「いあ、ぁぁ、やだ・・・ア・・・あぁっ」
すすり泣くような声に、甘さが、混じりだした。
【天使の囁き 悪魔の微笑み】
きっかけはささいなことだった。
ただの、素朴な疑問だった。はずなのに。
この、頭のいい同級生に、質問してみようと思った自分が、
今となっては腹立たしい。
小学生のころから、この男とは、特に仲が良かったわけでもない。
つるむグループもまったく違っていたし、
自分とは、合わないだろうとぼんやりと思っていた程度の相手。
だけど中学にあがって、
小学校のグループとはクラスが離れ、部活にも入り。
いままでのように、放課後集まって空き地で遊ぶ、なんてことは、なかなかできなくなってしまった。
唯一、この男とは、クラスも、部活も同じだったから、なんとなく一緒にいるようになっただけで。
学年一成績もよく、頭の回転も速く、なのに驕らず、いつも優しげな笑みをたたえている・・・
この、出来杉英才という男と。
なんてことはない、ただの疑問だ。
成長期の、思春期の、よくありがちな。
昨日、ジャイアンとのび太がそんな話をしているのを聞いて、自分だけが知らないのは、癪だからと。
それをなぜ、この男に聞いてみようと思ったのかは、自分でも分からない。
「ほら、また手が止まってる。そんなんじゃ、いつまでたってもイけないよ?」
にっこりと、その整った顔で微笑んで、出来杉が耳元で囁く。
スネオは、くすぐったさに ふるっと肩をすくめ、
向かい合わせに座った出来杉の性器を再び握りこみ、ゆるゆると扱き始めた。
「ん?考え事してた?随分余裕なんだねぇ」
「んあぁっ!」
ぐりっ、と親指で先端をえぐられ、スネオはビクっと身を震わせる。
「『オナニーの仕方教えて』、って泣きついてきたのは、君なのにね」
「ちが、あぁ・・ぁ」
たしかに。今日なら家にはだれもいないから、と、誘われるままのこのこついてきたのは自分だ。
だが誰も、実地で教わることを望んでいたわけじゃないのに。
出来杉のベッドの上で、お互いのペニスを刺激しあう。これを望んでいたわけじゃないのに。
なんで・・・なんで、こんなことに・・・
「みてごらん、こんなに濡らして、やらしい子だね」
ひどく甘く囁かれて、俯き彼に握られた自分の、勃ちあがった性器を見下ろす。
彼の綺麗な長い指に擦られ、先からだらだらと、透明な液体を流しているペニスを。
その卑猥な光景に、ごくり、と喉が鳴った。
「そんなに、気持ちいいの?僕のもちゃんと触ってよね」
「ん、んん、っぅ」
ぬるぬるにされて、いっぱいいっぱい擦られて、頭がぼうっとする。
自分でもしたことないのに。 や、したことないから彼に聞いたんだけど。
初めてが人の手で・・・なんて、気持ちいいに決まってる。
出来杉を、自分とおんなじぐらい気持ちよくしたい、と負けん気に似たものを感じて、握る手に力をこめた。
ぐちゅぐちゅと、濡れた音が部屋に響く。その音にさえ、よけいに煽られる。
だんだん腰に力が入らなくなって、
巧みに弄られ、「ふぅ・・うっ、くぅん」と鼻から抜けるような声が漏れる。
息が、苦しくなって、ハ、ハと小刻みに深呼吸を繰り返す。
どうしよう、なんか、なんか・・・
「なんか、へんだよぉ・・・くるしっ・・ひアぁ・・ん」
「うん?もう出そうなの?」
優しげな声で聞かれて、わけもわからずこくこくと頷く。
「あ、ああ、あ、っ、も、だめ、へん〜〜〜 んンっ!」
「イっちゃいなよ」
「いあぁぁぁぁま、ママっ! ママ〜ァァあァァァ〜〜」
