私はカモメ。

世界中に手紙や荷物や新聞を配達するのがお仕事です。



とは言っても、私の担当はグランドライン。

この広い広い、摩訶不思議な海の上で、
どことも知れぬ海域をただよう船のたった一隻を見つけるのも、

なかなか 至難の業なのですよ。

それなりに、やりがいのある仕事ではあるのですがね。




【 類稀なるメッセンジャー 】




今日のお仕事は、「麦わら海賊団様」宛ての小包です。

私、実はこの船・・・苦手だったりするんです。


あそこの狙撃手さんに一度、的にされてパチンコ玉で打ち落とされたことがあるんです。

まぁそこまでなら、よくあることと片付きもしましょう。

問題はそのあとです。

麦わら帽子を被った少年に、船に落ちたところを捕獲され、

「今夜は鳥鍋だぞーーー」と金色の髪の男に向けて差し出され、

唯一私の言葉を分かってくれるトナカイさんに必死で助けを求めると、

「食べる前に、おれ、解剖していいかっ?」とキラキラした目で見つめられ・・・・



ああ・・思い出しただけで気がめいります。


けれど私はメッセンジャー。

この仕事に誇りをもっておりますもの。

一度食われかけたぐらいで諦めるようなヤワな精神はしておりません。



・・・ああ。よく逃げ出せたもんです、私。
死ぬかと思った・・・。



さぁ今日も、とっとと荷物だけ渡して早々に引き上げることにしましょう。

そうこう言ってる間に、羊頭の船を発見。
例の麦わらさんの船です。

この船に近付くときは、ゆっくり、慎重にね。
まず 狙撃手さんが、練習していないかどうかを確かめてから、ね。


・・・うん、今日はいいお天気なので

狙撃手さんも 麦わらさんも トナカイさんも。

皆さん揃って、甲板でお昼寝してらっしゃるみたい。


・・・ほっ。


私が見たところ、船のクルーで一番マトモそうなのは、

あの黒髪のお姉さんですね。

彼女に渡して、さっさとトンズラしましょう。



と、船に近付き降下しようとしたところ。

後方の小さな林のようなところで、キラリと何かが光ったような気がしました。

私、光物には目がないんです。鳥ですから。

何かしらvとそちらに方向転換。


一瞬、職務を忘れていたことは確かです。ほら、鳥ですから。


羽ばたきながら ゆっくりと近付き目を凝らすと、

お日様の光を浴びて、揺れる金色のキラキラ。

まぁ、なんて綺麗なのかしらv


何かしら何かしらvv

水晶?いえ、もっと金色。
金貨?いえ、もっと透明。

私のコレクションに加えられるかしらvv


でも、近くにあった宿り木で羽根を休め、じっくり見ていると、

そのキラキラが、なにかに覆われてみえなくなってしまいました。


あぁん、なんなのあの緑の!!

キラキラに覆いかぶさる 緑と肌色の大きなモノ・・・

よく見ると、あれは『ヒト』なのかしら?


あら、光に目を取られていたけれど、

あのキラキラも、どうやら『ヒト』のようです。



重なったり離れたり。

ゆらゆらと綺麗な光の中に、二人の人間が。




あの二人には、見覚えがあります。


金色の髪。

緑の髪に、金の装飾。


とっても綺麗だったから、覚えてます。


確か この船の・・・・・・・・






「カモメ便さん?そこまでにしてあげてくれるかしら?」



いきなりふわりと、目の前を塞がれたかと思うと。

私、羽ばたいてもいないのに、体が浮きました。


なんなの!?一体なんなのーーーっ?!




「小包を届けにきてくれたのね?ありがとう」

落下に似た浮遊感の後。

ようやく目を開くと、そこには

にっこりと微笑む 黒髪のお姉さんがいらっしゃいました。

あらま、そうでした、お仕事中でした。

すっかり忘れてしまっていたわ、私ったら。


提げた小包を渡し終えると、

他の皆さんに見つかる前にトンズラしなくては。
と 急いで飛び立つ準備を始めました。


狙撃手さんや 麦わらさんや トナカイさんも曲者ですが。

この船には、お会いしてはいけないかたがもう一人いらっしゃるんですから。



早く帰らなくては。

あの、蜜柑色の悪魔に会う前に・・・!!!



「あぁ〜らカモメ便さん、タダ見で帰るおつもりかしら?」



ぎゃぁぁぁぁぁ出たぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁ


この悪魔にだけは 見つかっちゃ駄目でしたのに!!


私は、黒髪のお姉さんの手の中で、じたばたともがき始めました。

なのにちっとも外れてはくれません。



あ・・ああああ 悪魔が・・こっちに来る・・・!!

「あの二人。見たんでしょ?見物料ぐらいもらわなきゃ、コッチも割に合わないわ〜」

わざとらしく困ったような顔をしても、私は騙されませんからね!!

この手にヤられて、何度も苦い思いをしたんですから!

私はぶんぶんと勢いよく首を横に振りました。


「そうねぇ〜これから先一年間、新聞タダにしてくれる、って言うなら見逃してあげてもいいんだけど〜」

いや、いやいやいや、おかしいでしょ。

金ですか、なんでも金で解決ですか貴女は!!

というより、何を責められているか、今回はまったく見当もつかないんですが!!


「あら、何を言ってるのか分からないのかしら?」

こくこく。

今度は縦に首を振ります。

鳥ですから、縦はけっこうキツイですが。


「じゃぁしょうがないわね・・・」


あら、今日はあっさり見逃してくれるのかしら?


「チョッパーに通訳してもらいましょうね。ついでに解剖されちゃうかもしれないけど♪」


・・・・・・・・ヒィィィィィィィィィ!!!!!


「新聞代、タダにしてくれるわよね?安いもんよねぇ?」


コクコクコクコク!!!


する!するから、離して!!もう帰らせて〜〜〜〜〜



死にもの狂いでもがくと、やっと黒髪のお姉さんが手を離してくださいました。


「ちゃんと上司に言っとくのよ〜〜」


悪魔の声を聞き終える間もなく、私は飛び立ちました。












羊頭の船が、ポツンと点のように小さくなった頃。

私はようやく息をつくことができたのです。



し、死ぬかと思った・・・

なんか、今回は本気でもう死ぬかと・・・・ああ・・・怖かった・・・




それにしても、あのキラキラの二人は、何をしていたのでしょう。

私にはよく分かりませんが、


今後はキラキラを見つけても

もう二度と近付くまい!


と心に誓いました。








私はカモメ。

世界中に手紙や荷物や新聞を配達するメッセンジャー。






そろそろ担当地域を変えてもらおうと、本気で思いながら。

今日も元気にお仕事です。




− 終わり −