間近にある、紫の瞳から、目が離せない。



 なぁ、だれか教えてくれ。



 こんなのってアリか?






  
 
【 GAME 】






 初めは、ただの遊びだった。



 いかにグランドラインといえども、そこは娯楽の少ない海の上。

 退屈嫌いの麦わらの船長が、宴の席で

 「海賊王ゲームだあぁぁーーー!!!」と言い出したときは、

 クルー一同が賛成した。




 ちなみに、海賊王ゲームとは、なんのことはない。

 くじを引いて『海賊王』になった者が、残った者に割り振られた番号を指名して命令できる、

 という、なんだかどこかで聞いたことがありそうな遊びだ。

 なぜか年少組にウケて、彼らの間で流行っているらしい。



 それが、今、深夜の海賊船の上で行われている。












 「海賊王が命令しま〜す。1番と3番がポッキーゲーム〜」

 そろそろ夜もふけて、遊びも終わりを迎えようというころ、

 コレが最後の一回、と、



 ナミの口から眠そうな声で、どうでもよさげに吐き出された命令に、サンジの目が点になる。



 「ナミさん・・・ポッキーゲームって、なに?」

 「サンジくん、知らないの?そこにあるじゃない」

 と、ナミは、レディのつまみにと用意した、

 チョコでコーティングされた細長いスティック菓子を摘んで見せた。

 「これをね、口にくわえて、相手に食べさせるのよ。もちろん全部ね」



 その答えに、サンジは一瞬だけ喜んだ。







 「1番と3番、だれ〜?」

 ナミの問いかけに、自分が引いた番号を見れば、 3番。


 大当たり。


 あぁぁもしかしてっ、5分の1の確立で、ロビンちゃんに当たるかも〜〜〜vv



 ・・・・・・なんて、そううまくはいかず。

 こちらもどうでもよさそうに手を上げたのは、




 それまで我関せず、と言った風に不機嫌そうに飲んでいた、

 ゾロだった。





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 海賊王の命令は絶対。というナミの笑顔で無理矢理ポッキーを銜えたまではよかったが。

 いや全くよくねぇが。



 目の前には、ゾロの顔がある。

 あいかわらずの、不機嫌そうな面で。

 サンジは、ただ一刻も早くこの馬鹿げた余興が終わることを祈った。







 ポォッキ〜。ポォーッキ〜〜。 とやる気なく、力の抜けそうなクルーの手拍子の中。



 「オラよアホなそこの緑っ!早く食えよっ!!」



 んん、と顔を突き出して、ポッキー銜えたまま不明瞭に喋るサンジに、

 ゾロが眉間の皺を一本多く刻んで近寄った。


 (・・・怖え顔、してんじゃねぇぞ。嫌なのはおれだって一緒だ!
 寸前で止めりゃいいだろこんなん。)




 サンジの肩に、ゾロの手を置かれる。




 引き寄せられるように顔が近付いて。





 目が、逸らせなくなる。



 サンジは、クルーたちの前なのも忘れて、ゾロの深い色を湛える瞳を見つめた。





 この瞳が、獣のように、紅く滲む瞬間を知っている。

 刀を携えて喋るその唇が、舌が、どんなに器用に動くのかも。

 肩を掴む掌や、その分厚い胸板の熱までも。 身体が、覚えてしまっている。




 思い出すと、急に鼓動が早くなった。

 顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる。



 大事なものに触れるかのように、ゆっくりと近付いて、息がかかる距離にいるゾロが。



 なんだかとても恥ずかしくて。



 こんなのなんでもない、と思いたいのに・・・・・・動けない。




 (うあ、ヤベェ。来る・・っ)



 覚悟を決めてぎゅぅっと目を瞑った瞬間。




 パキンッ。と乾いた音がした。





 目を開くと、ゾロがこの上なく仏頂面で折れたポッキーを銜えていた。





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 クソ剣士!あほマリモ!

 ナミさんの命令を途中でやめるなんて!

 ちくしょうちょっと期待したじゃねぇか!

 ドキドキしてたの、おれだけかよ・・・。



 つまらなそうなクルーからブーイングを受けてもシラッとしていたゾロを蹴り飛ばし、

 ラウンジに戻って片づけをしだしたサンジの元へ、かのクソ剣士がやってくる。



 「・・・みんなは?」

 「もう寝るってよ」

 「あっそ・・」

 ぷいっと横を向いて皿洗いを続けるサンジに、後ろからゾロが近寄る。

 「・・・・・・なぁ。なんか怒ってんのか」

 「怒ってねぇ」

 「じゃこっち向けよ」

 「・・・やだ」

 「やだじゃねぇ。向け」




 しぶしぶ水を止め、振り返ると、ゾロの手には、ポッキーの入ったグラスが握られていた。

 「・・・あ?それ、どうすんの?」

 「てめぇが拗ねてるだろうから、機嫌とろうと思ってな」

 すっ・・拗ねてねぇよ!!

 と言おうとしたがその前に、ニヤリと笑ったゾロに

 口ン中に、ポッキー差し込まれてしまう。



 うおっ!?



 顔が近付いた、と思ったらあっという間に、ゾロの腕の中に納まってて。

 どっちかっていうと、ゾロの方が拗ねた子供みたいな顔してて



 「あんな顔、他のヤツに見せんな」

 「・・・って、どんな顔だよ?」



 「いちいち可愛いんだてめぇは」
 
 「・・・ふぇ?」

 ぽかんと目を上げると、赤くなってふてくされるゾロの顔。




 ・・・なぁんだ、ヤキモチか。

 そっかそっか。しょーがねぇなあ、甘えんぼ剣士め。



 っつーかおめぇのが可愛いよ。なんだよそのツラぁ。可愛すぎだクソったれ!





 サンジは微笑んで、大人しく目を閉じた。











 そのあと?



 それはご想像におまかせします。




 −おしまいv−












 は・・恥ずかしいこの人たち・・!!(お前が一番恥ずかしいわ)