悲鳴を上げてスネオが果てるのと、
ほぼ同時に、
出来杉の性器が、ものすごい勢いで力を失った。
********** ********** **********
「ふ、うっぶ、う、む、」
ごめんなさい、って、何回言っても許してもらえなかった。
君が悪いんだよ、責任とってよね、と。
あの、優しい笑顔で。
微笑んでるのに、それがなぜか、すごく怖いと思った。
歯を立てちゃダメだよ?と、無理矢理喉の奥に押し込まれ
出来杉のモノを咥えながら、スネオは息苦しさに涙を流す。
やったこともない口での愛撫に、えずきそうになっても、出来杉はにこやかな微笑をたたえたまま、
スネオの後頭部を掴み、さらに喉奥へと引き寄せた。
「んううっ!ぅえぅ・・っ」
「苦しい?苦しいよね。じゃぁ、もう二度と『ママ』って言っちゃだめだよ?分かった?」
口調に疑問符こそついてはいるが、有無を言わさぬ態度と表情で、
同い年の男はベッドに腰かけた体勢のまま、ひざまずくスネオを見下ろす。
涙と唾液でぐちゃぐちゃになりながら、ペニスを咥えたまま馬鹿みたいにこくこくと頷いた。
ただ、はやく解放されたくて、ゆるしてほしくて、何度も。
「いい子だ。じゃぁコレ、最後までできるね?」
する、と首筋を撫でられ、やっと甘い声で囁かれて。
わけもなくほっとして・・・同時に、ゾクゾクっと痺れが走る。
中学生とは思えない、自分と同じものだとは思えないその立派に上を向く彼の性器に舌を絡めた。
アイスを舐めるみたいにすればいいんだよ、と教えてもらったとおりに。
「ん。ふ、う・・・こぇ、ひもちいい?」
上目遣いでたずねた出来杉は、相変わらず、何を考えているのか分からない笑顔だった。
「もうちょっと、がんばってね」
甘く、優しく囁かれるほど、背筋が痺れる。彼を怖いと思えば思うほど、目がそらせない。
今日この日まで、彼のことをいい友達だと信じていたのに。友達とは、こんなことしない・・・と思うのに。
出来杉に、見つめられるたびに。彼の性器を舐めしゃぶるたびに。
とろとろと悦楽を感じ、目の奥がじわりとにじむ。
知らなかった快感に、体ごと どこかに攫われてしまいそうだ。
こんなことをされても、ちっとも嫌じゃないなんて。
ぼくは、ほんとにどうかしてる。
「・・・がんばって、って言ったでしょ。なに考えてるの?」
つい愛撫がおざなりになってしまうスネオの、しゃがみこんだちょうど股間の部分を、裸足でぎゅむっと踏まれて、
「うゎあぁぁんっ」と叫びが漏れる。
思わず口を放しそうになったところで、頭を抱えられ ぐいっと押し付けられ、
「・・・ほんとに、なに考えてたの?こんなにしちゃって・・・悪い子だね」
布越しにも分かるほど、屹立したスネオの性器に気付いた出来杉が、おかしそうに揶揄する。
ぐりぐりと爪先を押し付けられ、踏みつけられるキツい痛みと、そのなかにある、感じたこともない、感覚に。
スネオは必死で出来杉の男根に吸い付いた。
ふ、ふぅっと鼻で荒い呼吸を繰り返しジュウジュウと唾液を絡め強く吸う。
「ぼくの舐めながら、感じてたの?君はほんとに、いやらしいんだね」
何故か嬉しそうな顔をした出来杉に、頭を撫でられながら、
ぐいぐいと、布地の上から、勃ち上がった性器をゆるく踏まれながら。
じわり じわりと、昂ぶってゆく。
空調のきいた室内なのに、背中も、首筋も、じっとりと汗ばんでいる。
心臓が、壊れてしまうんじゃないかというほど、どこどこと大きく跳ねるのが、耳に届く。
じわり、じわりと、
