「先生さぁ、明日映画いかね? 行くよな? はい決定!」




「・・・はあ?」




突然のサンジの言葉が飲み込めないのか、



ゾロは不可解そうに弁当箱から視線を上げる。





そんな顔も、かっこいいなぁ、とか思う自分はもう、だいぶんイカれてるらしい。






茜さす帰路







今は昼休み。学校の、教員準備室で。

国語の教師であるロロノア・ゾロと、二人きりで弁当を広げながら。



何がきっかけだったか忘れたが、こうしてゾロと一緒に昼食を取るようになって、はや一年。

いつも、怖そうだな、あんま近寄りたくねぇな。と思っていた教師と、

仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。



己の内に眠る恋心を、自覚するのも。




しかし相手は男。それもずいぶんと年上の。

その上、教師。

叶わぬ恋だって?

そんなの分かってんだよだからどうしたやってやれねぇことはねぇ!



「なんか〜?試写会のチケット当たったけど行けなくなったツレが?くれたんだけど?おれも急だから誰誘っていいかわっかんね〜し」


「・・・・・・・・」


「んで、先生ひまなら行かねぇかな〜?・・・と思ったんだけど、行くだろ?」


「・・・・・・・・」


「・・・・・そんな、憐れんだ目で見ないでもらえますか・・・」




ゾロがただ眉をひそめるのに、言葉を紡いだ勇気が、しおしおと萎れていく。



これでも・・・ほんとにこれでも、必死さを押し隠して誘っているのだ、こっちは。


共学校に通う男子高校生が、せっかくの休日に、わざわざ誘う相手が、男性教師。


・・・ヤバイだろ。充分判ってるよ。


だけど、どうしようもないんだ。




「あれだろ、どーせ、おれにはデートする彼女もいねぇんだろとか思ってんだろ!」


「いるのか?」


「・・っいねえーーよ!」


(おれさまはてめーに片想いだ彼女なんてできやしねぇよ悪いかこのやろう!)


半ばヤケになって叫んだところに。


午後の予鈴を告げるチャイムが鳴り響く。


「うあ、やっべ。次数学だった。おれ行くわ」


「・・・ああ、弁当うまかったぜ。ごっそさん」


わたわたと慌てて片づけをしだすサンジを、手伝いもせずに見やりながら、ゾロが礼を言う。


その言葉に笑って、部屋の扉を開けながら。


「あ。・・あ、あした、十時な。待ち合わせ・・・は無理だろうから、家まで迎えに行ってやる。起きてろよ?」


ガラガラバタン。 言うだけ言って、返事も聞かず後も見ず、サンジは廊下を走りだした。


今頃になって、上気して赤らんだ頬をおさえて。









++++++++++++++++++










(・・・ああ、そうだ。迷子。)


あれは、もう一年以上前。

放課後、廊下で、ぼーっと窓から外を見てるロロノア先生に声をかけたのが、始まりだった。


『ロロノア先生?・・・何してんすか?』


普段なら、サンジは自ら進んで男性教師に声などかけない。
―――むしろ男になど声をかける暇があればレディを口説くことに全力を注ぐ男だ。実ったことはないが。

いつもなら、さよーならーとか当たり障りなく挨拶して、話もせず帰っているところだった。



ロロノア・ゾロという名の国語教師を、さっきから、校舎の至るところで見かける、ということに気付かなければ。



振り向いたゾロに無言の視線を寄こされただけで、サンジは少し萎縮する。

・・・ほんの少し、不審に思っただけだ。

何してるのか?と尋ねて、見回り、とでも答えが返ってくれば、ふーんと言って立ち去るつもりだった。

怖そうだし、この先生。ほとんどしゃべったこともない。




だから・・・


『迷った。』


どーん! という効果音でも聞こえてきそうなほど胸を張り、真顔のゾロにそう言われたとき。

笑い飛ばす、とか、バカにする、とかそんな考えが浮かぶ前に。

サンジの胸が、きゅーーーーん と音を立てた。



あのときから。



無口だし、顔は怖いし、体はでかいし、厳しそうな、この男が、


たまらなく好きだ!!と思ってしまうようになった。




(迷子て!!そんな堂々と迷子ってせんせえ!!)

