「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

 両者沈黙。





 【H・M 後編】







 数十秒か、数十分か。

 永遠にも思える長く気まずい時間が流れる。

 サンジはもう、腹巻を隠すことも、自分のブツを仕舞うことも忘れ、イッた後の回らない頭でぐるぐる考えた。




 (な・・・なんでマリモがこんな時間に・・・ってか、いつまで見てんだよ・・・ヤローがセンズリこいてただけだろ。船旅じゃ、出くわすなんてよくあるこったろーが。)

 (っつーか、なんか怒ってんのか?なんなんだよ、その垂れ流しの殺気はよぉ・・・)

 (やっぱ、ゾロの腹巻持ってんの、バレたよなぁ・・・気味悪ぃとかって、思われてんだろうなぁ・・・)



 (俺、ゾロに斬られんのかねぇ・・・)



 それならそれで、もういいような気がした。

 混乱の中、いっそ消えてなくなりたいような恥ずかしさと、

 どーしようもないなら居直ってしまえ、という心の囁きに挟まれ。


 もし消えるのなら、その時は、この男の手にかかって死にたい。とそう、思った。




 長い長い沈黙を、唐突に断ち切ったのは、ゾロだった。


 「・・・いつからだ」

 怒気を孕んだ口調に、サンジの肩がびくっと震える。




 やっぱ、怒ってんだ・・・。

 思わず、唇を噛み締めて俯く。

 構わず大股で近付いてきたゾロは、サンジの腕を乱暴に引っ張った。

 未だ腹巻を握り締める、その腕を。

 「ご・・・ゴメ・・・っ」

 「いつから、俺で抜いてやがった」

 表情のない剣士を、サンジは初めて怖いと思った。




 ・・・こんなのってない。

 ただただ好きで。

 打ち明けることも、諦めることも出来なくて。

 体に溜まる熱だけを持て余して。 せめて、ちょっとでも触れていたい。

 そう思った結果がこれだよ。あんまりじゃねぇか、クソッ・・・。

 この腹巻さえなければ、まだ言い逃れも出来たのに。

 いや〜オナニー見られちまったか〜。おめぇ、ナミさんたちには言うなよな〜。とかなんとか・・・いつもの調子で・・・。

 は!でも、もう終わりだ。


 この邪な想いも。仲間としての信頼も。すべて。






 自嘲しながらも、じわりと、視界が涙で滲む。

 「・・・ご・・めんゾロ、ごめん・・・」

 「そんなのはいい。いつからだって、聞いてんだろうが」




 いつから?そんなの聞いて、どうする。

 これ以上、惨めにさせないでくれ・・・。




 「・・・おめぇ、それ、三っつめだろ」

 「・・・は?」

 「ココヤシ村を出てすぐと、ドラムん時と、アラバスタで。一個ずつ腹巻がなくなってた」

 淡々と喋るゾロに、サンジは驚愕する。

 「おま・・・数えてやがったのか!?」

 「当たり前だろ。・・・全部、お前が盗ってたんだな?」

 「・・・ッ・・・・・・・・・」

 「なんでだ」


 ・・・なんで?