追い詰められて、逃げ場をなくして、
ゆっくりと、肉も、血も、骨までも残さず喰われていく。
末期にあげる悲鳴は、恐怖か、快楽か。
薄ら笑いで貪る獣には、一体どちらに聞こえるのだろう。
先走りで濡れた下着がズルズルと表面を滑る。
もう下着の中がぐしょぐしょになっているのが自分でも分かる。
足先で、愛撫ともいえないような、ただ踏まれて指の先で器用に擦られているだけなのに・・・。
それだけで、スネオは十分な快感を得る事ができるのだ。
しかし最後の決め手になる刺激は与えられないまま、
出来杉に、酷く優しい仕草で、頬を撫でられる。
「ふぅぅんっ・・」
足にも手にも、もうこれっぽっちも力が入らないというのに、それが嬉しくて、気持ちよくて、
もっと触って欲しくて、甘えた吐息で出来杉の剛直にすりより、舌を出して、流れてくる先走りを舐めとる。
さっきみたいな、絶頂をもう一度味わいたい、とは思うけど、なによりも、彼にもおなじくらい気持ちよくなってほしい。
他人に対して、こんなふうに思うのは、初めてのことで。
出来杉の先端から出るとろりとした透明な体液を飲み下しながら、胸の奥がこそばゆくなった。
「ほら、もうちょっとだから、がんばってね。」
「ん、んぅ。ん。」
「顔に、かけてあげるから・・・」
「―――――っン! ン ンン――――――――ッッッッ!!!!!」
瞬間、ぢゅううううっと吸ってしまった出来杉の屹立から、熱いものがほとばしった。
クッ、と一度息を詰めて、彼がスネオの口内から、自身を引き抜いたと同時に、
スネオの顔に、びしゃびしゃと、出来杉の精液がかかる。
勢いよく打ちつけられる熱い飛沫に、
目を閉じて、うっとりと恍惚の表情をうかべ
同時に、スネオもケイレンしながら、下着の中に吐精していた。
********** ********** **********
視線の定まらぬ先に、
ぼやけた視界に、出来杉の顔がある。
あの、蔑んだような笑顔ではなく。
まるで、愛おしいものを見る表情・・・、に見えるのは、自分の都合のいい錯覚だろうか。
スネオは、口の端に垂れてきた彼の精液を、ぺろりと舌で舐めとった。
苦くて、しょっぱい。
せーえきって、こんな味なんだな。とぼんやり思った。
けど、嫌だなんて思わない。それが、自分でも不思議でしょうがないんだけど。
「ね、出来杉君も、きもちよかった?ぼく、ちゃんとできた?」
顔を白濁で汚しながらも、首を傾げて無邪気に聞くスネオに、
出来杉は、えもいわれぬ表情を見せた。
「あぁ〜あ、馬鹿な子ほど、ってことかな・・・」
「ん?」
言われたことがよく分からなくて、聞き返したら、彼はスネオをひょいと持ち上げ
スネオの唇に、自分の口を合わせてきた。
「っ??」
「これが、キス。これぐらいは、さすがに知ってるよね?」
一瞬だけ触れ合って離れたそれを、スネオが名残惜しそうに眺める。
柔らかくて、あったかかった。
なんか、いまの、きもちよかった。
そう言ったら、
出来杉は、あ〜〜〜〜〜って、へんな声を出して天井を見上げた。
「じゃぁ、次は、もっとしてあげるよ。・・・くち、あけてごらん」
結局、たった一日で、すんごいことをいっぱいいっぱい教え込まれたスネオだったが。
「ぼく以外にこんなこと聞いちゃだめだからね。ママにも、だよ」
と、こんこんと、拷問にもちかい責め苦を味わわされながら約束させられたので、
それを出来杉以外に実践する日は、永遠に来ないのだった。
終わり
すべて愛の成せる業(にっこり)