「あぁ〜今日も雨かよ・・・。」


 憂鬱な月曜の朝。 自宅の玄関前で青年は呟いた。

 夏休みも終わり、新学期が始まって一週間。 毎日のように降り続ける雨に、正直うんざりしていた。

 (雨なんて嫌いだ・・・髪は跳ねるし、制服は濡れるし、体育の授業は流れるし・・・)

 湿気を吸ってうねる自慢の金髪を撫で付けながら、男 ――― サンジは深々と溜め息を吐き、通学路を一歩踏み出した。


 その時、前を歩く人影を発見。 透明のビニール傘から覗く、やたら体格のいい男、の奇抜な髪色。

 緑のマリモ頭。 同じクラスのロロノア・ゾロだった。

 サンジが小走りで駆け寄り、後ろから「よぅ!」と声を掛けると。

 「おぉ」とゾロも振り返り、サンジに向かって笑顔を見せる。










 三年間も同じクラスでありながら、ゾロとこうして普通に話をして、笑顔を向けられるようになったのは、実はごく最近のことだ。

 それまでは、顔を合わせばいがみ合う毎日だった。



 二人の関係が変わったのは、夏休み中・・・ゾロが高校総体で剣道日本一になり、主将を引退したその日。 

 サンジが、こっそり応援に行った帰り道。

 剣道着姿のまま追いかけてきたゾロに呼び止められ、告白・・・されたのだ。


 『この大会で優勝したら、言おうと思ってた。一年ときから好きだった。俺と付き合ってくれ』

 と。

 あの時、突然のことに ぼろぼろ泣いてしまった自分を思い出すと、今でも顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

 それでも。

 目の前の、幸せそうなゾロの笑顔を見ると、そんなことは吹き飛んでしまうほど、サンジも幸せな気分になる。

 ずっと好きだったのはサンジも同じだったから。

 ぶっちゃけ、初恋だったりして・・・。





 「なぁ、今日の体育、サッカーだったよなぁ?俺、楽しみにしてたのにな〜」

 「そうだな」

 「雨でも、サッカーやんねぇかな?」

 「・・・泥まみれになりてぇのか?」

 二人並んで歩きながら、他愛もないことを話す。

 この時間が、とても楽しい。とても愛おしい。自然、顔がにやける。


 ゾロとの会話に夢中になっていたら、突然グイっと腕を引かれた。

 「ぞぞぞぞぞろ!?な・・・」

 パニクるサンジの横を、後ろから来た車が通り過ぎていく。

 (あ・・・車ね・・・クソ、思わずときめいちまったじゃねぇか)

 やべぇ、ぜってー俺今顔まっか・・・。

 うるさく鳴る心臓を押さえ、「ありがと」と呟いた。

 ゾロはと言うと、まだサンジの腕を掴んだまま、憮然とした顔をしている。

 「・・・・・・?」

 「やっぱ、傘差して並んで歩くのは危ねぇか・・・」

 えっ?と思う間もなく、ゾロは自分の傘をたたみ、ずいっとサンジに差し出した。

 「・・・ん?」

 「持ってろ」

 「おぅ・・・??」

 渡されたゾロの傘を右手に持ち、左手で自分の傘を差す。

 ・・・なんで俺、傘二個も持ってんの?
 つーか、ゾロが濡れるじゃん。

 訳も分からず、とりあえずゾロのほうに自分の傘を傾けると、サンジの傘はゾロの手に攫われてしまう。

 「おめぇの傘のが広いからな」

 そのまま、何でもないかのようにサンジを引き寄せ、ひとつの傘に、男二人が納まった。

 あそっか、コンビニ傘じゃ二人で入るには狭ぇしな。
 



 ってこれ・・・!!!!


 あぁあああああ 『相合傘』 ってやつじゃ・・・
 ウソッッ無理無理むり!! 恥ずい!めっちゃ恥ずいってまじで!!
 男同士で相合傘とか、つか、ゾロ近っっっ!!!


 肩が、触れ合うほど近くにゾロを感じる。

 心臓の音・・・ゾロに、聞こえちまう・・・。



 頭の中で『やべぇ』とか『恥ずい』とか『ありえねぇ』を繰り返してみても、嬉しく思ってしまうのはどうしようもない。

 サンジが濡れないように、歩きやすいように、気遣ってくれるゾロの優しさが、嬉しい。


 サンジはなるべくゾロにも雨が当たらないように・・・と、肩を寄せてぴったりひっついた。
 
 瞬間、ゾロの肩がピクッと震えた。盗み見ると、頬が赤くなっている。

 (ゾロも・・・照れてる?)

 そう思うと、並んで歩く男がなんだか可愛くて、突然抱き締めたいような、蹴り飛ばしたいような複雑な気分に襲われた。

 サンジは、自分で思っていた以上に天邪鬼だったようだ。


 まぁ、蹴り飛ばすと、烈火の如く怒りだすのは目に見えているので、周りに誰もいないことを確認しつつ、

 傘に隠れてゾロの頬にちゅうをしてみた。

 「ありがとな、ゾロ///」

 「・・・・・・・・・コチラコソ///」


 あぁ、なんだ。雨の日も・・・


 「雨の日も、悪くねぇかもな」

 そう言ってニカッと笑ったゾロに、サンジも笑顔を返す。
 

 毎日雨ならいいのに・・・なんてことを考えたのは、お互い内緒の話。









 そして、学校近くで出会ったクラスメイトのルフィとウソップに男二人の相合傘をからかわれ、

 ゾロが『俺の傘壊れたから』と堂々とばればれの言い訳を言ってのけるのは、

 もう少し後の話。







  END    




    2007.雪城さくら拝







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