの風景。
 そのときの、サンジの居場所は ゾロの 膝の 間。
 それもまた、日常。


 もともと友人関係が長かったのもあって、最初のうちはこうしてひっついているのが妙に恥ずかしかったりもした。
 けど、
 恋人とくっついていたいって思うのは、当然だろ?ってゾロに諭されて。
 くっつきたきゃ、いつでもひっついてこい。って言ってくれたから。
 あぁそうか、もう隠さなくていいんだ。
 あの腕に抱き締められたいと思ってることも、
 飽きるほど、・・・飽きるわけなんてないけど、
 キスをしていたいと思うことも。

 こんなにも、ゾロが好きなのだと、隠さなくていい。

 おれが甘えたがりになったのって、絶対コイツのせいだよな。 と呆れて思うときもある。
 でもそれが。
 全部を受け入れてくれるゾロが、
 すごくすごく愛おしい。




 借りてきたDVDを見ながら、ぽすんとゾロの胸に頭をもたせ掛けると、
 サンジの肩に顎をおいて、ゾロが耳に口をつけてきた。
 (・・ンっ)
 耳朶の産毛を味わうように唇を擦りつけられたあと、かぶっと柔らかく噛まれる感触に ぴくんと、肩が揺れた。
 そのまま、耳たぶ後ろ側の付け根に舌を這わされて、思わずふにゃけた声が出そうになるのを、ゾロのシャツの裾を掴んでこらえる。

 いつもゾロの、スキンシップにたいして、こういうとき、どんな反応を返せばいいのか、まだ分からない。
 嫌がって蹴り飛ばしたりもできるんだろうけど、本音は、嫌なんかじゃ全然なくて・・・・・・それなのに、恥ずかしくて、いたたまれなくて。
 いつもサンジはどうしていいか分からず、体を硬くして、じっと固まるだけ。
 しかし、サンジが、どこが弱いか、どこを刺激すると甘い声をあげるか、なんて
 ここに越してきた最初の日に、ゾロにすべて暴かれてしまっている。
 ゾロとのセックスは、まだ慣れないけれど、だんだんと、感じる部分が増えていってるように思うのは、
 できれば 気のせいであってほしいんだが。

 とくに、耳なんて、性感帯だなんてこれっぽっちも思わなかったところなのに、
 ゾロの、 舌で、 舐められて、
 中に挿し入れられる、だけで、ざわざわと、皮膚が粟立つ。それも快感で。ほんとに、どうしようもない。
 全体を口内に含まれて、ぐちゅぐちゅと、吸われたり舐められたりを繰り返されるだけで、全身から力が抜けてぐなぐなになって。
 「―――ッ、ン、ふ・・・・」
 鼻から抜けるような吐息とともに、背後のゾロにしなだれかかる。
 気持ちよくて、目が潤んでくる。
 恥ずかしい、のと、それだけじゃなくて、もっと、

 ・・・もっと、さわってほしい。ゾロに・・・。

 ウズ、と身じろぎしたサンジの、Tシャツの上から透けて見える桃色の両の突起を、耳たぶを食んだままゾロが緩く 擦りあげる。
 それだけで、ピリッと電流が走ったような気がして
 「アァアっ!」
 声を上げてのけぞった。
 ゾロの唇が、耳の裏を通って、首筋に下がる。
 頚動脈のあたりをべろりと舐められ、もうサンジは力が入らない。
 「あ。あぁっ、ア・・・ク・・ッぅん。」
 首筋も、耳も、乳首も、どこもかしこも。こんなに感じるようにされてしまって・・・。
 ほんの少しの愛撫でも、サンジから思考を奪うのには充分で。
 どくどくと、心臓が大きく跳ねるのが聞こえるんじゃないかと思うほど。
 脳に血液が回らなくてそのかわり、なんか、下の方にばかり集まっていく気がする。気がするなんてもんじゃなく、もうすでにジーパンの下のそこはちゃっかり兆しているのだけれど。

 直接触られてもいないのに、立ち上がっていくソコを隠すために、膝頭を合わせ、もぞ、もぞり と体勢を整えようとしても。
 するりと降りてきた掌に、くすぐるように脇腹を撫でられては、途端に力が抜けてしまう。
 「アぁ・・・ゾロぉ・・っ」
 びくんびくんと肢体を震わせ、ゾロにすりよる。
 そんなんじゃなくて、 もっと、 ちゃんと

