私はカモメ。

世界中に手紙や荷物や新聞を配達するのがお仕事です。

今日も今日とて、グランドラインで奮闘中。



【類稀なるメッセンジャー 2】



一般的にカモメ急便の担当区域は、それぞれ『海域』で決まりますが、

私だけは、主に麦わら海賊団様宛ての配達を担当しております。

今では、ほぼ麦わらさんの船の専属と言ってよいでしょう。

・・・何度、上司に配属変えを進言しても、聞き入れてはもらえませんでした。

曰く、「あの人たちを扱えるのは君しかいないから!」と。

上司にそこまで熱心に言われてしまっては、断るわけにもいきません。

それに、まんざら悪い気もしませんしね。

この業界に、私ほど空路に詳しく、かつ、迅速に荷を届けられる鳥は、おりませんもの。

私は、このお仕事に誇りを持っているのです。

・・・けれど実は、純粋に配達の能力を買われたわけでもないのですよ。

これまでも、あいつら・・・こほん失礼、あの方々のせいで何羽も配置が変わっているのです。

あとには私しか残っていない、というのも一因なのでしょう。

理由が分かるだけに、他の鳥に押し付けるようなマネもできませんしね。

・・・鳥がノイローゼになるだなんて、聞いたこともありませんよ。

なんて恐ろしい人たちなのでしょう。怖いわぁ、人間って。




そんなわけで、麦わらさんたちへの今日の荷は、
海上レストランバラティエ様からのお手紙と、本日の新聞です。

・・・・・あぁぁ、とっても気が滅入ります。


それにね、なんだか今日に限って、いや〜〜な予感がするんです。

いえ、麦わら様へのお届け物の際には、いつも嫌な予感はしているのですが・・・

鳥ならではの、第六感、とも言うのでしょうか。

春島海域だというのに、羽根がざわついて、皮膚にトリ肌が立ちそうになるんです。

・・・・・まぁ鳥ですから、もとから皮膚はブツブツですけど。


ともかく、今までの経験上、こういう日は、必ず何か起こるんですもの。




そうこうしている間に、見慣れすぎた羊船さんを発見。

ぽかぽか陽気のこんな日は、誰にも見つからずに帰れますように!!

どうかみなさん、寝てますように!!

そう願いながら近付くと・・・

船首の方で、なにやらキラリと光るのが見えました。


あら、なにかしらv・・・


なんて不用意に近付いたりなんか、しませんよ。

以前、それで手痛い目にあってるんですから。

いくら忘れっぽい鳥だからといって、学習能力が無いわけではないんです。ええ。

・・・・・でも、やっぱり気になる・・・

私、光りものには目がないんですもの。


空中で、すこーしずつ、少〜〜しずつ、距離を詰めていくと。

その『光るもの』の正体が、やっと掴めました。


狙撃手さんの。

ゴーグル。

太陽の光が反射して、キラキラしてたみたいです。


なぁんだ、そっか・・・・・・


「・・・うん。やばい。」と思ったときには既に遅く。


狙いを定めた長い鼻の狙撃手さんが、パチンコから何かを放ちました。

狙い、というのはもちろん・・・・・私・・・・


バチン!!!


ぎゃああああああああ!いたーい!なんか当たったーーーーーー!!!

なんか、なんか ねとっとしたものが当たったぁぁぁぁーーーー!!!


その『ねとっとしたもの』が羽根にからみついて、途端に、うまく羽ばたけなくなりました。

あれよと言う間に、船めがけて落ちていく感覚。


あらら、いくら私が鳥でも、床に激突したら・・・痛いわ!!!

まずいわまずいわ、これってピンチだわ!


来る衝撃に備えてぎゅっと力をこめたら。

ふわり、と優しい腕に受け止められました。


恐る恐る目を開くと、にっこり微笑む黒髪のお姉さま。

どうやら彼女が、手をいっぱい生やして、抱きとめてくれたようです。

ああ、お優しいお姉さま・・・


「こんにちは、カモメさん」

はい こんにちは。

あ、ああ、申し訳ありませんお姉さま、私、いまベトベトしちゃってて、綺麗な御手が汚れてしまいますわ。

・・・って、このベトベト、何でしょうか?

と、お姉さまを見上げると、 ふいに後ろのほうから、

「それはね、トリモチよ」 との声が。


んー・・・。何か聞こえた。

なんか、聞こえちゃいけない人の声が聞こえた。


無意識に、ピィッ!と声をあげて、お姉さまにしがみつく私。

「お久しぶりねぇ、カモメさ〜ん♪」


んぎゃあああああああ また出たああああああああああああああああ!!!!!


だから・・・だから嫌な予感がしてたんだわ!

せっかくこの数ヶ月、この蜜柑色の悪魔とは顔を合わさずにすんでいたのに!!

「飛んでる最中に、偶然 トリモチが当たっちゃうなんて、よっぽど運が悪いのねぇあなた」

ち、ちが・・・っ!!! あなたんとこの鼻の人が・・・!!!!

「災難なカモメさんに朗報よvうちの船医特製のはく離剤。今なら特価で大サービスするわv」

いや、だから、主犯 絶対 あんたでしょーが!!!