何がそんなにツボだったのかは、今でも、わからない。


『どこ行きてぇの?連れてってあげようか?』

なんとなく聞いたサンジに、彼は、『職員室。』と、こともなげに答えた。

・・・ちなみに、ゾロは、サンジが入学するよりずっと前からこの学校にいる。

『職員室・・は、となりの中央棟だぜ?なんで先生コッチにいんの?』

『あぁ、理系の棟に用があったんだが、あまり来ないんでな。帰り道が分からねェ』

『あー、先生、文系クラスだもんな、担任』

・・・よく考えれば、ゾロも授業を受け持っているので、理系棟にもしょっちゅう来ているはずなのだが。

『ん? でもなんで、窓から外見てたんだ?』

『このまま歩きまわるより、こっから降りて中庭突っ切ったほうが早えーかと思ったんだが』

『ふーん。・・・・・・・せんせー!?ここ、三階!!』

『やってやれねぇことはねぇだろ』

『せんせえええええ!?』


・・・もうだめだ!!この人だめだ!!!すげえー好きだーー!!!




最初は、真面目な顔してずいぶんと型破りな教師に、興味と好意をもっただけだ、と思っていた。

好奇心のほうが強いのだと。

それが、だんだんと、真顔でやらかすちょっとダメなとこが、なんかカワイイ、とか思うようになって。

見かけるたびに、声をかけるようになって。いろんな話もして。

苦しいぐらいに、胸がときめく、という感情を初めて知って・・・。



たぶん、ゾロのために弁当を作ってきて、一緒に昼休みを過ごすようになったころには、


もう、恋だった。








あれから一年以上経って。

今日、やっと、初めての、デート。 それもかなり一方的な。




いつも、思っていた。

休みなんかなけりゃいいのに、と。

生まれて十数年間、学校が休みの日だけを楽しみに生きてきたようなサンジが。

日曜なんか来なきゃいいのにと。 ゾロのせいで。




だって、会えない。



ただでさえ、教師と生徒。プライベートの付き合いもないから、会える時間なんて限られてるのに。

学校に行かなきゃ会えないのに。

夏休みも冬休みもクソくらえ。

土曜になるたびに、あぁ早く月曜になんねぇかなーと、そればかり考えていた。


だから・・・。


(一回ぐらい、バチはあたんねぇだろ)


最初から、ただの憧れなんじゃねぇの?とか、相手が男だとか、教師だとか、年の差なんて、

この想いを否定する理由にはならなかった。


この男を好きになったことを後悔することは、きっとないけれど。

なにも、ロロノア先生と付き合いたい、とか本気で思っているわけではない。

もちろん、ゾロのほうから恋愛対象として見てもらえるわけもないし。




ただ、これから先、卒業して、離れてしまったとしても。


昼休みに過ごす、あの短い時間だけを思い出に、生きていくよりは。


ただの生徒、から少しぐらい、進展した、と思える記憶がほしい。 それだけなのだから。




・・・たった一回だけ、大目に見てくれてもいいはずだ・・・そうだろ?



少しでも、そばにいたい。



こんな気持ちを抱くことを・・・。









++++++++++++++++++










どきどき、と、早鐘のように打つ心拍をおさえながら、サンジはインターホンに指を伸ばす。

朝十時。 迎えに行く、と約束した時間ちょうど。


・・・約束した、とは言え、返事も聞かないままのかなり勝手なものなのだ。

どうせ、ゾロのことだから、まだ寝てるんだろうと・・・いや、映画行こう、と誘ったのすら、覚えてくれているかどうか怪しいもんだな。


自嘲気味に笑って、呼び鈴を押そうとしたところで、


ふいにガチャっとドアが開いた。


「おう、早いな」

いきなり現れた、

薄いブルーのシャツに、ベージュのパンツ姿のゾロは

学校で見る時より、カジュアルで、ピシッとしてて(校内でのゾロの服装が、ヨレすぎているという説もあるが)

