【 眠る剣豪 】
眠っているロロノア・ゾロは、無防備だと思う。
獣のように、がーがー口をあけて、いびきかいて。
寝るときですら、刀を手離さない。
一見、隙のない、侍の寝姿。なのに、隙だらけに見える。
ここでおれが、踵落としでも喰らわそうもんなら。
普通の人間なら、モロに入って、ひとたまりもないのかもしれない。
だけど。
ゾロは、寝ている間も、気配を読み取ることのできる人種なのだ。
たとえば、おれが今、
胡坐かいて座ったまんま寝こけているコイツの腹めがけて、踵を振り下ろした瞬間に。
ゾロは目覚めて、刀の鞘でおれの脚を受け止めるだろう。
そんなことも、これまでずっと共に旅をしてきて知っている。
だから・・・
おれはあたりを見回すと、他に誰も居ないのをいいことに、
ゆったりとした歩調で一人、甲板で昼寝をするゾロへと近付いた。
3歩手前で、
咥えていた煙草を床に落とし、踏み消す。
2歩手前。
深く息を吸い込んで、
1歩手前、
ピクリとも動かない眉間の皺を、その表情を。
寝ているときも、起きているときも。
どんなときのロロノア・ゾロも。
見逃さないよう、眼に焼き付ける。
いつか。
離れてしまう日がきたとしても。
この記憶だけで生きていけるように。
触れ合うほど近くに寄り、肌に触れようとした手を、
ふっとゾロが握る。
今の今まで寝ていたのに。流石に反応が早い。
「ゾロ・・・起きたか?」
「んあ?・・んだお前・・・暇なのか。」
「んー。ちょっとな」
先のない未来を、不安に思ってしまうほどには。
「なら、ちっと寝とけ」
そう言って、
刀を抱える、反対の腕でおれを抱き締め、また寝る体勢に戻る剣豪。
一瞬、言葉が出せなくて。
思わず顔が熱くなった。
「・・・っ。おまえは、ほんっと、おれが側にいねぇとダメな?」
からかうように言ってやったら、
ゾロは、ふと考えるような仕草を見せ、そして薄く笑った。
「ああ。そうだな。」
甘い声で肯定の言葉を残し、また眠りに落ちたゾロを見つめ。
おれも、ゾロの腕の中で、つかの間の睡眠をとることにした。
眠っているロロノア・ゾロは、本当に無防備だと思う。
けれど、そうなるのは、おれの前でだけだ、ってことも、
本当は、知っている。
お読みいただきありがとうございましたv