 その言葉に、サンジの頭にかぁっと血が上った。

 「謝ったじゃん! 腹巻盗んで悪かったよ! もういいだろ、これ以上、どうしろってんだよ」

 まるで反省している謝り方ではなかったが、ゾロはサンジをひたと見下ろし、静かに呟いた。

 「・・・だから、そんなのはいいって言ってる」

 「イミ分かんねぇよ!いいならいいじゃん。ほっとけよ、俺の・・ことはもう・・・」 



 不意に涙が溢れてきて、掴まれたままの腕で顔を覆おうとしたが、ゾロに遮られた。

 代わりに、目の前にしゃがみ込んだゾロが、その手で頬を伝う涙を拭う。

 その優しい仕草に、こんなときなのに鼓動が早まる。

 「なんで泣く」

 「うるせ・・・っ見んな・・・っ」


 「・・・なぁ、なんで、俺の腹巻握って、抜いてたんだ?」

 さっきまで確かに怒ってたと思ったのに、一言一言区切るその言い方は、まるで子供に言い聞かす時みたいで。なんだか穏やかで。・・・甘く響いて。



 もうあんまり怒ってねぇのかも、とか思った。



 実はそんなに嫌われてなかったのかも、とも。



 サンジはバツが悪いながらも、上目遣いでゾロを睨んだ。

 「ゾロの・・・匂いがするから・・・」

 「・・・なんで、俺の匂いを嗅ごうと思った」

 どこまで聞く気だ、この鈍感マリモは。

 戸惑いながらも、なんだか質問するゾロの声が、甘く掠れているような気がして。

 言っても斬られないかも、ぐらいには安心していた。



 「その方が、コーフンするから?」



 「・・・なんで・・・俺の匂いで、興奮する」



 あ、なんか、いま、ゾロ変な顔した。

 怒ってる顔じゃなくて。

 なんか、苦しいみたいな顔。

 俺、その顔する時、知ってる・・・かも。

 ・・・欲 、情・・・してる、顔



 「・・・・・・ゾロのことが・・・好き・・・だから・・・」



 精一杯、もういっぱいいっぱいで、それだけを告げた。



 ここまで言って、『なんで俺のことが好きなんだ』とか聞いてきたら、有無を言わさず蹴り上げて海に叩き込んでやる。
 と、サンジは自分の立場も置かれた状況も忘れて思った。






 はぁーーーっと長い溜め息が聞こえて、サンジはまたギクッと肩を強張らせる。

 「そういうことは早く言えよ・・・」

 「ゴメ・・・・・・っは?」

 「俺ァずっと、おめぇには嫌われてんだと思ってた。いつも生意気なおめぇのことも、嫌いなんだと思い込んでた」


 鼻の奥がつんとした。

 そりゃ、厭味な態度もとったし、嫌われてた自覚も十分あるけど。ってか嫌われる要素しかないけど。

 実際に、好きな奴に言われると、結構ショックだったりする。

 そっか、失恋の涙ってすっぱいんだ・・・。


 また泣き出したサンジに、今度は少し困ったようにゾロが言い募る。

 「だがな、そりゃぁ思い違いだったみてぇだ」

 「・・・へ?」

 なんとも間の抜けた声を出すサンジに、ゾロが苦笑した。


 「見てみるか?」


 「んぁ?」


 なにを?

 そう思う間もなく、ズボンの前を寛げた剣士に、サンジは目を剥く。

 んなななな・・・なに・・・!!??

 未来の大剣豪の股間にそそり立つ、赤黒い性器。



 それは、たいそうご立派に勃起なさっていた。



 (・・・でかっ!!!・・・つか、グロっ!!!!)

 アラバスタの大浴場で盗み見たときは、一瞬だったし、勃ってなかったし、こんなに間近じゃなかった。

 サンジの眼前にしゃがんだままのゾロの凶剣は、高々と天を向き、赤黒いっちゅーか、どす黒いっちゅーか、な色をして、ごつごつしたぶっとい棹に浮かんだぶっとい血管が、なんとも言えずグロテスクだ。

 自分と同じ性器とは思えない。

 色も形も、大きさも。

 サンジのペニスは、小さくはないが、どちらかというとピンクっぽくて、すんなりつるんとしている。

 間違ってもゾロのを『かわいい』とか『きれいだ』なんて思えない。・・・はずなのに・・・。

 「おめぇの見て、こんななっちまった」

 照れたようにニッと笑った剣士に、嬉しく思う心を止められない。

 サンジの自慰を見てゾロが勃起したという事実に、耐えようもない恍惚を感じた。




 ゾロの、凶悪そうな性器が、先から小さな液粒を垂らしながらびくびくと震えている。

 目の前に突きつけられたそれを見ただけで、サンジも再び勃起してしまっていた。

 「お?てめぇのも勃ってんじゃねぇか」

 にやっと笑って、あろうことかゾロが! おれのペニスに手を伸ばしてきやがった!!

 「ひぁんっ!!」

 いきなりの刺激にビビッて、思わず腰を引いてしまう。

 「な・・・なななななにすんだ!?」

 「何って・・・・・・ナニ?」

 「・・・ふゃ!」

 ヤメロ、耳元でそんなヤラシイ声で囁くな!こ、腰が・・・・・・

 「へぇ、おめぇ、耳弱ぇのか・・・。こりゃいいや」



 なんでなにがいいんだなにが―――――!!!!!