・・・かっこよくって。


サンジはとっさに言葉が出てこない。

まだインターホン押してないのに。という驚きと。

だいたい、だって、まだ寝てると思ってたのに。

おれと一緒に出かける準備なんか、してくれてるはずないと・・・。それなのに。


思わず、嬉しさにじわっと涙がこみ上げそうになってしまって、サンジは慌てて後ろを向いた。


「お、おはよ。先生、朝メシくった?」

「いや、まだだ」

「んじゃ、映画、昼からだから、先になんか食ってこうぜ。もう出れるよな?」

「ああ」

相変わらず、体がでかいから無駄に威圧感があって、口数は少なくて、

見えなくてもたぶん無表情のままで、抑揚のない声音で。

何考えてるか分からないところはあるが、


どうやらイヤイヤ付き合ってくれる、というわけではなさそうだ。


そのことに、ほっとして、サンジは顔をほころばせると、

初デートの第一歩を踏み出した。










と思ったら、もう終わった。


















食事をして、散歩して、映画を見て・・・時刻はすでに夕方。


楽しい時の過ぎるのは、なんと早いことか。



「・・・・・・映画、なかなかだったな」

「よっく言うぜ、あんた途中ほとんど寝てたくせに」

二人並んで歩きながら、映画館からの帰り道。

一応、とばかりに感想をこぼすゾロに、それでもサンジは笑顔で答える。


結局、上映開始から三十分ほどで、ゾロは寝息を立てだした。

まぁ、選んだのが、話題になったとはいえ、どちらかというと子供向けのアニメ映画だったので、いたしかたないとも言えるが。


「あ、でも、あの女の子はかわいかったよなぁ?」

「あ?どれだ?」

「どれって・・・そりゃ、主人公?」

「ああ、あの赤いのか」

「・・・そんな認識かよ!」

主役すら、ゾロの中では既に曖昧なのか、と思うと、逆に笑えてくるというもの。

「お前、守備範囲広いな」

「や、そーゆーことでもなくてね!?」


相変わらず、ゾロは人の話を聞いないようで聞いているので会話のテンポがずれ、なおかつ切り返しが予想外だ。

・・・そして、サンジにとってはそんなところも、案外ツボだったりする。


しかし、実を言えばサンジも、内容をまったく覚えていなかったりしたので、あまり人のことは言えない。



肩にもたれかかってきたゾロに、気を取られて。



覚えてるのは、なんか、おさかなのお姫さまの話だった、ぐらい。



あとはずっと、頬に触れる髪の感触だとか、寝てても顰められた眉だとか、意外と薄い唇だとか。



そんなものばかり、見ていた。






「可愛かった」


「・・・っへ?なにが?」



夕刻の、人々が帰路につく雑踏のなか。


ことさらゆっくりと、歩を進めながら、




少し記憶に潜り込んでいたサンジは、話の続きだということがすぐには分からずに、きょと、と問い返す。


「赤いの。そういや、お前によく似てんな」

「え、・・それっ・・て」


どきん、と鼓動が高鳴り、見上げた視線が、夕日に赤く照らされるゾロに向く。

目が合って。

一瞬、何も写していなさそうな・・・そのくせ、すべてを見透かしていそうな。

そんなゾロの視線が、今の自分には、少し居心地が悪い。

そう思うのは、下心があったからかもしれないけど。


「お前も丸っこいし、赤いだろ」


あ、ああ、そういう意味でね・・・。


「おれぁ丸くねぇし!・・・赤いのは、夕日のせいだろ・・・・」




おれのことを可愛いと、思ってくれているのだろうか、なんて、一瞬でも考えた自分、ばかみたい。




「先生・・・今日は、付き合ってくれて・・ありがとな」


うつむき加減で、少し口ごもりながら。


楽しかったとか、嬉しかった、なんて、サンジの口から、言っちゃいけない気がして。

それ以上、言葉を探せば。

抑えようと決めたはずの気持ちが、あふれ出しそうで。


「ああ、楽しかったぜ」


さらりとゾロが返すのに、たったそれだけで、サンジの心臓が跳ねる。


「うん・・おれも・・楽しかった・・・」




どうしてこんなに・・・見つめるだけで泣きたくなるぐらい、好きになってしまったのか。




たった一日、特別な日をもらいたかっただけだ。

友達みたいに、街を歩いて。 ・・・友達に、なりたかったわけじゃないけど・・。



月曜からはまた、いつでも、学校で、会えるじゃないか。


今までみたいに、普通の教師と生徒として、毎日を過ごしていけばいい、ただそれだけ。




なのに・・・



さみしい。





・・・しなきゃよかった。デートなんか。

学校の外でのゾロ、なんて知らなければ、