 おれを・・・


 「なぁ、サンジ・・・」

 これからされることを期待して、勝手に涙がこみあげる、息があがる。
 耳に息を吹きかけられて、サンジはまたブルリと身震いした。
 だから

 「コーヒー、飲みてぇ」

 「・・・・・・・・・はっ?」

 「淹れてくれ。な?」

 その、言われた意味が一瞬わからなくて 振り返る。
 目を細めて、唇を薄く開いたゾロが、ありえないほどニヤケた面で見ている。
 両脇に手を入れられ、ゾロは ひょいとソファからサンジを降ろすと、
 力が入らず カクン、と膝をついたサンジの腰を、ポンポンと叩いた。まるで急かすように。

 (こいつ、なんてった?)
 コーヒー淹れろとか言いやがったか。酒じゃなくてコーヒーか。
 いま?この状態で? こんだけ煽っといて!?
 おれ今ジンジンしてて立てねぇんだけど!?

 ―――――何考えてんだこいつバカか!?


 八つ当たりにも似た思いがこみ上げ。 ふえ・・っと泣きそうになるのを寸前でとどめて、仕方なく立ち上がる。
 できるだけ、なんでもないような顔をして、 「しゃぁねぇな・・」と呟く。
 なんだ、その気になってたの、おれだけかよ・・・とか寂しく思ってることなんて悟られたくなくて、
 (おれもほんとつくづく、ゾロには甘ぇよな)
 小さく深呼吸して、気丈を装ってキッチンに向かって歩き出すも、まだ納まりきらない熱が、サンジを苛む。
 一歩踏み出すごとに、先走りで濡れたモノが下着のなかで、ずるんと滑る。それさえもまた、快感にすり替わってしまい。
 静まれ〜〜静まれぇ〜〜と念じてみても。
 立ってるもんはそう簡単には納まってはくれなくて、サンジは、ゾロに背を向けたまま 悔し涙を浮かべた。








 やかんに勢いよく、たっぷりの水を入れ、湯を沸かす。
 サイフォンに挽いた豆をいれ、
 おそろいのコーヒーカップを取り出した。

 二人で一緒に暮らすことを決めた次の日に、雑貨屋に行って、買ってきたカップ。
 緑と黄色のハートマークがプリントされたそれを見つけたときに、
 つーかゾロがそれを手に取ったときに。
 恥ずかしさのあまり、奪い取って店内でぶち割りそうになったカップ。

 あのときは、まだ、すげー優しかったのにゾロ・・・。
 なんか 最近だんだん意地悪だ。

 分かってッか?コーヒーひとつ淹れんのにも、すげぇ時間かかんだぞ?
 この状態でほっとかれる方の身にもなってみろってんだ!
 だいたい、最初に触ってきたのはゾロなのに。なんで途中でほっぽりだすようなマネできんだよ。
 ・・・おれの体に飽きちまったとか?・・・・いやいや。そりゃねぇだろ。・・・いやいや・・・。
 もし 『飽きた』とか言ってみやがれ。三行半叩きつけて実家に帰ってやる!
 迎えに来たって入れてやんねぇかんな!よしそうしよう!
 んーでもな〜、ジジィうるせぇしな〜ゾロが迎えに来たりしたらすっげぇ剣幕で追い返すんだろうな〜。
 それはちとヤベェかな・・・。
 んじゃ5回ぐらいオロしとくか。
 あーでもな〜。もうおれに興味ねェんだもんなぁ、ゾロ・・・。
 好きとかも言ってくんねぇしよぉ。おればっかだよな、こんな好きなの・・・。


 くだくだと、頭の中で悪態をついていると、だんだん下半身の熱も納まってきたような気がする。
 ・・・そのぶん増えた 胸の痛みは さておき。
 そのあいだにも、サンジは慣れた手つきで着々とコーヒーを淹れてゆく。