 サンジはもう、パニックだった。







     *****     *****     *****




 「ん・・・ふ、ぅぁ・・んっ・・」

 サンジの耳に舌を挿し入れ、舐める。

 その度に、びくびくと体が震え、小さく声が漏れる。

 押し殺すのを許さずに、指で唇をなぞると、薄く開いた唇から、明らかな嬌声が漏れ始めた。

 それに気をよくして、ゾロはサンジを床に横たえると、その服を脱がせに掛かった。

 サンジは剥ぎ取られていく衣服を見つつ、居心地悪そうにしている。


 とりあえず、どっから攻めたらいいものか、と思案しながら、声を掛けた。

 「おい、コック、てめぇが感じるとこはどこだ」

 あまりにストレートな質問に、耳といわず顔といわず、真っ赤に染めたサンジに睨まれたが。

 「し・・・知るかよ!そんなもん、自分で探せや!」

 「・・・それもそうか」

 ・・・上から舐めてってみるか。

 そう決めた剣豪は、サンジの脚の間に割って入り、また耳朶に舌を這わす。カリッと甘噛みしてから、耳の後ろを舐めた。

 「んぁあ・・・っん、い、やぁ・・・」






 こういうときに『イヤ』といっても、それが甘い声ならば『イイ』ということなのだ。ということは、ゾロも知っている。

 ―――昔、酒場の男たちが、そう話しているのを聞いたことがあった。

 しかし同時に、本気で言ってる『イヤ』を聞き逃してはいけないことも知っている。

 それを間違えると、二度と相手をしてもらえなくなるらしい。




 ・・・それは嫌だった。せっかく、サンジを手に入れたのに。

 ようやく、自分の気持ちに気付いたのに。

 ゾロは、こと細かくアドバイスをくれたいつかの酒場のオヤジ達に感謝した。










 問題は・・・、童貞に、その聞き分けが出来るかどうかなのだが・・・。








 サンジの首筋を舐めながら様子を伺う。

 「あ・・・ひぁ・・ぁん、いやぁ・・・んっ」

 (これは、好さそうだな・・・)

 鼻にかかった甘い声が出ている。

 想いの外、股間に響くその嬌声にゾロは、我慢我慢・・・と息子に言い聞かせた。

 ここで我慢を欠いて性急にコトに及ぶと、手痛いしっぺ返しがくるのだそうだ。



 (ゆっくりと丁寧に、時間をかけて、開くのを待て・・・だっけか。)



 ・・・・・・なにが『ヒラク』んだ?