休みの日も一緒にいられる幸せ、なんて気付かなければ・・・


これからも、彼の前では、ただの生徒を演じていられたのに。





「せんせぇ・・・・」


聞こえるかどうか、ぐらいの、消え入りそうな声で呟いた。


この声も・・・・・・ 気持ちにも・・・・・・ 気付かないでいてほしいと願いながら。


「ん?」


ゾロが足を止め、サンジを振り返る。




帰路はもうすでに、サンジとゾロの家の間の、人気のない別れ道に差し掛かっていた。




「先生・・・・・・なんで、あんた・・・・・・先生なの・・・」


「・・・・・・・・・」



この人がいい。この人じゃなくちゃいやだ。


そう心から想う相手が、絶対に結ばれない相手だなんて・・・。




未来を願うことすら許されない恋だというのに。


一時でも・・・ゾロの、特別に、なれたみたいだった・・・なんて、思っちゃ駄目なのに。



(・・・なに、言ってんだろ、おれ・・・)



心の中がぐちゃぐちゃで、泣いてしまいそうだった。



ゾロが、どんな顔をしてるのか、見るのが怖くて。


「ごめん・・・なんでもない・・・忘れて・・」


うつむいたまま踵を返す。


じゃあ、また、学校で・・・。と言って去ろうとしたサンジの、



右のほっぺたを、



いきなり背後からゾロがつねった。 それも、かなりきつく。




「〜〜〜い゛たいたいたぃたいた!!!いひゃい!!ひぇんへえ!!」



何が起こったのか分からず―――なんで掴む部位が腕とか肩とかじゃなく頬なのかも分からず。

とりあえず痛みに抗議するが。



「おお、やらけぇなー」


・・・そんな的外れなとこで感心されても!!



「いらぃ!」


「うるせぇ。」


「ひど・・!」


振り向いてもまだ頬をつねりあげる手を離してくれず、痛いつってんのに煩いときた。


つか、怒るとこだよな?ここはおれ、非難してもいいとこだよな?!


憤り半分、なのに、気持ちの残り半分で、うれしい、とか思うおれの馬鹿!



「あのなぁ、それはこっちの台詞だ」


やっと手を離したゾロが、半ば呆れたような顔で、サンジを見下ろした。


「おれ、ひどくねえもん!」


じんじん痺れるほっぺたをさすりながら、見上げる目にうっすらと涙が浮かぶ。



「俺はな、わざわざ休みの日を生徒相手に潰すほど、暇じゃねぇ」



ゾロの、その言葉に。


いきなり、冷水を浴びせられたうえに焼けた鉄を押し付けられたような衝撃が走った。


心臓を、鷲掴みにされたみたいに、絞めつけられて、ひどく、息が苦しい。





・・・そりゃ、ゾロの意見なんて聞かないまま、勝手に決めたけど。


いまさら、そんな追い打ちかけるようなこと、言わなくったって・・・。


おれと出掛けることが・・・嫌だったんなら・・・迷惑なら・・・


あのときはっきり、断って、くれれば、よかったのに・・・





胸が痛くて痛くて。苦しくて。 さっきとは違う涙が溢れそうになって、サンジはぐっと眉根を寄せる。



当り前のことを言われてるだけ。



こんなことで傷つく権利なんて、自分にはないんだから・・・。





「・・ごめん・・・先生・・・」



「お前こそ、なんで生徒なんだよ」



「・・ごめ・・・・・え・・?」




目を開けた、少しぼやけた視界の向こうに、ゾロが見える。



いつもみたいに、しかめっ面で。



最初のころは、怖そうだな、と思っていたその表情で。



どこかで聞いたような台詞を口にする、ゾロが。





「なに・・・せんせ・・・」


どくどくどく、と出鱈目に脈が速くなるのを感じる。


「言っとくが、あとで『やっぱり違いました』つっても聞かねぇ。俺はしつけェぞ。」


喉が、カラカラに乾いて、 無理やり息を吸うと、ヒュっと音がした。


「な、んで・・・」


口を開くと、自分のものじゃないような、掠れた声が漏れて。




だって、おかしい・・・。 どうして、ゾロがそんなことを言っているのか分からない。




「だって・・・・・・あんた、教師だし・・・おれ、男だし・・・」




けれど勝手に、サンジの口からはそんな言葉が出ていた。




「だからなんだ。 『お前は』、どうしたいんだ?」



「・・・んな、カンタンに・・」



どうしたいか、の答えなんて、


そんなの、ずっと前から決まってる。




けれど、言えば、終わってしまう。


楽しかった時間も・・・この関係も、何もかも。



「簡単なことだ。思ってること言え」



それは、言っちゃいけないこと・・・だったのに。




(もう、いい・・・もうやめたい。)