 真後ろに立ったゾロが、笑いを噛み殺していることなど気付かずに。




 香ばしい匂いのコーヒーをカップに注ぐと、同時に
 カップを持つサンジの手に、後ろからそっと手を添えられ、シンクに降ろされた。
 「ひ・・え?」
 驚いた声を上げて首だけでぐりんと振り向くと、ニヤニヤと笑う恋人に、ぎゅっと抱き締められる。
 「ん?んん?」
 「おめェは、頭ン中まで巻いてんのか?このグルグルは」
 「ハァ!?おめぇにだきゃ言われたかねぇよマリモ!オラ、コーヒーできたぞ!ありがたく飲みやがれクソエロ講師!」
 そっぽを向き、ぷううと頬を膨らませ、吐き捨てるサンジの首筋に、ゾロが唇を寄せる。
 熱い、息がかかって、ちょっとだけ、くらっとしたけど。
 「・・・実家になんか、帰らせるわけねぇだろ。」
 「・・・・・・・・なっ!?」
 「全部口ん出てたぞ。アホアヒル」

 ――――――マジかよ!?

 ぐわぁぁぁぁぁっと一瞬にして赤くなったサンジの首筋を、ゾロがべろりと舐め上げる。
 「・・っク 、ふ・・」
 「ついでに、おめェに飽きることなんざ、一生ねぇからな。」
 「・・・だ、ったら・・・っ・・」

 そこまで言って、言葉に詰まる。
 ・・・なんて、言えばいいのか。
 離さないで?
 優しくして?
 もっと触って?


 〜〜〜〜バカか言えるわけねぇだろクソがァ!!


 「ゾロ、コーヒー飲め」

 だから代わりに、
 淹れたてのコーヒーを、ゾロの前に突きつける。
 ゾロは、面白そうな顔をしてそれを手に取り、香りを愉しむように匂いを嗅ぐと、ゆっくりと口を付けた。
 「・・・うめぇか?」
 「あぁ。うめェ。」
 「んじゃ。礼は?」
 食事に対しては、礼など求めないサンジの台詞に、飲み干したゾロは 少しだけ片眉を上げる。
 「あ?ごちそーさん。」
 「・・ちがう」
 「・・・ありがとよ?」

 素直に礼を口にするゾロに、サンジは上目遣いで、触れるギリギリまで顔を近づけた。
 「コーヒーの、礼は・・・  ッン」

 言うより早く、意図を汲んだゾロに、唇を奪われる。
 薄く開くとすぐに、分厚い舌が入り込んできた。
 「・・・ッは、ぁ、 う・・ン」
 ぬるりと舌の表面をこすりあわせる、軽く歯をたてられ、吸われる。
 サンジも同じようにし返すと、愉しそうに目を細めるゾロ。
 その顔が、なんとも言えず、エロくて。
 あぁ、好きだ。とまた思った。
 ゾロから、好きだとか、聞けなくても、もう。
 こうやって態度で分からせてくれるだけでいい。



 さっき焦らされただけあって、体の芯に火がつくのは早かった。
 だが翻弄されるばかりじゃ気に食わないから。

 向かいあわせで抱き合って、舌を絡ませたまま、緩く立ち上がった屹立を、服越しにゾロに押し付ける。と、
 足の間にゾロの太腿を割り入れられた。グッと腰を引かれ、
 「・・・ふあッ、 ん・・・ ゾロ・・・」
 ぐちゃぐちゃになった下着の中で性器が擦れて、それだけで膝が折れてしまいそうなのを、ゾロに抱きついて堪えた。

 おれは、ゾロの考えてることなんか分かんねぇから、
 ゾロが、おれの欲しいもんを汲み取ってくれればいい。
 とりあえず、今は。

 「ココでか、ベッドがいいか、お前が選べ。サンジ・・」

 ほら、な。

 「・・ベッド、連れてけ・・・」

 頬をすり寄せそれだけ言うとあとは、 あっという間に抱え上げられ、寝室へと連れ込まれた。












 好きになるのに、きっと限界なんてない。
 気持ちが膨らんで、あふれ出して、
 毎日、どんどん『好き』が大きくなっていく。

 それが、とても幸せだ。
 今日も、明日も、明後日も。
 何度でも恋をする。
 不安になったり幸せだったり、喧嘩したり仲直りしたりしながら、

 ゾロと、 ふたりで、 恋を。












 ちなみに、
 「おめェに飽きることなんざ、一生ねぇからな。」というゾロの台詞が、
 熱烈なプロポーズだったということに 鈍いサンジが気付く日は、


 たぶん一生来ない。






      E n d v














 ただただ毎日いちゃこらしてるゾロサンです
 日常とえろの境目などなくていい。(笑)


 お読みいただきありがとうございました!

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