 一瞬考えたが、まぁいいか、と思い直り、愛撫を再開した。

 考えても分かるまい、実践あるのみだ。


 裸に剥いたサンジの胸に目が留まる。

 ・・・心臓が、止まるかと思った。

 白い肌、薄い胸に、ぽわんとピンクの花が咲いている。


 ・・・エロい・・・。エロすぎる。

 女の胸は、絵や写真でしか見たことないが、へぇこんなんかぁ・・・と思った記憶しかない。

 それが。なんだこの、乳首は!あれか、故郷に咲いてた、あの花・・・なんだっけ、桃とか、桜とか・・・そんなだ。眼福だ。鼻血出そうだ。

 桃の木を見て欲情したことはないが、サンジの胸に咲く花は、なんとも可憐で・・・むしゃぶりつきたくなるのを、必死で抑えた。


 またしても動きの止まったゾロに不審な目をやったサンジは、自分の平らな胸を凝視するゾロを見て、その顔に落胆を滲ませる。

 「ぁー・・・わりぃな、ぺったんこでよぉ。つーか・・・やっぱ萎えるか、男の胸じゃ・・・」

 そう言ったサンジに、ゾロは目を開き、

 「俺ァべつに、何でも構わねぇよ、おめぇなら」

 しれっと言ってのけた。

 「・・・はぇ?」

 ポケッと自分を見つめるサンジの胸をザラリと舐め、震える乳首を口に含む。

 ・・・甘ぇ、かもしんねぇ。

 その甘さに夢中になり、さっきの我慢もどこへやら。我を忘れて吸いまくった。

 「あ・・あぁ・・んゃぁ・・・」

 己の下で悶えるサンジに、ゾロはどうしようもなく昂っていく。



 あの口も吸いてぇし、髪も撫でてぇ。体中どこもかしこも貪り尽くしてぇ・・・。

 が、如何な三刀流といえども、いっぺんにできることは三つまでだ。

 ゾロは片方の乳首を舌で舐め溶かし、もう片方を指で挟んで捏ねた。

 もう一方の手は、ちょっと悩んだ末に、一番気持ちいいであろう屹立に添える。

 「うぁ・・あ・・ぞ・・・ろ・・っっ」

 「・・・っく・・」

 ・・・名前を呼ばれても、イきそうになるのかよ、俺は・・・。

 堪え性のない己を叱咤し、それでも愛撫の手は休めない。

 コックは、まだ腹巻を持ったままの手で、ゾロの頭を掻き抱いた。


 自分の腹巻なのに、その様になぜだかイラついて、

 「・・・腹巻より、俺の匂い嗅げよ」

 乳首を食んだまま、そう言うと、

 「やっ・・ぁ? ゾロ・・あ・ぁぅ・あぁああぁっっ!!」

 「―――――っぉ!!!」

 手を添えただけのサンジの陰茎から、物凄い勢いで飛沫が迸った。




  ************







 荒く息を吐きながら、まだ焦点が合わない目でゾロを見遣る。

 (すげ・・・キモチよかった・・)

 ろくに触られもしなかったのに、乳首への愛撫と、ゾロの言葉で、イってしまった。

 「は・・ぁ・・、ぞ・・ろ?」

 とろんとした目でゾロを見るが、なぜかマリモは肩を落として俯いている。

 ぎくっと、背中を嫌な汗が伝った。




 (やっぱり、気まぐれで抱いてみようとしたけど、男の体なんか、嫌になったんじゃ・・・)


 サンジは、ゾロに声を掛けようと体を起こし・・・・・・


 己の体についている白濁の量に目を見張った。




 自分の放った飛沫の他にも、太腿から腹にかけて飛び散っている温んだ液体。


 (ゾロ、もしかして・・・イった?)

 覗き込むと、ゾロはなんともバツが悪そうな、拗ねたような顔をしている。

 耳まで真っ赤だ。


 「っクソ、情けねぇ・・・」

 小さく呟いた男に、サンジの背中にゾクゾクゾクーッと稲妻が走った。



 (・・・かゎっ・・・!)

 獣じみた男が、背中を丸めて拗ねる様に、明らかな快感を得たのだ。

 自然に笑みが零れる。いつもの嘲笑するようなのではなく。

 ふんわりと、まるで花が綻ぶように。

 「嬉しい・・・」

 その言葉に訝しげに顔を上げたゾロは、サンジの笑顔を間近で見て、息を詰めた。

 「俺で感じてくれて、嬉しい・・・ゾロ」

 言った途端、ゾロにおずおずと抱き締められる。

 「ぞろっ、俺、べとべと・・・」

 あぁ、と呟いてゾロはシャツを脱ぎ、それでサンジの体と自分の手を拭うと、再び抱き締めてきた。

 「・・・次は、うまくやるからな」

 悪戯のように囁かれて、サンジはその逞しい背中にぎゅぅうっとしがみついた。





 次、が・・・あるんだ。

 気まぐれでも何でも、もういい。嬉しいと。単純にそう思う。

 もう、それでいい。




 「ん・・・でも俺、ほんとはどんなんでもいいぜ。ゾロなら・・・」

 言われた台詞を返したら、ゾロも抱き締める腕に力をこめた。





 「そんな顔、もっと見せろ。そんで、もっと触らせろ・・・おめぇが好きだ」






 好きだ。





 その言葉が耳に届いた途端、サンジは泣き笑いの表情で「俺も」と応えた。




 それだけで、精一杯だった。




 涙でぼやけた視界の中。




 近付いてくる緑色。




 自然に目を閉じると、唇を合わされた。















 愛しい男と、初めて交わす口付け。





 薄くしっとりしたその唇を味わいながら。















 次からは、ばれないように、一個盗るたびに新しい腹巻を混ぜとこう。




 と。



 救いようのない腹巻フェチは思った。








 【END】










 メリー健在のころのなれそめ話。
 童貞ゾロ。と腹巻フェチのお話。(元も子もないな)
 サンジくんは基本がゾロスキーです。





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