たぶん、最初から知ってたんだ。 と思った。



サンジが、ゾロのことをどう思っているかなんて、知ったうえで・・・・知っていたからこそ。


ゾロは、サンジの口から言わせようとしているのだ。


終わりにするために。






だから、もうこれが、きっと、最初で・・・最後。





「・・・・・・ぃ、・・っしょに・・・・いたいです・・・」





どんな言い訳をしたとしてもこんなの、もう好きだと認めたのと同じだ。




やっとサンジの喉から出た声は、ひどく嗄れて、震えていた。




「なら、居りゃいいじゃねぇか」




微塵も迷いのないゾロの瞳に見詰められて、涙が出そうになる。




(・・・やだ。 もうやだぁ・・・なんでそんなこと言うんだよ・・・)




ゾロの言葉を都合よく、理解したがる自分が浅ましくて。





「・・・お前、卒業まで、周りを騙せるか?」





堪えていた涙が、ぼろっと零れ落ちた。





いつもみたいに、抑揚なく言われてるのに、なぜか、その声が優しく聞こえて・・・。






そんなこと、ありえねェのに。




同じ、気持ちでいるのかと、思ってしまう。 期待してしまう。



サンジがゾロに恋をしたように。



ゾロも、自分のことを想っていてくれているのか。なんて・・・













「・・・なんで・・・? おれ、あんたが・・好きだって、言ってんだよ・・・」






「だから、俺もそうだって、さっきから言ってんだろ」








その言葉が耳に届いても、理解するのにしばらくかかった。



ふぇ・・?と泣き顔でゾロを見上げるけど。



沈みかけた夕陽で、その表情がよく見えない。




「・・そう、って・・・なに・・?」




「お前が好きだって」




「・・・・・・・・い、言ってない!」




「そうか?」



サンジが叫びに近い声をあげるのに、



大して気にも留めていなさそうなゾロが、近づいてくる。




涙で濡れたサンジの頬を、拭われて。



でも、体が固まったまま動けない。




「ンな顔されるぐれぇなら、いくらでも言ってやる。」





どんな顔をしていたのか、自分では分からなかったけれど、




「先生・・・・おれ、いいの・・・?好きでいても・・・」



きっと、今は、すごく情けない顔をしてるんだろうと思う。



だって、ゾロは教師で。好きになっちゃいけない人で。



どんなに想っても、叶うことなんかないと、諦めていたのに・・・




「いい、とか悪い、じゃねぇ。好きでいろ。・・・それとも、やめてぇか?」



事も無げにゾロに言われて、サンジは慌てて、ふるふると首を横に振った。



我慢なんて、できるわけがない。



ゾロを誘った時から・・・・ううん、出会ったときから、きっともう・・・。




「せんせぇ・・・・すき・・・・」



想いは溢れて、もうどうしようもなく。止められるわけなんかなかった。




ゾロの胸板に顔を押し付けると、体温の熱さに、



じわりとまた滲んだ涙が、コットンのシャツに吸い込まれる。





サンジの肩を、ゾロが抱きしめると、




「お前も、覚悟を決めろよ、サンジ・・・」



低い声でそう言った。




それが同時に、ゾロにも覚悟が必要なのだと気づいて。



けど、それでも構わないと、言ってくれてるようで。




「・・・うん・・・」




サンジは、ゾロの胸に深く抱きついた。




「ま、たかが残り一年半だ。やってやれねぇことは無ェだろ」




そのあまりにもな台詞に、驚きを通り越して、思わず笑いがこみあげた。











ゾロに、いつから気づいてたのかとか、


いつ、サンジの気持ちに応える気になったのか、とか。


今度、聞いてみよう、と思う。








いつになっても・・・いつまでも・・・・



ずっと、一緒にいられることを願いながら






  end













シリアスと言い張るには、あまりに違和感のある話・・・



お読みいただきありがとうございましたvv



7777HITで「教師ゾロ×生徒サンジ」をリクしてくださった某様、ありがとうございました〜〜