「そうねぇ〜、大マケにマケて、一万ベリーでいいわよね」

・・・・高い〜〜〜〜〜っっっ!!!!!
しかも、いいわよね。って、もう決定ですかその金額ーー!

無いです、無いです、カモメはそんな大金持ってないです〜〜〜!!!

必死でブンブン首を振ったのに。

「でもね、そのトリモチ、これじゃないと落とせないんだけどな〜?」

ああ・・・もう、こうなったら降参です。

何か困ったことがあったときに使いなさい、と昔、おばあちゃんに貰った、
なけなしのへそくりを、私は羽根の内側から取り出しました。

しかたないよね。お仕事なんだもの。

ごめんね、おばあちゃん。ごめんね・・・。


目から、はらはらと涙が溢れます。


悪魔に魂を売った私を赦して・・・


「・・・ねえ、航海士さん・・」


「・・・ああ、もう。分かったわよ。ほら」


黒髪のお姉さまが、悪魔に声をかけると、

諦めたように、はく離剤とやらを渡してくれました。


っな・・・なんで!?

怖い!!素直な悪魔なんて、余計怖ぁーい!


涙流しながらビクビク震えていると

「・・もうなんもしないわよ。こっちいらっしゃい。」

悪魔・・・航海士さんが、私を抱きかかえ、近くにあった椅子に腰かけました。

薬剤を羽根にかけ、丁寧にベットベトを取り除いてくれているみたいです。


この人・・・・・何か、別の魂胆があるのかしら。

それとも、ほんとは優しい人なのかしら?


今までの経験から、どうにも疑り深くなってしまうのは仕方ありません。
だって、いつも散々な目に合わされてるんだもの。

あら、でも意外に、気持ちいいですね。
ブラッシングされてるみたい・・・


ぽかぽかと暖かな日差しの船上。
天敵であるはずの、航海士さんの膝の上で、
私はうつらうつらし始めてしまいました。

今日の配達はここだけですし、こんなにいいお天気なんですから。

麦わらのお仲間さんたちも、皆様、お昼寝してるみたいですし。

私をまたもや撃ち落としてくれた狙撃手さんも。
解剖大好きトナカイ船医さんも。
肉命の船長麦わらさんも。
気持ちよさそうに船首に寝転がっておやすみしてるみたい。

黒髪のお姉さまも、のんびりと、読書しだしたご様子。

ここはいいですね、なんだか、海賊らしくなくて、のんきで。

そういえば、いつも寝てばっかりの緑の剣士さんは、どこにいらっしゃるのでしょう?
金色の綺麗なコックさんも、お姿が見えないようなのですけれど。

ふと気付いて、きょろきょろしていると、

航海士さんが、黙って、隅の方を指差しました。


日差しを避けるように、影になった場所で

壁にもたれて眠る剣士さんと、

その膝を枕にして寝ている、コックさんが。


・・・あら?あのお二人は、仲があまりよろしくないと伺っていたのですけれど?

クル、と頭だけ航海士さんに向けると、彼女は呆れたように

「ああ、あいつらは、バレてないと思ってるだけの、ただのバカップルだから」

と言いました。

・・ば・・プ・・?

クェ?と声を出すと、

「あ、ツガイってことね。」

ああ、なるほど!
だから、ああして一緒に眠ってるんですね。

「今度、言ってみるといいわよ。面白いことになるから」

くすくすと笑う航海士さんに。

あーもー、絶対言わないからね!
と心に決めました。
すっごい意地悪な顔してるんですもの、彼女。
きっと、彼女は、私だけじゃなく、他人を虐めることが生き甲斐なんだわ。
だんだん分かってきました。
・・・でも、本当に嫌がることはしないのね。

「はい、取れた」

ぽん、と羽根をおさえ、うかがい見た航海士さんは、
なぜか、晴れ晴れとした笑みを浮かべていました。

・・・ろ・・・労働代とか、請求されますか・・・?

クィィ〜・・と鳴くと。

「やぁね。あたしもそこまで鬼じゃないわよ〜〜」

そ、そうですか・・・それはよかっ

「新聞代、二年間タダにしてくれたら、それでいいわよv」

お・・・鬼ーーーーー!!!!!


無理無理むり!!それでなくとも、一年は、タダにしたじゃないですかー!

せ・・・せめて半額で・・・!!!

「んー、じゃぁそれでいいわよ、しょーがないから」

待ってーー!しょうがないとか、あなたが言わないでーー!



慌てて私は、足に提げたままだった荷物を渡すと、飛び立つ準備を始めました。


も、もう、早く帰ろう!!

これ以上無理難題つきつけられる前に!


バタバタしている私を、楽しげに見つめた鬼航海士さんが言います。

「今度来るときは、お菓子でも持ってきてね。うちのコックの紅茶をご馳走してあげるわ、カモメさん」

それに、振り返り、

(・・・負けませんからね!)

言うと、私は一目散に船をあとにしました。






私はカモメ。

なぜか羊船専属のメッセンジャー。


とびっきりおいしいお菓子を用意して、驚かせてやるんだから!

と決意もあらたに

明日も元気にお仕事です。



− 終わり −





カモメさん再び。
ゾロサンはどこに・・・(笑)